第1頁目 胡竜の夢?
痛い。身体が重い、熱い。なんだ……これ。何も見えない。
手足の感覚が妙だ。少し動かしてみる。
ぴちゃ……ぐちゃ……ぱりっ……。
その音を頼りに、少しでも現状を把握するよう試みる。『ぴちゃ』というのは水音だ。しかし、その音は身体からもする。だから『ぐちゃ』という重々しい水音がするのだろう。理由は明白だろうな。血、それ以外ありえない。校舎の屋上から落ちたのだ。見えない、いや、見たくもないが……全身血だらけだろう。
だとしてもぱりってなんだ? ……骨なのか? 手足を動かす度にまた『ぱりっ』と乾いた音がする。
ん?
手に当たるこれはなんだろう。これがその音の正体みたいだ。かなり硬い。ちょっと強めに叩こう。
バリッ。
割れた。暗闇が割れた。いや、俺が今暗闇を割った。
少し悟る。
俺は死んだんだ。今さらだが、身体の痛みも引いてきている。こんな状況、普通は信じられない。急になら飲み込めないはずだが、まず屋上から落ちるという経験をした後でこれだ。神でもなければ、こんな演出できないだろう。
そう考えた途端、胸の奥からどうしようもない悔しさがこみ上げる。
……なんでだよ。なんでなんだよ。俺はまだやりたい事があったんだ。やりたい事がないとか思ってたけどそうじゃない。こういう事じゃないだろ。悩んだり考えたりする暇もなく「死ね」なんて、おかしいだろ!
嫌だよ。母さんと父さんに会いたい。カズやショウ達とまだ馬鹿やってたい。彼女だって、まだ作ってない。
「うぁ……うああぁ…………。」
こらえきれない。まだ確証も得てない推測が絶望的過ぎて、何年ぶりかもわからない号泣。
「あああああぁぁぁ………………ぁ?」
その光に
射し込む太陽の光、青い空と白い雲、
うまく立ち上がれないのだ。
だが、そんな違和感はこの世界への違和感に比べたら大した物ではない。物ではないが、うまく立てない。どうしても尻もちをついてしまう。何度か試している内にイライラして、つい地面を叩くとガリッという音と共に鋭い痛みと慣れない感覚を覚えた。
――もう、何度目だろう。
驚き過ぎるという感情に天井はあるんだろうか。過ぎているのだから天井は無いのか? とりあえず尻もちをついたまま思案する。考えの整理が必要らしい。
今、俺は何処ともわからない大穴の底にいる。ここは骨と腐った肉ばかりで安全な場所とは思えない。とりあえず探索をしようとしたが、上手く歩けない。それどころかなんだこれ。身体が灰色だ。語弊があるな。身体が
まず……導き出せる回答として可能性が高いのは
考えるのが面倒になってきた。色々な衝撃のせいで恐怖や危機感が薄れてきてしまう。
でも、血は赤いんだな。なんて先程地面を叩いた時に手に刺さった尖った骨片を取り除きつつ安堵する。
俺が自覚していないだけで身体は震え、目には涙が
人は予想だにしていない爆音を聞くと心の平穏が損なわれる。それは驚愕と恐怖によるものだ。それがクラッカー、そうでなくとも雷までなら俺は
咄嗟に比較的大きな卵の殻を被る。声の主が何かはわからないが、楽観的に無害な生き物だとは到底決めつけられなかった。じっ……と息を殺していると大きな翼が羽ばたく音が近づいてくる。そして、先程聞こえた咆哮がより、大きな声でけたたましく大穴の中に響いた。
恐怖により俺が身を
いた。
大樹の上にある鳥の巣に降り立つ咆哮の主。プラスチックの様に
雛に餌をとってきたんだろうな。しかし、これでもう間違いはない。アレはドラゴンで、ココはドラゴンの巣で、オレもドラゴンなんだろう。……なんかもう……ニッチかつベタな夢だ。
なんてため息を吐いているとまた親ドラゴンが吠え、飛び立つ。思わずたじろいだが、何故かその声に仄かに
アレ? 俺の身体はあんな柄じゃ無いんだけどな。あのドラゴンは俺の親じゃないのか? ……俺の親は誰なんだ? 卵はここにあるしなぁ。……なんか色々驚き過ぎてお腹が空いてきた。
……餌どうすんの?
恐らく大樹の上の巣は自分の巣ではない。それにこの大樹は身体が人間であったとしても登れないだろう。上からは、雛が先程親ドラゴンを持ってきたであろう獲物を食べる咀嚼音が聞こえる。
いいなぁ。
その気持ちに応えるように上から骨が
「あぇー……おぇおえおお…………?」
決して驚きの連続で
「
舌を噛んで
じゃあ……食べなきゃ……。
もう動くはずもない生首と目が合う。ぬらりと輝く赤黒い血が
嫌だ。お前みたいになりたくない。
この世界に
少しづつ動かすことに慣れてきた手で、最初に落ちてきた肉のこびり付いている骨を手に取る。ふと匂いを
試しに
…………あぁ。もう駄目だ。これは、美味しい。血から得た臭気は臭いではなく、香りと言っていいモノだった。
その刺激で煽られた食欲を止める理性は、俺にもう、残っていない。カチャン、カシャンと落ちてくる骨を一つ一つ拾い上げては鋭い歯で肉を
*****
俺が我に返ったのは眠りから覚めた後だった。いつ寝たんだろうか。辺りは暗いが、星と月の明かりが自分と周りの骨を照らしてくれている。目の前にあるのはまだ衣装替えを終えたばかりの
俺はよく知らない。ドラゴンがどういう動物なのかを。
牙と爪は獲物を狩る為にあるから、研いだりしたほうがいいのだろうかとか……。いや、まずは歩き方だ。四足でも二足でも、難なく移動出来るようにならなければ。翼も多分移動の為にある。空を飛ぶ練習もしよう。空を飛ぶのは人類の夢だしな、なんて……。それと、今日の親ドラゴンを見た限りコブの位置には角が生えるらしい。アレも何かに使えるんだろうか……縄張り争いとかかな……。後は………………尻尾か。尻尾って何に使うんだ。重心を取る以外では攻撃くらいしか浮かばない。
*****
平和ボケした日本での生活が、彼の楽観的な思想を育成したのである。だが、その感覚がこの世界では酷く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます