ひと夏の変身

青空が広がる連休の初日、大学生の翔太は軽やかな足取りで駅へ向かっていた。


彼の手には小さなスーツケースと、ナチュラルなファッションが映えるワンピース姿。


いつもの姿とは違い、今日は「彼女」として一日を過ごす決意を胸に秘めていた。


「これで最後の確認……大丈夫、完璧だ。」


翔太は鏡に映る自分を見て微笑んだ。


胸元のふわっとしたカーディガン、ナチュラルな麦わら帽子、そして柔らかい布地のロングスカート。


すべてが彼の理想の「女性像」を表現していた。


「こんな姿で本当に大丈夫だろうか……。でも、どうしてもこの格好で旅行したかったんだ。」


内心の不安が頭をよぎるが、翔太はその思いを振り払った。


今日は、ずっと夢見ていた「彼女」としての時間を楽しむための日。


誰にも知られずに、自分だけの秘密の時間を過ごすための旅行。


**出発**


駅に着いた翔太は、切符を買い、無言のまま電車に乗り込んだ。


周囲の視線が気にならないわけではないが、特に注目を浴びることもなく電車の中に溶け込んでいく。


「よかった、誰も気づいてないみたいだ。」


安堵の息をつくと、翔太は少しだけ窓の外を見つめる。


流れる景色に目を奪われながら、彼はふと、いつもの自分とは異なる感覚に気づいた。


**新しい自分**


「この服を着ると、なんだか心が軽くなる。日常の自分とは違う、自由な気持ちになれる。」


彼の心は徐々に解放されていく。


駅に着くたびに乗客が入れ替わり、いつの間にか翔太はその場にいることに慣れていた。


周囲の視線も気にならず、むしろ自分が「彼女」として振る舞うことに喜びを感じ始めていた。


**旅行先の出会い**


目的地に到着した翔太は、宿泊先の小さなリゾートホテルにチェックインした。


受付の女性に自然に対応する自分を見て、内心で自信が芽生え始める。


「意外と自然に振る舞えるものだな。」


ホテルのラウンジでお茶を楽しんでいると、隣の席に座った女性が話しかけてきた。


「素敵なお帽子ですね。どこで買ったんですか?」


突然の会話に驚くも、翔太は冷静に返答した。「あ、ありがとうございます。近くのセレクトショップで買いました。」


「センスがいいですね。あなたのスタイル、本当に素敵です。」


その言葉に、翔太は胸の奥が温かくなるのを感じた。


自分が「彼女」として認められている、そんな実感が彼をさらに自信に満たしていく。


**心の変化**


夜、ホテルの部屋で一人鏡を見つめる翔太は、ふと考えた。


「このままずっと、この姿でいられたらいいのに……。」


しかし、現実はそう甘くはない。


連休が終われば、再び大学生としての日常が待っている。


それでも、今日という日の経験は、翔太にとってかけがえのないものとなった。


**帰り道**


連休が終わり、いつもの姿に戻った翔太は、ほんの少し寂しさを感じながらも、心には確かな変化があった。


「また、いつか……。今度はもっと自然に振る舞えるように。」


彼は再び旅に出ることを心に誓い、駅のホームに立つ。


帽子をかぶった女性の姿は、今でも彼の心の中に鮮明に残っていた。

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