第11話 暗転

 

 私が家に着いたとき、ちょうど携帯に連絡が入った。


 『ねね、海夏。もうそろそろ光姫の誕生日やん?今年はせっかくやし誕生日パーティーやらん?』


 誕生日パーティー。せっかくだし行きたいな……。


 その時までにはきっと体調も治ってるよね。誕生日パーティーは三日後だし。


 『うん!色々ありがとね綾乃ちゃん。』


 『全然いいんやで!』


 『そう言えば恋ちゃんとはどうなの?』


 『いや……まあ〜。あんまりやな。恋ったらちっともうちにドキドキしてくれへんし……』


 最近よく恋ちゃんに恋愛相談を受けるようになった。理由は私達がラブラブだかららしい。

 綾乃ちゃんがたまに恋ちゃんを見つめているのは知っていた。その瞳には友達以上の想いが込められていたことも。


 でもまさか本当に好きだったなんてっ。ぜひとも応援したい二人だ。


 『お祭りの日に、勇気が出たら……うち告白しようと思ってるんよ。その日はあんまり四人でおられへんかもしれんけどごめんな〜』


 『わかった。頑張ってね!一番応援してるよ』



 祭りの日……か。何かが突っかかるような。喉元まででかけているのになぜか思い出せない。





 そもそも最近おかしい。



 ―――第一、あまりにも光姫ちゃんの死の付近の記憶が思い出せない。


 最初は私が忘れようと、思い出さないように封印していたからだと思っていた。自分を守るために。これ以上傷つかないためだと。


 でもあれから覚悟を決めて、何度も思い出そうとしたのに……ただ、強い頭の痛みを引き起こしただけ。その場でうずくまってしまう程の強い痛みを。




 これももしかして、私が未来から過去に戻ってきた副作用のようなもの?



 それに……なんだか小学四年生以降の記憶もあやふやになってきた。





 ――――まさか。いや、そんなはず…。



 (駄目だ……考えても仕方ないのかな)



 私はその日はすぐに眠りについた。




 ◇◆◆◇




 「お邪魔します……」


 「あ!海夏、ありがとうな来てくれて!」


 「当たり前だよ!準備を綾乃ちゃん一人にさせるわけにはいかないし!」


 「そう言ってくれて助かるわ〜。恋はそこでなんか飾り付けで遊んでるわ…ほんまおこちゃまなんやから……」


 そういう綾乃ちゃんの横顔は幸せそうで…何だか見ていて微笑ましい気持ちになった。


 「じゃあ早速手伝うね。何から手伝えばいいかな…?」


 「う〜ん。実は海夏が来る前にうち一人である程度終わらせちゃったからなあ。あ、そうや。料理の盛りつけ手伝ってくれん?」


 「わかった!任せてよ」


 料理の盛り付けを手伝うために綾乃ちゃんと二人でキッチンに向かう。綾乃ちゃんの家は私の家と違って何だか広いなあ。


 キッチンの前に立ち、綾乃ちゃんが準備してくれる。


 「さ、とりあえずやろか〜。っていってもたった四人分やしすぐ終わるけどな。海夏は座ってゆっくりしててくれていいんやで?」


 「ふふ、そうはいかないよ。それに綾乃ちゃんには聞きたいこともいっぱいあるしねっ。綾乃ちゃんさっ、祭りの日告白するんでしょ……?」


 そう言うと綾乃ちゃんは頬を染める。恋ちゃんの事を思い浮かべてるのかなあ。ほんと可愛い。完全に恋する乙女だ。


 「うち……恋のことやっぱり好きやねん……でも正直怖い気持ちもある。うちらはずっと幼い頃から仲良かったけど、その関係まで壊れちゃうんやないかって……」


 「う〜ん…そうだね……」


 確かに告白して、失敗すれば関係値が変わってしまうこともある……。最悪他人より遠くなってしまうことも。


 でも、綾乃ちゃんと恋ちゃんにその心配はないと思った。恋ちゃんが綾乃ちゃんを恋愛として好きかは分からないけど……。

 綾乃ちゃんのことを大事に思っているのは自然と伝わってくるから。


 「無責任なことは言えないけど……恋ちゃんは綾乃ちゃんのこと凄く大事に思ってるよ……だから、ね?心配しないで」


 「う〜海夏……ほんまありがとうな…」


 綾乃ちゃんの力に少しでもなれているなら良かった。いつも助けてもらってばかりだから……


 「海夏のお陰でちょっと自信ついたかもしれん!なあ―――――」



 綾乃ちゃんの言葉を手を動かしながら聞いていた。



 

 汗が頬を伝った。


 ――――手先が痺れた。


 刹那視界が暗転して、私の体は言うことを聞かなくなった。


 (あっ……………)


 膝から崩れ落ち、キッチンに頭を強く打ち付けてしまった。世界が揺らめく。



 「!!え、海夏っ……!!大丈夫!?」



 (なん……で………?)


 私はその場からしばらく動けなかった。キッチンに寄りかかって朦朧とする視界が醒めるのを待つ。



 「ねえ!!しっかりして海夏!」




 次第に元の視界が戻ってくる。頭の強い痛みは消えないけど、何とか堪えて返事をする。

 

 「…ん……だい、じょうぶ……」


 「み、海夏っ。良かった……ほんまに」


 


 ◇◇◇




 それから私はなぜかひたすら綾乃ちゃんに謝られた。

 『ごめんな……うちが海夏がしんどいの気づけんくて、手伝ってもらおうなんてしたから……。ほんまにごめん……』




 綾乃ちゃんは私が気分が優れない事を我慢していたと思っていたみたいだけど――私は別にほんの数秒前まで何もなかった。

 依然、体調はあまり優れないけど……何かが違うような気がする。


 

 …………貧血とかだよね?




 「おじゃましまーす!あやのんどこー?」


 光姫ちゃんの声。


 「海夏は今日はゆっくりしててな。うちが出てくるから」


 「あ……うん。ありがとね」

 

 玄関近くで光姫ちゃんと綾乃ちゃんが喋っている。足音はリビングまでのびてくる。


 「お!光姫!!本日の主役が来たな!奥にちゃんと光姫の大好きな海夏もいるぞ!」


 そこに恋ちゃんも混ざったようだ。


 私もだいぶ頭痛と目眩が収まってきたので、光姫ちゃんのもとに駆け寄る。


 「光姫ちゃんっ!会いたかったよ!」


 光姫ちゃんに抱きついた。あったかい。


 「みっちゃ……海夏。えへへ…」


 光姫ちゃんはとっても幸せそうな顔で微笑んでくれる。その顔をみるだけで私は満ち足りた気持ちになる。


 「あらあらお熱いな〜ほんま……」


 そう言う綾乃ちゃんの顔はどこかぎこちない。さっきの私の様子をみて心配してくれてるんだ。


 「綾乃ちゃん、もう大丈夫だよ。さっ、せっかくだしいっぱいお祝いしよ!」


 私は、心配をかけないように笑みを浮かべて声をかけた。

 

 


 

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