第42話 ハイリスクハイリターン

 いや~、砂糖の売買は思っていた以上にうまくいった。


 ヤーコブと言う信用できるか怪しい人物と関係を持つというリスクは負ってしまったが、わずか数時間の取引で金貨350枚と言う大金を手に入れることが出来てしまった。


 流石に同じ重さの金と同程度の価値~なんてことは無かったが、それでも破格な値段であることには違いない。塩の売買をチマチマとやっていればこんな大金を短時間で手に入れることは出来なかっただろう。まさしく砂糖サマサマだ。


「お待たせいたしましたヤーコブ様。コチラ謝礼の金貨になります」


 アングラッド商会の豪華な客間にて、自らの部屋のような遠慮のない様子で酒をガンガン飲みながらくつろいでいるヤーコブに約束通り謝礼の金貨70枚を渡す。


「遅かったじゃねぇか。あんまり時間をかけんじゃねぇよグズが」


「申し訳ありません。金貨350枚もの取引ともなればコチラとしても手を抜くことが出来ませんので。お手を煩わしてしまうようでしたら、次回以降はアングラッド商会に金貨をお届けするように言伝しておきましょうか?」


「チッ!だったら最初からそうすりゃよかったぜ。……クククっ……この金でサティちゃんと……!」


「念のために伝えておきますが、あまり派手にお金を使われるとご家族に怪しまれてしまいますよ」


「あン?テメェごときが俺様に口出ししてんじゃねぇよ!!」


「耳障りかもしれませんがこれはヤーコブ様のためになると思っての忠告です。仮にヤーコブ様の金遣いが急激に変わってしまえばご家族が何事かと調査いたしましょう。そうなってはワタシ共はこの町を去らざるを得なくなり、貴方様にお渡しする報酬が無くなってしまいます」


「…………」


「ワタシ共はやりようによっては貴方様の父君とも交渉ができるかもしれませんが、少なくともヤーコブ様をこの取引から排除することは目に見えています。秘密の取引を知る関係者は少ない方が利益が大きいですからね」


「チッ!分かったよ、少なくともこの領地にいる間は派手な遊びは控えてやんよ」


「ありがとうございます。ワタシ共といたしましても、あまり『表』で活動することは控えたく思っておりますので。今後とも良き関係が維持できるようご協力をお願います」


 ヤーコブが本当に理解したのかは甚だ疑問ではあるが、一応忠告はしたので多少は遊びを控えてもらえるとありがたい。


 ヤーコブが悪態をつきながら部屋の扉を乱雑に閉めて商会から出ていく。


 『ワタシはちゃんと忠告をしました。貴方方もヤーコブ様が変なことをなされないように気を配ってください』とポツリと呟き、に軽く目配せしてオレも退室することにした。


 先ほどの商談を取りまとめる機密性の高そうな部屋と言いこの部屋と言い、隠し部屋があることをオレの能力で看破したわけではない。すべては自称優秀なパートナーであるダンジョンの精霊であるクロのおかげだ。


 今回の商談を行うにあたって、クロの分身体をヤーコブに憑かせることでアングラッド商会を紹介されることを事前に察知した。


 そうして念のために商会の建物を徹底的に調査してもらい、これらの隠し部屋の存在を知りえたので、責任者との邂逅の場にも『霊体化』してもらって同道してもらい適時必要なアドバイスを貰えるようにしたわけだ。


 他にもコアの能力である『インベントリ』をあたかも『マジックボックス』のスキルに見せかけたりなど様々な工作をクロから提案され、実行してみると思いのほかうまくいった。


 そのおかげもあってか素人であるオレから見てもクリボッタは想定以上に動揺しており、むしろオレのことをかなり畏れているようにさえ見えたほどだ。


 まあ元よりお手手をつないで仲良くやっていくような関係じゃないからな。商売の相手だ、多少警戒されるぐらがちょうどよい関係といえるだろう。


 そうやって交渉をうまくまとめて大金を手に入れることができたというわけだが、代償もそれなりにあった。具体的に言えばクロに支払う報酬だ。


 なんでも『ダンジョンから遠く離れた位置にまで分身体を派遣することはとんでもない労力っス。まさしくこの身を引き割き、命を削るよう所業と言ってもいい危険な行為。つまりそれに見合った報酬が欲しいっス!』とのことだった。


 そうして自称とても頑張ったクロに対する報酬として最新式のゲーム機やソフト、発電機や白物家電などを事前に大量に買い与えて今回の商談に挑んだわけだが、その労力に見合った金銭が何とか手に入ってホッとした。


 この商談が上手く言っていなかったら、とんでもない損失を被ることになっていただろう。結果だけを見れば大勝だったかもしれないが、心の中では本当にギリギリの戦いだったとも言えるな。


 あとは塩の行商人というアンダーカバーのために各商会で塩を売り歩き、酒場や各種ギルドに立ち寄って情報を集めて回ることにしよう。


 それにしても、まさか第一印象がサイアクだったアングラッド商会と最も大きな取引をすることになるとはな。選民思想が強そうな店員ばかりでなかったことだけは加点しておいてやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る