突然の花嫁

秋の爽やかな風が吹き抜ける午後、私は大きな鏡の前でウェディングドレスをまとっていた。


その姿を見つめる自分自身が信じられない気持ちでいっぱいだった。


数週間前までは、ごく普通の男性として生活していたのに、今や美しい花嫁として結婚式の準備をしている。


そして、私の隣にはタキシード姿の美しい女性が立っていた。


友人の美奈が経営するエステサロンに遊びに行った日のことだった。


美奈は新しいコスメティックブランドのモニターを探していて、冗談半分に「一度、女性としての変身を体験してみない?」と言った。


その提案に乗ってしまったのが、すべての始まりだった。


「大丈夫、大丈夫!元に戻れるから」と言う美奈の言葉に安心して、私はその提案を受け入れた。


エステティシャンたちの手によって、驚くほど自然なメイクとプロの技術で、私は瞬く間に見違えるほどの美しさに変身した。


翌日、街に出かけた私は周囲の視線に戸惑いながらも、その新しい自分を楽しんでいた。


カフェでコーヒーを楽しんでいると、突然声をかけられた。「すみません、モデルになっていただけませんか?」


その声の主は、結婚式の写真を専門とするカメラマンだった。


彼の依頼で、私は男であることを伝えたうえで一日限りの花嫁モデルとして撮影に参加することになった。


撮影の最中、私は徐々にその場の雰囲気に馴染んでいき、まるで本当の花嫁のような気持ちになっていった。


撮影が終わり、控え室でドレスを脱ごうとしていると、タキシード姿の女性が控え室に入ってきた。


彼女はカメラマンで、名前は莉奈と言った。「君の美しさに感動した。このまま結婚しよう」と突然のプロポーズ。


驚きと混乱で言葉が出なかったが、その真剣な眼差しに心が揺れた。


自分の中の違和感を抑えながらも、なぜか「はい」と答えてしまった。


その瞬間から、私の人生はさらに予測不能な方向へと進んでいくこととなった。


結婚式の日、再びウェディングドレスに身を包み、私は花嫁としての役割を果たす決意を固めた。


莉奈はタキシードを着て、堂々とした姿で私の隣に立っていた。


式が進むにつれ、周囲の祝福と温かい眼差しに支えられ、私は次第にその違和感を忘れていった。


そして、誓いの言葉を交わす瞬間、私は本当に新しい人生のスタートを切ったのだと実感した。


まさか自分がこんな形で結婚するとは夢にも思わなかったが、それでも私は今、この瞬間を大切にしようと心に決めた。


結婚式後も私は女装を続け、莉奈と共に新しい日常を過ごしていくことを決意した。


初めは周囲の視線に戸惑いを感じたが、次第に私たちの関係を理解し、受け入れてくれる人々が増えていった。


仕事も生活も、すべてが新しい挑戦だった。


しかし、莉奈の支えと愛情に支えられて、私はどんな困難も乗り越えることができた。


莉奈は私を女性として尊重し、私も彼女の期待に応えるべく努力した。


新しい日常が始まり、私は自分がどんな姿であれ、自分自身であることを受け入れることができた。


そして、愛する人と共に歩む道を選んだことを、決して後悔しないと誓った。


奇妙で美しい物語は、こうして新たな章へと続いていくのだった。


莉奈と共に歩む日々は、毎日が新しい発見と喜びに満ちていた。


私たちはお互いの存在を大切にし、未来へ向かって一歩一歩進んでいく。


新しい自分を受け入れ、新しい人生を共に築く、その道はまだまだ続いていくのだ。

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