水龍と行く旅路

東井タカヒロ

最後の相棒

 それは僕の全てだった。

 全てを手に入れたその日、僕は全てを失った。

 能力も、親友も、友達の、家族も全て失った。

 ただ一つ残ったものはこの身一つだけ。

 この物語は僕が全てを取り戻す物語だ。


 苦悩も、理不尽も全て打ち砕いてやる。

 

 僕はその日全て手に入れた。

 この世界の神と同格の存在となった。

 全てが自分の手の中だった。

 だが、思い上がっていた。

 いつ神と同格の存在が一人だと決めつけていた。

 今や全てを失い、この身1つだけになってしまった。

 全てを取り戻し、僕をこんな目に合わせたやつを殺す。


 誰がやったかというと誰か分からない。

 突然攻撃してきて負けたのだ。

 まずは仲間を集めないいけないな。

 手始めに友達であり、守護神と言われる水龍に会おうと思う。

 元々使役していたが契約が解けてる為、今は水龍の祠にいることだろう。

 正直に言うとここで水龍がいなかった場合僕は詰む。

 ここはルーブストの町か。

 山岳地帯にある町で山岳都市では2番目に大きい。

 祠に近いのが幸いか。服を売って金に……。

 流石に全裸で山岳地帯は無理だな。


 能力の1つも無いのに山岳地帯で全裸になることは自殺を意味する。

 しかし、少し世界を改変されたような気がする。

 どこか違和感がある。

 空か。


 「どうしたいんだい、兄ちゃん。空なんか眺めても何も降ってこんよ」

 「そうだな、今は何時だ?」

 「今は大体正午だぞ、気は済んだかい」

 「あぁ」

 正午か。

 太陽が黒い。

 これが違和感の正体か。

 僕を倒したやつを仮に疑似神とでも言おうか。

 そいつと衝突した時に出来たものなのか。

 それとも僕が負けてから改変したものだろうか。

 何故?どのような理由で。

 「兄ちゃんそこ邪魔だ、どきな」

 馬車か。もしかしたらあれが使えるかもしれないな。

 全てを失ったが、これは使えるかもしれないな。

 禁術。

 この世界の5大国と聖教によって定められた禁忌の術式。

 禁忌の理由は様々だが、この状況で使えるのは禁術の7番。

 命を対価に1つだけ能力を付与出来るものだ。

 付与の時間は1日だけ。

 何故これが禁術となってるかというと一番の要因が他人に能力を付与出来るという点だ。

 奴隷を買い集めてこの禁術を使えば悪用し放題だからな。

 何故そんな術を知ってるかって?

 秘密だ。

 さて、そこにいる時間を教えてくれたおじさんには悪いが犠牲になってもらおう。

 禁術の7番の発動方法は呪文を唱えた後、犠牲となるものに触れること。

 生物であれば何でも良いがここらへんには動物がいないからな。

 「わりぃな」

 そこにいたおじさんへ触れるとおじさんは膝から崩れ落ちた。

 付与する能力は「瞬間移動」瞬間移動の効果は見えるところに飛べるというもの。

 これでだいぶ時短が出来たな。

 移動中にこの世界について簡単におさらいするか。

 この世界には5つの国があり、それぞれの地域を管理している。

 人間の国アウラ、魔人の国メウ、聖教の国聖都、要塞の国カウメア、禁足地の国キララの5つで出来ている。

 聖教とはこの国で一番信仰されてる宗教だ。

 宗教団体と言っても自警団に近い気がする。

 聖教本部には円卓の騎士と12人の聖騎士がいる。

 正直戦闘部隊はそれだけだし、礼拝とかの時間もない。

 食い物を無料で配ったり、何でも屋だな。

 後、この世界には能力というものが存在し、才能や努力などで手に入れることが可能だ。

 さっき使った禁術とか例外もあるが基本的に才能の能力は手に入れることが出来ない。

 もう着いたか。歩くと9日かかるのを8時間でこれてしまった。

 恐るべし瞬間移動。

 祠の中は湿っていて、苔がそこら中に生えていた。

 魔物が普通はいるはずなんだけどな。

 いない。

 結局魔物に遭遇することなく水龍の間まで来てしまった。

 「水龍いるか?」

 頼むいてくれ。

 「おるぞ」

 良かったいた。

 「しかしまぁ負けるとはね、流石にあれは予想出来なかったよ」

 水龍は俺の方を見るなり口角をあげた。

 「水龍よ、もう一度仲間にならないか?君とならもう一度行ける気がするんだ」

 水龍は姿勢を崩すことなくその場に留まっている。

 「水龍?」水龍は立ち上がると返答した。

 それは僕の予想を超えるものだった。

 「つまらんな」え?水龍?

 「だって付いてきてくれたじゃないか」

 水龍はため息をするとこう答えた。

 「貴様が強く、面白そうだったから付いて行ったに過ぎん。小童が図に乗るな」

 水龍。

 「なら力ずくで従わせるだけよ」

 水龍はしばらくの沈黙を挟むと「良いだろう」瞬間移動で背後に周り畳み掛ける。

 「水の遊戯」水龍の固有能力!範囲内の水を自在に操ることが出来る能力。

 だが、相性が悪かったな。

 瞬間移動で逃げるだけよ「目障りが」

 「言っていられるのも今のうちだぞ」

 「そうか、終わらそう。六面切断水」

 なっ、前回戦った時はそんな技。

 あっさり四肢を切断された僕は為す術もなく地面に落ちた。

 「前回はそんな技使わなかったって顔してるな。使わなかったのではなく使えなかった。貴様が持っていた固有スキルの1つにあったろう、それが無くなった貴様はただのゴミだ。失せろ」

 六面切断水の効果は発動者から目の前を6角形の網目状に切断するものだ。

 密閉された空間に近い水龍の間では避けることは不可能に近い。

 「じゃぁな、元相棒」

 胴体を残したのは最後の情けだったのかもしれない。

 「俺は世界を旅をすることにするよ。せいぜいそこでくたばってることだな」はハ。

 結局僕は全て失っていた訳だ。今この時改めて、この物語は全てを取り戻す物語だ。水龍は旅をし、何と出会い何を取り戻すのか。

 「さぁてどこから行こうかな。」

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水龍と行く旅路 東井タカヒロ @touitakahiro

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