地上のない世界
アリスたちが暮らすノクティスは、かつて地上で暮らしていた人類が選んだ「最後の地下国家」の一つだった。
地上はすでに、人の住める場所ではない。長く続いた温暖化の末期、地表は変形し、海は押し寄せ、熱波と有害物質が空気を満たした。
そのとき各国が選んだ“生き残り方”はそれぞれ異なった。
国全体に屋根をかけ、人工気候の中で暮らす道を選んだ国がある。
海に適応し、海上での生活に転じた国もあった。
そして、ノクティスは地下を選んだ。
今なお「存続している」とされる国家は、四つ。
──屋根の下に築かれた国家、ソリヴァール。
──海に適応した国家、マレラン。
──外気に最も近い場所にある国家、モンテラ。
そして、地下の国・ノクティス。
アリスは、その名を知っていた。
子どもの頃、教育モジュールで一度だけ学んだ記憶がある。ソリヴァールは明るく自由だと教えられ、マレランは不安定で危険だと示され、モンテラは──ほとんど何も語られなかった。
だがそれ以上の情報は与えられなかった。
都市の構造も、文化も、気候も、人々の暮らしも──わかっていることは、ほとんどない。
国家情報は「分類A」とされ、市民には詳細の開示がされない。閲覧権限は上層の専門官のみ。
市民にとって、他国は“存在が記録された過去のもの”であり、“今”を知る手段は存在しなかった。
アリスは、それを疑問に思ったことさえなかった。
外に出る必要がないなら、知る必要もない。それが、ノクティスで育つということだった。
けれど今、彼女はその外に出る任務を命じられようとしている。
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