サンプルと笑顔
隆一(たかいち)は最近、自分の趣味を広げることに熱心になっていた。
女装というジャンルにも興味を持ち始め、休日を使って一歩踏み出してみることにした。
友人の美咲(みさき)が女装に詳しいため、今日は彼女と一緒に街を散策していた。
「ねえ、隆一くん。初めてにしては結構似合ってるじゃない!」美咲がカフェの窓ガラス越しに映る姿を指差しながら笑う。
「本当か?自分ではまだ少し慣れないけど……まあ、こういうのも挑戦だと思ってる。」
隆一は膝丈のスカートとストライプのカーディガンに身を包んでいた。
ウィッグの柔らかい髪が頬に触れるたび、少しだけ照れくささを感じた。
そんな中、美咲が突然「ちょっと面白いことしようよ」と言い出した。
カフェの入り口近くには食品サンプルのディスプレイが並んでいる。
「これ、写真映えするかも!」と言いながら、美咲がオムライスの食品サンプルを手に取り、隆一の頭の上にそっと乗せた。
「おい、何してるんだよ!」隆一は驚いたが、美咲はケラケラと笑いながらスマホを構える。
「ほら、笑って!こういうの大事だから!」
最初は戸惑いを隠せなかった隆一だが、美咲の笑顔につられて自然と口角が上がった。
「変なやつだな、ほんと。」頭に乗ったオムライスのサンプルがずれそうになるたび、両手でそっと押さえながらポーズを取る。
「完璧!これ、SNSに載せたら絶対バズるよ!」美咲が写真を見せると、隆一の笑顔はどこかぎこちなさを残しながらも、どこか自信に満ちているように見えた。
「……なんか、こういうのも悪くないかもな。」隆一は思わずつぶやいた。
普段なら絶対にしないようなことでも、美咲と一緒だと不思議と楽しめる。
食品サンプルという小道具一つで、こんなにも笑い合えるとは思わなかった。
カフェの店員がちらりと二人を見て微笑むのを感じながら、二人は席に座った。
隆一は改めて自分の姿を確認する。
最初は少し戸惑いがあったが、鏡越しの自分がどんどん馴染んでいく感覚が心地よくなってきていた。
「美咲、ありがとな。こういう自分も悪くないって思えるの、少しずつわかってきたよ。」
「うん、それでいいの。自分を楽しむのが一番大事だからね!」
窓の外から差し込む陽光の中で、二人の笑顔はどこまでも明るく輝いていた。
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