私の“好き”を集めた夢の土地 ――諏訪の国――
国府宮清音
私の“好き”を集めた夢の土地 ――諏訪の国――
私は、“諏訪の国”を愛しています。狂わされていると言っても過言ではありません。
とはいえ、いきなり“諏訪の国”と言われましても……となるかもしれませんので、まずはそこから説明をさせて頂きますね。
“諏訪の国”、とは長野県の諏訪地方の事を指します。
諏訪湖周辺に位置する岡谷市、諏訪市、茅野市、下諏訪町、富士見町、原村の六市町村が集まり、“諏訪の国”としてブランド化されているのです。
この地域は、縄文時代から人々が暮らしていた痕跡があるそうで、当時は日本の人口の約三分の二が集まるほどの大都会だったそうです。
それゆえ、独自の文化が発達したせいか大和朝廷に染まりきらず、今でも(少なくとも形だけは)残っている風習もあります。
奈良時代には、行政区分として信濃国から諏訪国が独立していた時期もありました。もっともっと昔は完全独立の時もあったように記憶しています。
この、独自性という矢が、私をハリネズミにしています。
例えるなら、みんなから離れた場所で「俺は俺なんだよ」と突っ張っている。
そんな一昔前の不良を見る感じでしょうか。いや、良い意味で、ですよ。
私は一時期、愛知県に住んでいましたので、シーズンごとに諏訪に通っていました。
季節によって行く方法も変わります。電車か、車か。楽しみ方も、それぞれ違いました。
ですが、残念なことに私は今、もう少し離れた場所に住んでいます。少なくとも気軽に行ける場所ではありません。
この事実がまた、強く、憧れをあおり立てるのです。それはまるでロミオとジュリエット。
許されるのであれば今すぐにでも行きたい。いつまでもそこにいたい。
少しでも諏訪の空気を感じていたいため、数年前に頂いた諏訪大社の神札をパソコンルームに置いています。
好きすぎて我が子に「私は茅野市出身だ」と詐称しているくらいです。
ちなみに高校は諏訪市にある高校の出身だと言い張っています。いい加減な設定ですよね。そりゃ子どもだってすぐに嘘だと見抜きます。
それでも、私は言い続けるのです。「私は、茅野市出身だ」と。
さて、与太話はここまでにしておきまして、これから私がどれだけ諏訪地域を愛しているかをつらつらと語って行きたいと思います。どれかがどなたかに刺さると最高ですね。
私は、歴史が大好きです。それこそ実在が疑われる神話の時代から中世あたりまで。
基本、読書や音楽鑑賞、文字を書くことが好きなインドアの私ですが、この趣味に関しては全く別で、歴史の欠片を探すために山に登り川を下ります。背丈以上の草をかき分けることも厭いません。
他には温泉や自然観察、神社やグルメ、運動なんかにも興味があります。諏訪をご存知の方は「あっ」とお思いになったでしょう。ひとつずつ、挙げていきたいと思います。
【神話と神社】
最初に触れました通り、諏訪には縄文時代からの歴史があります。それどころか、神代の時代から、諏訪は歴史に名を刻んでいるのです。
『オオクニヌシの国譲り』です。アマテラスが地上(日本)を治めるオオクニヌシに国を譲るよう勧告したところ、彼は「二人の息子がいいならいいよ」と答えます。長男はすんなり了承したものの、イケイケだった次男が抵抗し、ぼこぼこにやられて逃亡し、ごめんなさいをして、無事に(?)日本はアマテラスの子孫(今の天皇家)が治めることになるのですが、このイケイケ次男であるタケミナカタが逃亡した先が諏訪の国なのです。
彼の名誉のために擁護しておきますと、彼は今でも武神として日本が誇る神様のひとりとして存在しています。相手が悪かっただけです。
元々、諏訪の国は彼の影響下にある(少し語弊がありますが)地方でした。当時の慣習通り、武力征服をしたわけですが、彼の諏訪征服も神話として現地に伝わっていますし、実際に陣を置いたとされる場所には小さなものですが神社があります。
当時、諏訪の国を治めていた豪族が対抗するため陣を置いたと言われる場所にも神社があります。そちらの方がきれいですね。(笑)
タケミナカタは、土着の勢力やそれらが信じる神々をも上手く味方に付け、諏訪において独自の勢力を築きます。まさかの自身を祀る筆頭神官に任命するのです。器が大きい。
神官の家系はなんと今も伝わっており、資料館があります。“守矢資料館”といいます。
そして彼が祀られている場所、それこそが諏訪大社です。六年に一度行われる天下の奇祭・御柱祭が有名です。
諏訪地域は、全ての神社、たとえ小さな祠(外宮と言います)であっても周囲に四本の柱を立てていますし、それぞれ御柱祭も開催します(小宮祭りと言います)。
本家御柱祭は外の人は参加できませんが、小宮祭はワンチャンあるとかないとか?
諏訪大社を初めとしてかの地に伝わる神話、土着の原始的な宗教に関する文物は、現代に至ってもいくつも点在しています。神社もそうです。土着系の神社が多いところは、諏訪の特徴かもしれませんね。これらをテーマにして回るだけでも一日はゆうに潰せます。
「ここが○○が△△した場所か~」といった神話にまつわる聖地巡りが楽しめる訳ですね。オタクさんならこの楽しみを解って頂けるかと。
そう言えば不思議な体験をしたことがあります。
諏訪旅行で、予定を詰めすぎた私は、個人的に大好きでいつもお参りしている神社に行く時間が遅くなってしまったんですね。
その神社は小高い山の麓辺りにあり、夕方の薄暗い中ではねっとり観賞できず、明るい時に来れば良かったと猛烈に後悔しました。
もちろん、シーズンごとに参拝しているので、変わったところはなかったと思います。でも、それでも明るい時間にお会いしたかったと思いました。
スケジューリング間違えたなぁ、残念だなぁとごめんなさいして宿に入ったのですが、そこでふと気付きます。
家の鍵がない!
落ち着ける訳ありません。焦りに焦って温泉に入り、美味しい夕食に舌鼓を打ちながら甘い香りの日本酒を飲み、回らなくなった頭で考えます。
まぁ、諏訪にはまた来るし、明日の予定は今度にして、明日は今日回ったところを逆回りしよう。
そして翌朝。鍵がないのはマズイなぁと思いながら朝風呂に浸かり、地元の素材を使った朝ご飯をお腹いっぱい頂き出発します。
最後に訪問した場所、つまり前日の夕方に訪れた神社からですね。
駐車場に着いた途端、見えました。家の鍵が。なんともあっさり見付かったものです。
安心したとともに、あっ、と気付きました。
明るい時に、これたじゃん。って。
うわぁ〜っと感動しました。ちょっと叫んじゃいました。ご近所の方、あの時、朝からうるさくしてすみません。でも感動でした。明るい日射しの下、写真撮りまくりですよ。
それは、言ってしまえば偶然でしょう。
ですが、神様のちょっとした計らいだと考える方が、夢がありませんか?
【縄文と歴史のロマン】
そして、夢かあると言えば歴史です。諏訪の歴史は古く、縄文時代に遡ります。
この地域の特産物として、黒曜石がありました。当時はよく切れる刃物として使われており、貿易の品ともされたようで各地の遺跡でも見つかっています。
また、国宝の土偶が二つも見つかっています。“縄文のビーナス”と“仮面の女神”と呼ばれています。日本の国宝に指定されている土偶は五つしかなく、その内の二つがこの諏訪地域で出土しているのです。すごくないですか? 土偶の差別をする訳ではありませんが、やはり国宝とされるだけあって趣深い姿形をしています。もしよかったらググってみてください。
そこから時代を下り、南北朝時代。最近、有名になりました『逃げ上手の若君』の時代です。主人公北条時行の後ろ盾となったのがこの地方を治めていた諏訪氏です。
作品内でもあったように、神性があった最後の時代ですね。残念ながら四つある諏訪大社のひとつ、前宮に諏訪頼重の供養塔があるくらいですかね(諏訪大社はそちらよりも某ゲームの勢力が強くて、そのお陰でかなり潤った印象が強いです)。
さらに時代を下って戦国。武田信玄ですよ武田信玄。彼は姻戚にあるこの地方の大名諏訪氏を攻め、この地方を手中に収めます。そして姪を手籠めにする……。まぁその辺はいろいろとドラマとか小説とかありますので割愛しますが、信玄の息子である勝頼は最初、諏訪勝頼と名乗っていました。まぁ、彼や信玄にまつわるところって殆どないんですけどね。悲しい。
でも、当時のお城はあります。信玄が攻めたという城です。その後の諏訪支配の中心となった高島城というのもまぁモニュメント的に建っています。お城好きの私は前者にわくわくしますね。山のお城なので、登るのはなかなかに骨ですけれど、割と整備されていて(慣れている私としては)登りやすいです。高い場所から諏訪湖を望みながらの妄想は最高です。
【温泉と花火】
山から降りてきたら温泉ですよ皆さん。
諏訪は一大温泉地。上諏訪温泉や下諏訪温泉など、あちこちに温泉が湧いています。湖畔には足湯がありますし、上諏訪駅構内や博物館前にも足湯があります。諏訪湖SAにもなんと温泉があります。
基本的に無色透明のとろりとしたお湯です。美人の湯と言われています。お肌つるつるですよ。
他にも、少し離れた所には黄土色の濁り湯もあります。
諏訪湖畔には間欠泉があります。最初は五十メートルほど噴き上がっていたそうですが、徐々に低くなり、最終的に名所を守るためにコンプレッサーで無理矢理吐き出させていたそうですが、なぜか復活したようです。それでもちょろちょろ、ですけれどね。悲しみ……。
そして湖畔といえば夏の風物詩、花火です。今年は八月十五日。諏訪は高い建築物が殆どないので、本当に綺麗に見えます。
新作花火大会なるものもあります。全国の花火師が諏訪に集い、新作の出来映えを競います。九月に予選四日間。十月に優勝決定戦。
さらにさらに、七月下旬から八月下旬まで、十分程度ですが、毎日、花火が上がります。毎日花火とかすごいパワーワードですよね。
花火は不思議と心に染みます。大会当日に行けなくても、花火が楽しめる。最高じゃありません?
【諏訪のグルメ】
そして食べ物。
長野と言えば蕎麦ですよね。本当においしいです。通ぶるわけではありませんが、つゆいらないです。
間欠泉の近くにはタケヤ味噌があります。下諏訪や茅野にも美味しい味噌を作っている蔵はたくさんあります。
それに、意外かもしれませんが岡谷のウナギ。諏訪湖では天竜川を遡上してきたウナギがよく獲れたそうです。
諏訪湖にはワカサギもいますね。天ぷらおいしいです。ワカサギ釣りもできますよ。
あっ、諏訪地域は盆地ですので、山に囲まれています。そう。ジビエです。鹿の肉、よく焼く必要がありますが、おいしいです。
そして、イナゴを忘れてはいけません。諏訪湖畔ではソフトクリームにイナゴを数匹ぶっ刺したモノが売られています。勇気のある方はどうぞ。
地味に寒天なんかも名物だったりします。イチゴ狩りもやってますね。釜飯なんかもあります。自然豊かなので、食べ物は何でも美味しいです。
自然豊かということは、水も美味しいです。そう。日本酒です。諏訪市には造り酒屋が五蔵あります。中には地ビールを造っている蔵もあります。おしゃれなグッズとかもありますよ。いずれも甲州街道沿いにありますので、比べやすく、選びやすいです。飲み歩きイベントもあります。道が狭いので接触事故にはお気を付け下さい。
【自然など】
自然で言えば霧ヶ峰に代表される高原があります。四季折々、それぞれ違った顔を見せて、飽きることはありません。
御神渡りという自然現象もあります。冬の寒い日、凍り付いた諏訪湖の一部に高さ50センチ前後の氷の山脈ができるんです。諏訪の神様が湖の上を渡ったと言われていますから、御神渡り、なんですね。昔は人の背丈ほどの大きなものが長城をなしていたそうですが、最近は温暖化のために見られなくなったそうです。残念。私は一度だけ、っぽいのを見たことがあります。永遠に擦っていきたいと思います。
運動はもう諏訪湖ですよ。湖周をぐるりと回れるように道路が整備されています。ジョギングするもよし、サイクリングするもよし。
ああ、そうそう。オタクショップを忘れてはいけません。プラムさんというキャラクターホビーのお店があります。そちら発の諏訪地域の市町村それぞれのキャラクタ―なんかもいますね。つまり諏訪の方は東京まで行かなくてもフィギュアが購入できるのです。「送料不要」。なんて素晴らしい響きでしょうか。うらやましい。
こんなところでしょうか。
私にとって諏訪とは、そこだけで自分の趣味が完結してしまう、夢のような場所なんです。まだまだ紹介したい物やエピソードがありますが、いきなりガーッといくのも無粋というものですので、このくらいで。
それにしてもこれほどまでに、対私特化のを場所なんて他に知りません。私は何度も萌え殺されました。ええ。
とはいえ、これから先は、時間的、体力的、金銭的などさまざま理由で諏訪から離れてしまうのだろうと思います。
それでも、心だけは近くにありたいと思うのです。だって、諏訪を、愛してしまったから。
諏訪に、どれだけ心を癒やされたか。どれだけ元気をもらえたか。どれだけ心を豊かにしてもらえたか。どれだけ笑顔にしてもらえたか。
願わくば諏訪湖に骨を沈めてもらいたいな、なんて思いますね。
いやぁ、やっぱり私、おかしいですよね。
夏ですので、ホラーとしておかしさが伝われば幸いです。
諏訪という土地がひとりの人間をおかしくさせたのか、それともおかしい人間を惹きつけるナニカを持つのか――。
それは解りませんが、諏訪には不思議な魅力があると、少しでも興味を持って頂き、この夏の避暑を兼ねて行ってみたいな〜とか思ってくださると、すごく嬉しいです。
美しく、神秘的な山と湖に囲まれた土地で、いつか会えるといいですね。
そんな奇跡だって、信じたくなるのが諏訪なのです。
ありがとうございました。
私の“好き”を集めた夢の土地 ――諏訪の国―― 国府宮清音 @kohnomiya
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