女声の練習と女装の楽しさ

「えっと、女の声は、喉じゃなくて口先で響かせる感じ……だっけ?」


美咲はスマホで女声の出し方を検索し、いくつかの動画を見ながら練習を始めた。


最初はうまくいかず、低くかすれた声しか出なかったが、何度も試していくうちに、少しずつコツをつかんでいった。


「これなら……ちょっとは女性っぽく聞こえるかも?」


録音した自分の声を再生して確認すると、以前よりも高い声になっていることに気づき、少し嬉しくなった。


「まだまだだけど……頑張れば、もっと自然になるはず。」


美咲は毎晩、鏡の前で練習を重ねた。


「おはよう」「こんにちは」「ありがとう」などの基本的な言葉から、感情を込めたセリフまで。


「大丈夫、私ならできる。新しい自分を作れる……!」


体型が整い、声の練習にも手応えを感じてきた頃、美咲は女装にも挑戦してみることにした。


「どうせやるなら、徹底的にやってみたいな……。」


ネットで女性用の服を購入し、ウィッグや化粧品も揃えた。


最初に選んだのは、メイド服。


鏡の前で服を合わせてみると、意外にも違和感が少ない。


「やっぱり、この体だと女性の服も似合うんだ……。」


化粧の練習にも取り組み、眉を整え、ファンデーションを塗り、リップを薄く引く。


初めてのメイクはぎこちなかったが、それでも鏡に映る自分が少しずつ女性らしくなっていくのを見て、心が弾んだ。


「こういうの、楽しいかも……。」


美咲は女装の完成度を上げるために、細部にまでこだわった。


ウィッグを使って髪型を整え、まつげをつけると、鏡に映る自分が完全に女性に見える瞬間が訪れた。


「これ、私なの……?」


美咲は感動と興奮を覚えながら、スマホで写真を撮り、自分の変化を記録した。


「どこからどう見ても、女の子に見える……。」


スカートがふわりと揺れる感覚や、ヒールを履いた時の背筋が伸びる感じ。


これまで経験したことのない楽しさに、美咲は新しい自分を見つけたような気持ちになった。


その夜、美咲は女装したまま自分の体を改めて見つめた。


鏡に映るのは、まるで女性そのものの姿。


しかし、ふとスカートを持ち上げ、下半身を見ると、そこには男性の象徴がしっかりと存在していた。


「これが、今の私なんだ……。」


平らな胸に触れ、スカートの中の男性の部分を見つめる。


まるで二つの性を同時に持っているかのような矛盾。


それは美咲にとって奇妙でありながらも、不思議な高揚感を与えた。


「見た目は女の子なのに、ここにはまだ男の部分がある……。」


その倒錯的な状況に、美咲は自分の心がざわつくのを感じた。


スカートの裾を指で触れながら、鏡越しに自分の姿をじっと見つめる。


「これって……おかしいのかな……?」


胸元に手を滑らせながら、自分の存在そのものが性別の枠を超えた存在になっているような感覚に包まれた。


戸惑いと興奮が入り混じりながら、美咲は鏡の中の自分から目を離すことができなかった。

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