第7話 廃墟の静寂と二人の秘密

 月島凛桜とのキスから数日後。零の心は、彼女との関係が、他のヒロインたちとのそれとは、全く違うものだと感じていた。明香里、七瀬、葵との関係が、零の承認欲求や性的好奇心を満たすものであったのに対し、凛桜とのそれは、彼女の傷を癒したいという、零の純粋な思いから始まったものだった。


 しかし、凛桜が零に告げた、「廃墟」という場所と「奉仕」という言葉は、零の心に、また別の感情を芽生えさせていた。彼女は、本当に過去のトラウマを乗り越えたいと願っているのか。それとも、零への奉仕を通じて、自らを罰しようとしているのか。零は、彼女の心の奥底を、まだ見ることができずにいた。


 放課後、零は、凛桜が指定した廃墟へと向かった。埃っぽい空気が漂う薄暗い空間で、凛桜は零を待っていた。彼女は、普段の身体のラインを隠すような服ではなく、薄手のシャツにショートパンツという姿だった。


「零くん……私、昔、嫌なことがあったの」


 彼女は、ポツリポツリと、過去の性的なトラウマを零に語り始めた。零は、ただ黙って、彼女の言葉に耳を傾ける。


「だから、私……汚れてる。もう、誰にも見つけてもらいたくない」

 凛桜は、零に背を向け、震える声でそう呟いた。


「でも、零くんの写真を見て、思ったの。零くんなら、私のこの汚れた身体を、もう一度……綺麗にしてくれるんじゃないかって」


 零は、彼女の言葉の裏にある、「傷を癒してほしい」という切実な願いを感じ取った。零は、彼女の震える背中に、そっと手を回す。抱きしめると、凛桜の身体は、零の腕の中で、小さく、そして温かく感じられた。


「僕は、君を汚いなんて思わない。君の心も、身体も、とても綺麗だ」


 零の言葉に、凛桜は顔を上げ、零の瞳を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、再び、一筋の光が戻っていた。零は、彼女の頭を優しく撫で、その唇に、そっとキスを落とした。


 キスを終えると、凛桜は零のシャツに手をかけ、ゆっくりとボタンを外していく。

「零くん……お願い……私を、汚い身体だって、罵って。そして……君の愛で、私を、綺麗にして……」

 彼女の声は、命令口調ではなく、零への切実な願いへと変わっていた。零は、彼女の言葉の裏にある、過去のトラウマを乗り越えたいという強い意志を感じ取った。


 零は、彼女の願いに応えるように、優しく彼女を抱きしめたまま、廃墟の壁に押し当てた。零の繊細な愛撫は、彼女の心を少しずつ開かせていく。凛桜は、零の愛撫に身を震わせながらも、拒絶することはなかった。彼女の肌は、零が想像していたよりもずっと滑らかで、柔らかかった。零は、彼女の身体を優しく撫で、愛おしそうに見つめた。


「零くん……お願い……私を、君の愛で、満たして……」


 凛桜は、零の瞳を真っ直ぐに見つめ、そう懇願した。零は、彼女の言葉に応えるように、その身体を深く、そして熱く求めた。


 廃墟の薄暗い空間で、零と凛桜の身体は、互いの孤独と傷を埋めるように、静かに重なり合っていく。それは、性的な行為だったが、零にとってそれは、欲望を満たすための行為ではなかった。それは、凛桜が過去のトラウマを乗り越えるための、儀式のような行為だった。


 凛桜は、零の優しさに触れることで、過去の恐怖を乗り越え、性的な行為は「恐怖」から「安心」へと変化していく。零は、彼女の傷を癒すことで、また一つ、自分の存在価値を見つけるのだった。そして、この日から、零とヒロインたちの関係は、また一つ、複雑な深みへと足を踏み入れていくのだった。

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