クリスマスの奇跡?サンタガールにされた僕

まだ11月とは言え、クリスマスが近づくと共に、玩具売り場ではイベントの準備が本格的に始まっていた。


スタッフが集められ、イベントの内容やコスチュームについての説明が行われる。


店長が声を張り上げ、クリスマスイベントに関する説明を行う中、主人公の直人はなんとなくその場に居るだけの感覚だった。


こういったイベントごとは、普段派手なことをしない彼には少し遠い存在だったからだ。


「えーと、今回のイベントでは、男性スタッフはトナカイ、女性スタッフはサンタガールのコスチュームを着てもらいます」


直人は「ふぅ、よかった」と心の中で安堵する。


サンタガールの衣装など、自分にはまったく関係のない話だと考えていた。


しかし、その考えが甘かったことを、彼はまだ知る由もなかった。


イベントの前日、スタッフたちは実際に衣装を試着することになった。


サンタガールの衣装に袖を通すのは、同僚の美咲だ。


彼女は可愛らしいルックスと明るい性格で、サンタガールの衣装がよく似合いそうだと、周囲のスタッフたちも期待していた。


しかし、試着室からはなかなか出てこない美咲の姿に、スタッフたちは不安を覚える。


やがて、店長に呼ばれた彼女が現れると、そこには少し困った表情をした美咲が立っていた。


「どうやら、ちょっと胸のサイズが合わなくて……」


その言葉に、直人の胸がドキリと跳ねる。


「まさか」と思った瞬間、店長が彼に向かってニヤリと笑みを浮かべた。


「直人、君がサンタガールの衣装を着てみたらどうだ?」


「ええっ!なんで僕が!?」


驚愕の表情を浮かべる直人。


しかし、美咲や他のスタッフが口々に「似合うと思うよ!」と半ばからかいながらも勧めてくる。


なんとか断ろうとするも、結局逃げ場がなくなり、直人は観念してサンタガールの衣装を試着することに。


試着室でサンタガールの赤いワンピースを恐る恐る手に取る直人。


普段、自分が着るはずもない、フリルと白いボアがふんだんにあしらわれた衣装に、彼は軽い嫌悪感と同時に、不思議な興奮を覚える。


「これ…本当に僕が着るのか…」


ボタンを一つ一つ止めていくうちに、胸がドキドキと高鳴っていく。


思い切って試着室から出ると、待っていた美咲が彼の姿を見て歓声を上げた。


「直人くん、すっごく可愛い!これで完璧なサンタガールね!」


彼女はそのまま直人にメイクを施し、さらに彼を可愛らしいサンタガールに仕立て上げていく。


鏡に映った自分の姿に、直人は思わず息を呑む。


「まさか…これが僕だなんて…」


どこか夢見心地のような気分と、恥ずかしさで顔が熱くなる。


普段とは違う自分の姿に戸惑いながらも、次第に少しずつこの変身を楽しんでいる自分に気づく。


いよいよイベント当日。


サンタガール姿でお客様を迎えることになった直人は、内心の不安と緊張に包まれていた。


「いらっしゃいませ〜!メリークリスマス!」


明るく声を上げると、子供たちが目を輝かせて彼に駆け寄ってくる。


「サンタのお姉ちゃんだ!」と無邪気に叫ぶ子供たちの声に、直人は少し照れながらも笑顔を浮かべる。


「お姉ちゃんなんて…でも、喜んでくれるなら…」


周囲の注目が集まる中、意外にも温かい視線に包まれることで、少しずつ緊張が和らいでいく。


お客たちも「こんな可愛いサンタガールがいるなんて」と笑顔で話しかけてくることで、直人は次第にこの役割に自信を持ち始めた。


イベントが無事に終了し、玩具売り場は予想以上の賑わいを見せた。


特に、サンタガール姿の直人が大いに盛り上げたおかげで、通常よりも売り上げが大幅に伸びていた。


イベントが終わった後、直人はぐったりと疲れてスタッフルームに戻る。


そこには、トナカイの衣装を着たままの美咲が待っていた。


「お疲れ様、直人くん。今日はあなたのおかげで大成功だったわよ」


美咲は直人の肩を軽く叩きながら微笑む。


直人は少し恥ずかしそうに視線を逸らし、「まあ…みんなが喜んでくれたなら、それで良かった」と控えめに応える。


「でも、意外とハマってたわよ?また来年もお願いしちゃおうかしら」


「ちょっと!さすがにそれは勘弁してよ…」と苦笑する直人。


しかし、美咲が冗談めかして言うその言葉に、どこか心地よい満足感を感じている自分がいた。


「ねえ、今日はこのままの衣装で、ちょっとだけ一緒にクリスマスを楽しもうよ」


美咲の提案に驚きながらも、直人は彼女に引かれるようにして二人きりの時間を過ごすことになった。


トナカイとサンタガールのままで、過ごす二人だけの秘密のクリスマス。


美咲がそっと直人の手を握り、寄り添いながら語り合うその夜は、忘れられないひと時となった。


https://josou-illust.com/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る