最愛の幼馴染を全力で幸せにする百合の話
八星 こはく
第1話 突然の知らせ
「よし、書けた……!」
便箋を丁寧に折り畳み、封筒の中へ入れてシールを貼る。今回のレターセットは、街中にある文房具屋で購入した冬っぽいデザインの物だ。
年末になると郵便局も忙しいだろうから、早めに出しに行かないと。
私には、ずっと好きな人がいる。
「……今回こそ返事、返ってきたらいいな」
私の好きな人は、小学四年生の冬に東京へ引っ越してしまった。小学六年生の秋頃までは返事があったのに、ぱたりと返事が途切れてしまったのだ。
それから約四年。私は今も手紙を送り続けている。
宛先不明で返ってきてないってことは、きっと届いてはいるんだよね。
そっと息を吐いて立ち上がった。勉強机の上に置いた写真立ての中には、
「今の月乃は、どうなってるのかな」
写真の中の月乃は小学四年生だ。私が持っている写真の中で、最新の写真。
真っ直ぐな黒髪をツインテールにして、大きなリボンをつけて控えめに笑っている。そして月乃の手をぎゅっと握った私は、満面の笑みを浮かべていた。
私と月乃は幼稚園で出会った。月乃は引っ込み思案で、でもとびきり可愛くて、お姫様みたいな子だった。
そんな月乃と私は約束したのだ。
―――絶対、結婚しよう、って。
当時の私達は同性同士で結婚ができないことを知らないほど幼かった。でも私は、その約束を忘れたことは一度もない。
月乃は、もう忘れてるかもしれないけど。
「って、だめだめ! ていうか、バイトの準備しなきゃ!」
落ち込んでも意味なんてない。本人に聞かなきゃ分からないことは、聞きにいくしかないのだ。
高校生になって、私は街中のファーストフード店でアルバイトを始めた。東京までの旅費を貯め、月乃に会いにいくためだ。
自分でお金貯めたら、お母さん達だって反対できないだろうし。
ていうか、反対されたって勝手に行くんだから。
なんとか両親の許可を得て、7月からバイトを始めた。12月になって、それなりの額は貯まっている。
もうすぐ私は、月乃に会いに行けるはず。
「よーし。今日も月乃のために、バイト頑張っちゃお!」
立ち上がって、バイト用の鞄を肩にかける。部屋を出ようとした瞬間、インターフォンが鳴った。
「そっか。今、私しかいないんだっけ」
慌てて階段を下りる間も、インターフォンはひたすら鳴り続けている。どうやら宅配便の類ではなさそうだ。
「すいません、お待たせしましたー!」
勢いよく玄関の扉を開けると、そこには見覚えのないおばあさんが立っていた。
背中が少し曲がっていて、手には杖がある。疲れているのか、呼吸も乱れていた。
え!? 誰!?
私のおばあちゃんではないし、近所の人でもない。
もしかして親戚? お母さんもお父さんもいないし、どうしよう。
「あの!」
老人とは思えないほど大声で叫ぶと、おばあさんはいきなり玄関で土下座をし始めた。
ど、どういうこと!? 本当になんなの!?
「甲斐日葵さん、ですよね……!?」
「そ、そうですけど……」
助けてお母さん! 今すぐランチ会から帰ってきてー!
心の中で叫んだところで、お母さんは帰ってこない。どうしたものかと悩んでいると、おばあさんはいきなり鞄から茶色い封筒を取り出した。
「ここに、とりあえず30万円入っています」
「はい!?」
30万円ってなに!? 私のバイト何カ月分!?
もしかしてこの人、お父さんに借金してたとか? いやでも、私の名前確認してきたよね?
「いきなりきて、こんなことを頼むのはおかしいとは分かってるんです。でもどうしても、貴女にしか頼めないんです」
「は、話は聞くので一回お金しまってもらえません!? あと土下座もやめてください!」
「……分かりました」
おばあさんはゆっくり立ち上がると、封筒を鞄にしまった。
そして、私の目を真っ直ぐに見つめてくる。
やばい。今から私、なに言われるんだろう?
「甲斐日葵さん。お願いです。……どうかまた、私の孫と仲良くしてやってくれませんか」
「……孫?」
「
「月乃っ!?」
月乃って、あの月乃だよね!? 苗字だって阿南だし、絶対そう!
じゃあこの人って、月乃のおばあちゃんなんだ!?
「月乃、
「今日の夕方に帰ってくる予定で……」
「夕方!? 何時の便ですか!?」
私の勢いにおばあさんが目を丸くしてしまった。驚かせて申し訳ないとは思うけど、今はそんなことを気にする余裕なんてない。
月乃が戻ってくるんだ。
また、月乃と会えるんだ……!
「飛行機は18時20分着で、19時30分に駅前で待ち合わせをしてます」
「駅前で!?」
「……私はもう、運転ができなくて。空港まで迎えに行けたらよかったんですが」
「私、今からバスで迎えにいきます」
「……え?」
「なので、詳しい話はまた後で! 今すぐ行かないと、月乃を待たせちゃうかもしれないので!」
慌ててバイト先に休みの連絡を入れる。まだ頭は混乱したままだけど、止まっている時間なんてない。
おばあさんがわざわざ私を訪ねてきて、お金を出してまで月乃と仲良くしてくれと頼んできた理由は全然分からない。
月乃が今、私をどう思っているのかも分からない。
でもそんなの全部、後で確認すればいいもんね!
おばあさんと一緒に家を出て、私は一人でバス停まで走り出した。
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