第2話 『スキル』
「ダンジョンってのはコッチの世界では割かしポピュラーな災厄の1つなんスよ」
あまりにもザックリとした説明であったので、根掘り葉掘りと聞きだすことでようやく物事の全容が分かった。
要約するとコッチの世界は地中に『龍脈』と呼ばれる、『マナ』という不思議パワーを発する特殊な力場があって、そのマナが死者の魂や生者の強い感情など目に見えない力から影響を受けることで、『ダンジョン』という形でこの世に誕生する。
そして『ダンジョンマスター』とは、ダンジョンの核である『ダンジョンコア』が己を守るための守護者として死者の魂を現界させた存在であり、コアが破壊されるとダンジョンマスターも消滅してしまうのだそうだ。
「ま、まじかよ……せっかく生き返ったのに変テコな存在に作り替えられてたなんて……というか、なんで異世界人のオレがコッチの世界にいるわけ?ま、まさか選ばれし勇者的なやつなのか!?」
「どちらかといえばダンジョンマスターは人類の敵なんでそれはねえっス。お頭の弱いマスターにも分かりやすく説明するとただの偶然っスね」
「んなぁ!ぐ、偶然!?」
「死者の魂ってのは確たる形ってもんがねぇっス。だから世界を隔てる『境界』も自由気ままに通ることができるんスよ。つってもマスターみたいに異世界人の魂がたまたまコッチの世界に流れて来て、たまたまダンジョンコアによって肉体を与えられマスターに任じられるなんてトンデモねぇ確率っスよ。いや~よかったっスねぇ~」
「いや、良くはない……いや、あるのかな?ってか、ダンジョンマスターって何をすればいいんだ?コアを守るって一体……コアを狙うようなヤツがコッチの世界にはいるのか?」
「当然っスよ。そうでなかったらダンジョンコアがわざわざ自分を守るための存在を生み出すわけないじゃないっスか」
肩をすくめてヤレヤレといったポーズをする自称ダンジョンの精霊。またしてもイラっとしたが、ここはグッと堪えて情報を引き出すことを優先させよう。
「どうしてコアが狙われているんだ?」
「ダンジョンコアってのはマナの塊、言い換えれば膨大なエネルギーの塊っス。つまり高値で売れるってことっスね。だから冒険者みたいな荒くれ者がやってきてコアをダンジョンから持って行こうとするんス。あ!ちなみにコアがダンジョンから離れてしばらくしたら、コアのチカラが消えてマスターとコアの精霊であるオイラも消滅しちゃうッス」
「!?いやいやいや、でもこうしてオレは生きているワケじゃん!?コアがなくなったら死ぬって……コッチの世界のオレの人権は保障されねぇのか!?」
「当然っス。人権なんてメンドウなモン犬にでも食わせとけってかんじっス。例え運よくマスターの人権が認められてたとしても、『1人の命で大多数の人が救われるなら死んだあヤツも本望だろう…』なんて美談にして語られるんじゃないっスか?」
「ひでぇよ~~あんまりだぁぁぁ~~」
「ホラホラ、泣き言を言ってないで消滅しないための努力を始めるっスよ。ここでウダウダ文句を言ったって状況はちっとも良くなったりしないんスから」
「消滅しないように努力つったって……そもそもどうやってコアを取りに来た冒険者ってのをどうやって追い返すのさ」
「モチロン暴力という力によってっス。まさか話し合いで円満解決して帰ってもらえるとでも思っているんスか?本気でそう考えていたとしたら、マスターは信じられねぇぐらいのおバカさんっス!」
「お前少しは言葉を選べよな……つかさ、言っちゃ悪いが、オレって碌に喧嘩すらしてこなかったぞ?今から筋トレでもすれば間に合うのか?」
「コアには保有している『ポイント』を消費することで武器やらモンスターを召喚するチカラがあるッス。あと、マスターが現界させられた時にコアから当人の適性に合った強力な『スキル』を付与させているはずっスね。ひとまず確認してみてはいかがッスか?」
「スキルの確認?そんなんどうやって……」
聞き返そうと思った矢先、目の前に半透明な画面が出現した。そこに書かれていた文字は———
【 種 族 】 ダンジョンマスター
【 名 前 】 カスガイ・カケル
【 スキル 】 ≪等価交換≫
「おおっ!スッゲェ、何か出て来た!」
「うわっ!マスターのスキル少なすぎぃ!スキルがコアによって付与された1つしかないじゃないッスか!こんなチンチクリンな能力で今までどうやって生きてきたんスか!?」
「どうやってって……そもそもオレがいた世界にスキルなんてチカラなかったわけだからスキルがなくて当然じゃんか……てか、お前にもこの画面が見えてんだな。人権が無いどころかプライバシーすらねぇじゃねぇか」
「当然っス、オイラは精霊っスからね。……それにしてもこりゃマズイっスねぇ~」
「スキルが1つしかないってそんなにヤバいのか?」
「そりゃそうっスよ。基本的にコッチの世界の生き物が現界したときは生前所有していたスキルも使用できるっスからね。そのチカラを使ってコアを守り、コアのチカラを使いながらダンジョンを強化していくってのがセオリーッス。でもマスターの場合は……」
「い、いや……もしかしたらこの≪等価交換≫ってスキルが激強って可能性もあるんじゃないのか?」
「変な希望を持たない方がいいッスよ~期待するだけ裏切られたときの絶望が半端ないッスから」
「お、お前はさっきから人をおちょくるようなことばかり―――!!」
この虫歯菌をギャフンと言わせたい。ってかスキルの発動ってどうするんだ?念じる、名称を呼ぶ、画面の文字に触れてみ―――ると、『購入』と『売却』というアイコンが表示された画面に切り替わった。
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