引導を渡され、シャム猫と四国八十八ヶ所をお遍路をして神仙道を学ぶことになった。

ぢんぞう

発心の道場 阿波国 1〜23番札所

第1話「徳島県・足心官道」

「♫ぐるぐるまわ〜る。まわ〜る、まわ〜る」

 これが世界最大級の鳴門の渦潮か、初めてみた。


 クルーズ船に乗りまじかで渦潮を見ている。三日月武蔵みかづきタケゾウ、21歳。

 四国八十八ヶ所、お遍路の旅にやってきた。

 時は2013年。

 のちに仙術学園の武術教師、武神と呼ばれるタケゾウの若かりし時の物語である。


 ちなみに、鳴門海峡で見られるうず潮は世界最大級で、大潮時には最大直径が20mにもなるという。


 🙏🙏🙏


 お遍路っていったいどうすればいいんだ?とりあえず衣装と道具を用意するか。

 一番札所の側のお遍路用品の店でタケゾウが品物を選んでいる。


同行二人どうこうふたり? なんだこれ?」

「あんた、学生さんかい? お遍路を始めるの?」 

 お店の店員は高齢の女性である。


「それは同行二人どうぎょうににんと言って、遍路旅へんろたびは、常に弘法大師こうぼうだいしと寝食を共にしているという意味なんだよ」

「へ〜っ、弘法大師ね……」

「歩いていくのかい?」

「どうしようかな? 四国八十八ヶ所を巡ってこいとおやじに言われたんだけど、俺にはなんのことやら、何も知らないんだ」


「ご両親から言われたの? 何かしたの?」


「酔っ払って、気がついたら警察に捕まって、誰かとケンカしたらしく、示談で釈放されたんだけど、おふくろがえらく怒って、『体ばっかりデカくなって、頭が空っぽなんだから、このままだと今後も事件を起こして、きっと後悔することになる』っていったら、おやじが……『すでに空の境地か……凄いな。空か……後悔ね……空と後悔? ……空海? そうだ、四国八十八ヶ所を巡るお遍路がいいな』って言ったんだ」


「それでお遍路だよ……」

「ずいぶん簡単にお遍路になったのね。昔のお遍路は命がけで、衣装も死装束の白で、死んだら杖がお墓になるってくらいのものだったのよ」

「そうなの? 車で回れば10日くらいで回れるみたいだよ」

「まあ、いまわね……」


 売店で売っている白衣びゃくえを見ているタケゾウ。

「なんにもお道具が無いんなら、セットがあるよ。お遍路に必要な物が入っていて一万二千円」

 売り子のお婆さんは、お遍路で必要な白衣びゃくえ金剛杖こんごうづえ菅笠すげがさ輪袈裟わげさ・さんや袋・持鈴じれい納経帳のうきょうちょう納札おさめふだ念珠ねんじゅ経本きょうほん線香せんこう・ロウソク・ライターなどが入ったセットを勧めている。


「便利なセットがあるね。じゃあ、それでいいや」

 タケゾウは、特に考えずセットを買った。


 さっそく白衣を着てみた。

 自分が背負っているバックからワッペンを取り出した。

「おばさん、この辺に、これを縫い付けてくれる店はないかな?」

「ミシンでいいなら、私が縫ってあげるよ?」

「本当かい? じゃあ頼むよ。この白衣の左肩に縫い付けて欲しいんだ」


 タケゾウが出したワッペンには『足心官道そくしんかんどう』と書かれていた。

 店員のお婆さんはミシンで白衣に縫い付けてくれた。

「ありがとう。手数料はいくらになります?」

「それはサービスでいいよ」


「四国の人は、気前がいいね。おやじも昔に大きな登山用のリュックサックを背負って喫茶店で食事して、レジでお会計をしようとしたら、お代はいらないってレジの人に言われてビックリしたって言ってた」

「この辺はお接待の文化があるからね。お遍路さんに食べ物やお茶をあげることで自分の代わりに三拝をしてもらうという考えがあるのさ」


「へ〜っ、じゃあ、俺もお礼に足心官道をやってやるよ」

「足心官道? さっき縫い付けたやつだね。しかし、聞いたことないけど、それはなんなんだい?」


「足心官道と言うのは、足のツボ押しだよ。爺さんが官と言う人に足ツボを習って、おやじから俺は習ったんだけど、おやじは、勝手にやり方を改良して名前も足心官道と付けたんだ。だから、足心官道と言っても誰もわからないんだよ」

「足の裏を揉むやつかい?」

「おやじのやり方は、足の指をよく揉むのとふくらはぎをていねいに揉むんだ。元になったやり方もできるけど、おやじのやり方の方が効くと思う」


 お婆さんは興味本位で椅子に座り足を投げ出した。

 タケゾウは足の裏をさっと揉むと、ふくらはぎと膝の付け根を揉んだ。


「おふくろは、あんたは、ほっとけばろくに人と会話もしないで八十八ヶ所を巡るから、足をもんで人と話しながら巡ぐりなさいって言って、足心官道って刺繍を縫ってくれて衣服につけなさいってくれたんだ」

「なるほどね。お父さんから技を教わったのね。ひょっとすると、お父さんは神仙道のひとかもしれないわね」


「しんせい? 爺さんは“しんせい”っていうタバコを愛用してるが、フィルターも付いてないしケムリが凄いんだ」

「タバコじゃないわよ。お遍路をする人の中には、たまに仙道を使う神仙道と言われる人達がいるのよ。お大師様がやっていた密教は仙道と密接につながっていて、お坊さんやお遍路をする人の中に不思議な技を持った人がいるのよ」


「ふ〜〜ん、俺のおやじも千里眼を持ってるらしいし、爺さんは導引と言う仙術を使っているけど……」


「たぶん、あんたも神仙道を身につける人だと思うわ、あんたに足をもんでもらうと電気が走るようだもん。結願けちがんできるといいわね」


「えっ、ケチ?」

(足だけだとケチ臭かったか? 腰もやった方が良かったか?)



 📜📜📜神仙道ワンポイント。

 結願とは四国八十八ヶ所の札所ふだしょをすべて打ち終えることである。


 四国八十八ヶ所の全工程は、約1,400km。

 徒歩だと1時間約4km。

 1日25〜40kmで平均50日前後で結願。

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