3 〜銀髪の乙女は寝台に沈む〜

その晩。

カリナは緊張して、大きな寝台にいた。


これから、この寝室で、初夜を迎えるのだ。


自分の立場は、対外的にはまだ婚約者だ。

だが、こうして夫の家に送られた以上は、妻の役目を求められているのだろう。


自分に、夫を拒む権利はない。


婚約した後は、互いの家を行き来して、それから成婚に至り、嫁入りと初夜の儀を迎えるのが古くからの慣例とはいえ。

今は、夫の家に住む時点で成婚であり、初夜も早々に行うようになってきている。


離縁を許さぬために、婚約してすぐに令嬢の身を捧げるのは、この国の貴族社会においては何ら不思議のないことだった。

要は、令嬢の純潔を奪ったのだから、離縁は許さぬという、嫁の家からの脅しだ。


だが、その一方で。……初夜がうまくいかなければ、成婚,第一夫人としての地位の宣言に至らぬ例もあるという。

特に、令嬢の身分が夫の爵位より低いときは。


純潔を貴族の男に奪われて、どこの正妻にもなれずに社交界から消えた、新興貴族の娘も少なくない。


もちろん、さすがに辺境伯が公爵家令嬢をそのように貶めることはできないが、

夫を満足させられなければ、正妻とは名ばかりで、よそのもっと地位の低い令嬢が夫人の実権を握るかもしれない。


母のように、実家へ下げられてしまうかもしれない。

いや、カリナは、父と妹のいる実家には、下がることもできない。


カリナは夜着の胸元を押さえて震えていた。

そろそろ、ファングもこの部屋に来るだろう。


彼に妻として認めてもらえなければ。

自分はどうなるのだろう。


令嬢が夫に純潔を捧げるその時は、身も心も何一つ隠さずに、夫に明け渡す。

ということしか、令嬢たちは知らない。


子を得るための秘儀の詳細は、夫に習うのがしきたりだ。


だから、今、カリナは怖いのだ。

夫に純潔を捧げるための特別な白い夜着をまとい、震えている。


ぎぃ、と重い扉が細く開いた。

寝室に、男が入ってくる。


「まだ、起きていたか」

夫となる男の、低い声が囁く。

寝台が軋む。


布地の薄さは、

カリナの身を守るにはあまりに心もとなかった。

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