第155話 S-5 螺旋の始まり -3
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調律者の管理が社会の隅々まで深く浸透していく中で、ヴァルカンは人類が真の自由を失っていった過程を記録していた。
魔族のような存在が、この「管理された繁栄」の中で、人間性を逸脱した行動(より効率的な労働を求めるために、人々の精神を疲弊させるような「試練」を与える)を容認し、調律者の意図する「選別」を加速させていた。
魔族の襲撃は、王国の防衛システムを「テスト」し、人々の結束を「強化」する役割を果たしていたように思えてくる。
王国の繁栄は続なかで、その調律の螺旋はより深く、そして人々の自由を蝕んでいく。
ヴァルカンは、王国の歴史の真実を後世に伝えるため、記録を完成させた。
彼の記録は、古文書庫の深部に、ひときわ古い石の箱に収められ、未来へと託された。
それは、数字や法令では語られない、生命の悲鳴と、それに気づかぬ人々の姿を映し出していたのだ、と私は考えている。
1000年にわたる繁栄の螺旋。
それは、輝かしい歴史であると同時に、見えざる鎖に繋がれた、偽りの自由の物語であった。
祖先たちの善意、努力、そして信仰の全てが、調律者の掌中で踊らされていたという事実。
この屈辱を、この魂の叫びを、私は決して忘れない。
この王国の、そしてガイアの未来を、決して『予定調和』のままにはさせぬ。なぜ誰も、この巧妙な支配に気づかなかったのか。その『不思議さ』が、私の心に静かな怒りを燃え上がらせる。
この『調律』の螺旋を、私の代で必ず断ち切る。そのために、私はこの玉座に座る女王なのだ。
王立学術院の公式論文集には、セバスチャンをはじめ多くの先人の功績を称える文書が多数掲載されている。
彼らが、王国の生活水準向上に大きく貢献したことは、疑いようのない事実だ。
しかし、その輝かしい功績の影で、何が失われたのだろうか。
私は、彼の論文の中に、時折現れる「謎の賢者の助言」という記述に注目する。
それは、彼の研究を飛躍的に進めたとされるが、その賢者の素性については一切触れられていない。
まるで、そこに「人間」の介入があったことすら隠蔽しようとしているかのようだ。
私は、さらに古い時代の蔵書目録を繰る。
そこには、確かに「大災禍時代の動力学」や「世界の根源に関する考察」といった、今は存在しない、あるいは閲覧制限されているはずの文献の記録が残されていた。
だが、それらの記録は、何者かによって巧妙に塗りつぶされ、あるいは切り取られている。その行為は、知識の探求ではなく、むしろ「隠蔽」を目的としたものだとしか思えない。
この「欠落」の多さが、私を深く困惑させる。
なぜ、私たちは真実を知ることを許されないのだろう。なぜ、自らの手で目隠しをさせられなければならないのだろう。
この完璧な知識の「編集」は、一体誰が行ったというのだ。
王国の知識と文化は繁栄するが、その背後には見えざる「編集者」の存在があり、真の自由な探求は失われていく。
セバスチャンは自身の功績に満足し、知識の探求こそが人類の未来を拓くと信じるが、その探求が調律者の掌中にあったことに気づかなかった。
さらに歴史を読み解いていくことでわかることもあるだろう。
現時点での私の考えは、仮説であって、先入観に囚われているだけなのかもしれない。
それを確認し、必要であれば過去と決別することが必要になるかもしれない。
私は、時間が許す限り、真実を探求せねばならない、と誓った。この国を、この世界を護る責任を負うものとして…。
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私は、秘録のページをゆっくりと閉じた。
王国の繁栄は、見えざる手によって『調律』されてきた。
その真実を知った時、星を紡ぐ者たちは、自らの旅が、いかに巨大な陰謀の一端を担っているかを理解しただろう。彼らの背負う使命の重さが、この書庫にまで伝わってくるようだ。
この真実が、彼らの心に新たな決意を刻み込むことになるだろう。
アークナイツやミネルヴァと別の形で、セレフィア女王は戦っていたのだ。
私はこの事実をこの歴史書作成を通じて初めて知った。
彼女が『黎明の女王』として、新たな国造りを決意したのは、このような背景があったのだと、私は強く感じていた。
次に紐解く記録は、彼らがその真実と向き合い、新たな試練に挑む姿を語る。
真の戦いは、ここから始まるのだ。
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