僕と女子高生の(不)健全な日常。

一色治

第1話

蠅が湧く程散らかりゴミ屋敷と化した和風建築に静かに呼び鈴が響く。一度、数分おいてまた一度、無機質なそれが虫の羽音と共に屋敷中をこだましていた。徹夜明けが風呂も入る気力もないと言わんばかりに倒れ込む様にぐでっと書斎の入り口に倒れ込む紺の和服に長髪の男、家主の佐伯である(一概に佐伯、と呼ぶのは彼が一向に下の名前を明かさない為に仕方なく佐伯と称す)。浅い眠りを無機質なソレに破られ二回程無視はしたものの、それでも鳴り続ける呼び鈴に顔を顰め体を起こす。玄関まで這うように身体を引き摺っては唸る様に「誰かね」と声を上げる。「あの、佐伯先生のお家で合ってますか?」若い女の声だ。しかも玄関の磨りガラスから見るに短めなスカートを纏っている。流石に異性にこんな醜態を晒す訳には、と訳も分からないマインドで立ち上がり、玄関の死角に隠れる。「入って来給え、玄関は空いているよ。玄関で少々待って居給え」と言い残し浴室まで猛ダッシュ。シャワーを浴びて髪を乾かし、玄関に向かうと如何にもな女子高生が肩ほどまでの髪を揺らし「私、柏木綺華って言います!弟子にして下さい!」と頭を下げたのだ。女子高生にこんな大声を出されては敵わんと急いでゴミだらけの居間へ案内。適当にコップに麦茶を入れ、女子高生の前に置く。座布団に座らせるとまた空元気に『先生!私を弟子にして下さい!』と、そう叫ぶ。そんな女子高生をじっと見つめたままぷかぁ〜っと煙草の煙を燻らせ、彼は深く息を吐いた。「…何かね、君は僕が書くような小説がかきたいのか?それとも」僕の様な人間になりたいのか、という言葉を飲み込み女子高生の反応を見る。

すると女子高生はただ頷き『先生の様な小説を書き、先生の様な人間になりたい』そう真剣な眼で訴える女子高生に被せて冷たく吐き捨てる。

「戯言はやめ給えよ、青年。だいたい、君みたいなキラキラした若者が24歳童貞の反出生主義成人男性であるこの僕が書く小説など読んでいるはずがないのだ。」

そう吐き捨てるとまた口元にハンカチを抱き、捲し立てるように毒を吐き続け、「女子高生なら女子高生らしく原宿や何かでクレープでも貪り食うと良いさ…僕は少々女が苦手でね。弟子なら取らないよ、帰り給え」なんて面倒臭そうに手をヒラヒラと振る。そんな佐伯をよそに女子高生は徐に第二ボタンまでを外し、スカートを少し託し上げる。

先刻言った通りこの男には女経験がない。

「雑用から炊事洗濯掃除、住み込みで何でもやります!やらせて下さい!」

ボタンを外した状態で平気で頭を垂れ、服の間へと行こうとしていた目を瞑り、柏木と言うらしい青年に慌てて「わ、分かった!分かったから服装を整え給えよ!」とまた、口元にハンカチを押し当てる。

「親にはもう許可取ってますし、私の両親先生の大ファンなんですよ」

なんて続ける青年は「お掃除から始めますね、」とどこか気まずそうにはにかんで見せた。それに呆れたように「書斎以外は構わん、程々にな。」と立ち上がり、真っ先に大人向けの物を床下スペースに収納し、様子を見に居間へ。

―ふんふん、ふん♪

鼻歌が聞こえる。

先程まで憧れらしい先生に嫌味ったらしく罵倒された人間の、若々しい女子高生の態度だ。挙句彼女は「お掃除終えたらご飯作りますね」と言う。

『…勝手にし給え』

もうどうにでもなれ。僕は知らん。

あぁもう、これだから女は嫌いなのだ。

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