命尽きるその瞬間まで。

「そしてー…えええっと、誰かに電話をかけさせる!」

「誰かとは誰だ」

「…それは…」

私は詰まった。

あぁ、手詰まりだ。もう手詰まりだ!

誰に私が護るその人を助けてくれと、頼めるというのだろう??

第一私は人間には姿が見えない。声も聞こえない。「気づき」だけでは弱すぎる。これから先の危険なんて伝えられるわけがない。


「いいか、東子。そういうときは協力してくれる者を探せ。人間の中には霊的存在を感じやすい者もいる。そして護るべき者に近しい者や、彼らを護る守護霊に働きかけるのだ。近しいものは、おまえの主人が危険だと察知すれば何らかの行動を起こすだろう。たとえば父、母、兄妹、老父母などは特に」

「でも。…もし見つからなかったら?見つけても、気づいてくれなかったらどうすれば」

「大丈夫だ」

だんだん焦ってくる私に、大ジィ様はあっさり言った。


「なぜならおまえが付くことになるその子は

そんな危険な目に遭うことはないからだ」

「なっ…なにそれ!!」

私はムッとして大ジィ様を睨んだ。

「ものの例えとして問題を出した」

大ジィ様は涼しい顔で言う。

「だがいざというときの想定と心構えはしておかないといかんからな」

湯呑みを弄びながら大ジィ様は続けた。


「ひとりひとりの人間の寿命は定められている。寿命が来て死ぬのは致し方ない。

よって突発的なことが起こらない限り、生き死にに遭遇することはない。

寿命のときでない限り、よしんば怪我をしても死ぬことはないということだ。

だが、中には不注意や事故で大きな怪我をする者もいる。それによって一生消えない傷を負ったまま、生きることになる者も。

寿命同様、どんな怪我や病気をし、どんな人生を生きることになるのかはその人間に定められた宿命だ。

だがたとえどんなに重いものを背負ったとしても、その者の生き方ひとつでハンデは軽減される。

反対にどんなに恵まれていても、道をたったひとつ誤っただけで幸せから遠ざかってゆくものもいる。

あくまでも道を決めるのは人間だ。

守護霊は、付いた者がどのような道を選ぼうと邪魔できない。辛くても見守らねばならん。

気づきを送り、励まし続ける。そして出来うる限り、光の道へ導いてやるのだ。

命尽きるその瞬間まで。 それが使命だ」


それから大ジィ様は、腰に挟んだ扇子を取り出しすっと羽先を上に向けた。

「これをおまえに預ける」

大ジィ様の右肩あたりに大きな楕円形の鏡が現れた。

「これは現世を映す鏡だ。おまえが見たいものが見られる。おまえが付くことになる人間やその家族、友人の様子も」

「見護るべき人間と離れているときも、これがあれば様子がわかる。危険を知らせるときもある。持っていろ」

大ジィ様が扇子の先を軽く私に向けると、鏡はすぅ、と私の胸のあたりに消えた。

「それから。」

大ジィ様は私を穏やかな面差しで見つめた。

「守護霊といえど、チカラを使って動き回れば疲れるだろう。そんなときは休め。この場所を好きに使っていい」


…そうか。この場所は。

私のために作ってくれた空間(部屋)だったのか。

「…ありがとう。ジィちゃん、私頑張るよ」

私は笑って、いた。


「うむ」

大ジィ様はうなづくと、

「おおまかな説明はこんなところだ。やってみなければわからんからな。詳しいことは先達者に聞け」

先達者??

「では東子。鏡を出せ」

庭を背にして空に浮かんだ鏡には、ひとりの女性が顔をしかめて映し出されている。

「そろそろだな。行くぞ」






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