どうして俺達(私達)は異性からモテないのか?



 お互いに全く同じ台詞を口にした後、丈瑠は深く息を吐き、志津香は静かに天井を見上げた。

 そう、彼ら……丈瑠と志津香には共通した大きな悩みがあった。それは――


「なんで私達、こんなにもモテないのかしらね?」


「本当にな。一体、何がいけないんだか……」


 それが二人が抱える共通の悩み、問題であった。

 実はこれまで過ごしてきた十数年間の人生において、二人とも異性からの告白経験はゼロ。

 また、異性と良い感じな関係に発展する機会も皆無。なので、彼ら側から告白をするという行為すら行えないという始末。


 結果、現在進行形でお付き合いの経験も無し。生まれてこの方、圧倒的な恋愛弱者なのである。

 もちろん、二人は自分達がそうだと認める気はさらさら無いが。


「というか、そもそもの話……別に私達って、出会いに恵まれてない訳じゃないわよね?」


「そうだよな。幼小中高と普通に友達はいるし、それに志津香は俺以上に交友関係が広いもんな」


「そうね。一緒にいる時間と付き合いの長さは丈瑠が一番だけど、昔から男女問わず、みんなと仲良くやってきた自負はあるわ」


「……だったら俺はともかく、志津香はモテていてもおかしくは無いと思うんだけどなぁ」


「そこが不思議なのよね。周りのみんなは当たり前のように告白されたりしてるのに、どうして私だけ……」


 志津香は気を落ち込ませたように肩を落とすと、小さく溜息を吐いた後にそっと自分の頬に手を添える。


「……なんていうかさ。私って男子達から、どこか遠慮されているような気がするのよね」


「遠慮?」


「そう。ある一定のラインを越えると、なんかよそよそしくなるというか……みたいな空気を感じることがあるのよね」


「それって……どういうことなんだ?」


「さぁ……? 具体的にどうこう言える訳じゃないんだけど、なんとなくそんな気がするのよ」


「なるほどな……」


 顎に手を当て、考え込むような仕草をする丈瑠。


「けど、そう言われると……俺も似たような感覚になることはあるんだよな」


「えっ、丈瑠も?」


「ああ。俺の場合、なんというか……女子から相手にされてない、って感じかな」


「はあ? 何それ、どういうことよ?」


「言葉の通りだよ。例えばこの間、部活で女子マネージャーのみんなが差し入れでお菓子を配ってたんだけどさ」


「うんうん」


「その時に何故か俺だけもらえなくてさ。理由を聞いたら『今永くんは絶対にもらったらダメ!』なんて言われて……」


「……それってさ。あんたが何か変なことでも仕出かしたんじゃないの?」


 丈瑠の言葉を聞いて、志津香はジトッと疑いの目を向けてくる。

 それを受けてか、丈瑠は慌てた様子で首を横に振りながら言った。


「い、いや、怒らせた覚えも迷惑かけた覚えも無いぞ!」


「ふーん。それ、本当でしょうね?」


「本当だって! ……あぁ、そうだ。あと、それに似たようなことが他にもあったりして」


「他にもって……まだ何かあるの?」


「これは毎年のことなんだけど……ほら、バレンタインデーのことだよ」


「バレンタインデーって……ああ、そういうことね」


 その言葉を聞いて、何かを察したかのように志津香は小さく頷く。


「お前も知っていると思うけど、俺ってあのイベントで一度も女子からチョコをもらったことが無くてさ」


「そうそう、そうだったわ。毎年、毎年、必ず義理ですらもらえないんだったわね。律儀に男子みんなに配る子でも、あんただけ渡さなかったりとか。ある意味、特別だったもんね」


「そんなことまで思い出さなくてもいいんだけどな……」


「ははっ、ごめんごめん」


 からかうような言い方で笑う志津香に対して、丈瑠は不機嫌そうな表情を見せる。


「だからさ、以外で、誰もくれなかったってことは……女子から相手にされてない、避けられてるんじゃないかって思うんだよ」


「なるほどね。まあ、言いたいことは分からなくも無いかも……」


「だろ? 確証は無いけど、そういう空気とか雰囲気があるんだと思うんだ。多分、それが悪さをしているんじゃあ……」


「うーん、考え過ぎな気もするけど……もしかしたらそうなのかもね」


 二人揃って腕を組みながら考える仕草をし、しばしの沈黙が続く。


「でも、そうなると……私達がモテない原因って、単純に私達に魅力が無いってことなのかしらね?」


「魅力が無いって……いやいや、それは無いだろ。だって、志津香はいつも周りの奴らから『笑顔が素敵で、元気いっぱいで可愛い』って言われてるし」


「確かに言われているけど……それとこれとは話が別ってことじゃないの? ほら、可愛くてもマスコット的な感じで、恋愛対象には見られないとかさ」


「そういうもんかなぁ……。普通に考えて、もしもそういう子が同じクラスとかにいたとしたら、恋愛対象として見ると思うけどな」


 腕を組みながら、丈瑠は首を捻りつつ呟く。


「それに、それを言ったら丈瑠だって、普段から周りの女の子とかに『クールでカッコいい』って言われてるじゃない」


「え? あ、あぁ……そうだな。確かに、たまにそんなことを言われたりするな」


「でしょ。私だって時々だけどそう思うこともあるし、そう考えると丈瑠に魅力が無いってのも、変な話だったりするのよね」


「……いや、志津香。それは違うと思うぞ」


「え?」


「確かに俺はそう言われたりすることがある。だが、上にはもっと上がいるんだよ」


「上には上って……誰のことを言っているのよ?」


 丈瑠の言っている意味が分からず、首を傾げる志津香。

 それを見て、丈瑠は人差し指を立てながら続けた。


「……志津香ってさ、バレー部の沢越先輩って知ってるか?」


「沢越先輩って……ああ、あの超イケメンな3年生の先輩?」


「そうそう、その人。で、あの人ってさ、周りから『クールでイケメンでカッコいい』って言われてるんだよ」


「そうね。私も何度か見掛けたことがあるけど、すごくカッコいい人よね。あんな人が自分の彼氏だったら、最高なんだろうなって思うもん」


「……ということはだ、沢越先輩は俺の完全上位互換みたいなものなんだよ」


「……あ」


「つまり、俺よりも上の存在がいる以上、俺の魅力は大したものではないって話なんだよ」


 丈瑠が沈鬱そうに言うと、どこか気まずい空気がこの場の空間を支配する。

 しばらくの間、どちらも口を開くことなく、無言の時間だけが過ぎていった。


「……やっぱり私達って、モテるだけの魅力が無いから、彼氏も彼女も出来ないのかもね」


 どこか落胆した表情で、そう呟く志津香。


「かもな……」


 力なく同意する丈瑠。そして二人は同時に深くため息を吐くのだった。





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