第20話 痛い出費

「その冒険者のパーティー、いつぐらいになったらこの辺に来るとか予想がつくか?」


「このペースだと早くて3日後ぐらいっスね。結構ゆるいペースで調査をしているみたいっスけど、慎重に調査をしているって感じじゃなくって調査期間によって報酬が増えるから敢えてダラダラしているって印象っス」


「そんなコトまで分かんのかよ、お前ってホント見た目によらずスゲェ能力持ってんな」


「精霊っスからね、こんなことぐらいは朝飯前っス!あっ!朝飯と言えばっスね……」


 またしても何かを強請られそうになったので深く考え込むふりをしてさりげなく視線を逸らす。『チッ!』という舌打ちが聞こえた気がしたがムシをした。


 ダラダラ仕事をしているということは、上昇志向が強い意識高い系のイケイケパーティーではないと見ていいだろう。ありがたい、陽キャよりも根暗陰キャの気持ちの方が良く分かるからな。しかし商人からこの依頼を任されたということはそれなりに実力はあると判断するべきだ。


 ……そういえば、オレって冒険者のことをほとんど知らないんだよな。モンスター専門の傭兵で、それなりに強いってことは知ってるがそれ以上のことは何も知らない。情報を得られそうなヤツは……残念ながらコイツしかいないか。


「なあ、冒険者のことを教えてくれないか?」


「おおっと、自分はムシしたくせに自分が聞きたいことはチャッカリと聞いちゃうタイプっスか?オイラがそんな都合のいい精霊に見えるっスか?甘く見ないで欲しいっス!」


「悪かったって、少し自分の考えをまとめたかったんだよ。お詫びにお前の好きな漫画の設定資料集をだな……」


 ≪等価交換≫で先ほど購入したばかりの本を取り出す。1冊1,000円を超える値段だが背に腹は代えられないからな。必要経費として割り切ろう。


「おおっ!こっこっこ、これはっ!!今まではチョットお高目だからと言って買ってくれなかった資料集!なんでも聞いてくださいっス!!オイラはマスターにとって都合のいい精霊っスから!」


 本をオレから受け取ると大事そうに抱き込んだ。手の平を返すのも、ここまでくれば気持ちがいいな。


「それにしても、マスターが積極的に冒険者と戦おうとするとは意外っス」


 すぐにでも読み始めるかと思ったが、コチラの質問を優先させるのはダンジョンの精霊としての矜持がコイツの中にまだあることの証拠だろう。それも遠くない未来、なくなってしまいそうだがな。


「いやさ、お前の話を聞いてると、このまま地味に活動したままでもいずれは誰かに見つかるんじゃないかって不安があってな。だったら少しだけ大胆に活動して、ダンジョンが見つかる前に冒険者と戦う経験とかポイントを得た方がいいんじゃないかって思ったんだ」


「ほうほう」


「もちろんムリな戦いをするつもりはないけど、聞いた話だと今回の冒険者はあまり大したことがないんだろ?だったらとりあえず、ポイント的にも戦費的にも少しは余裕のある今のうちに冒険者と言う存在を知っておきたくてだな」


「うんうん、悪くない判断っス。ダンジョンとは元々が強者を招き入れ、死した強者の魂をダンジョンコアにて浄化するという目的があるっス。今のマスターの行動はダンジョンマスターとして至極真っ当なモノっスよ!」


 クロからもたらされた『冒険者』と言う存在は、やはりモンスター専門の退治屋という枠組みから大きくそれることはないってのが率直な意見だった。


 ただ、護衛などの仕事を受領すれば相手はモンスターだけでなく盗賊や野盗とか人間にもなるし、新人の冒険者だと田畑に出て来る害獣の駆除だとか収穫の手伝い、はたまた迷いネコの捜索とか家の片づけなんかの依頼もあるらしい。


 聞けば聞くほど町の『便利屋』って側面の印象も強くなってくるな。ただし、そういった地に足をつけた地道な活動を長い事しているからこそ町の人から信頼されて好感をもたれるし、荒くれ者として一般人から忌避される存在ではないのだろう。


「ってか、冒険者って野盗退治とかもやってんだな。領主とかは何やってんの?治安維持は領主の仕事の範疇じゃねぇのか?」


「領主の雇っている兵士にも数に限りがあるっスからね。兵士の主な仕事は領主の治める領都や収入の源泉となる町々の平和を守ることにあるっス。一応街道の警備とかもしているみたいっスけど、街道のど真ん中に賊がいるわけもないっスからね。そういった野に隠れている組織を潰すのは、わざわざ兵士を増員して人手を増やすよりも野外での活動に成れている外部委託するほうが安上がりになるっスから」


 まあ賊といえば、ある意味不定期に出没するバッドイベントみたいな存在だ。そんな存在を専門に討伐する人員を常時維持するには膨大なコストが必要となるだろう。


 それよりは冒険者という欲しい時にだけ雇うことのできる外部に委託する方が、効率が良いという判断も理解できるというものか。

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