10年一緒だった幼馴染が無惨にNTR快楽堕ちして壊れかけた僕に、学校一の天使が「10年間ずっと見てました」と笑ってくれた。
※第1話-2 結衣 十年の「おはよう」より、昨日の「待て」を選んだ私が正しい。
※第1話-2 結衣 十年の「おはよう」より、昨日の「待て」を選んだ私が正しい。
◇
――ねえ、私は悪くないよね?
好きだって言われた数は、努力の証だよ? かわいいって言われるのは、ちゃんと磨いたから。
“器が大きいほうが、正義”だから。……笑ってる?
だって、そうでしょ。
誰でもいいわけじゃない。ただ、私を一番に理解してくれるなら、それで――。
スマホの鍵垢に指が滑る。
タイムラインには、同意の拍手。共感のスタンプ。正しさの証拠。
昨日の雨のことは書かない。幼馴染の名前も。彼がどんな顔で立ち尽くしてた、かも。
かわいそう、なんて言葉は、フォントの端で丸まって消える。
◇
昼休み、女子グループで集まる。
「相性って、音だよ音。氷がカランって鳴る間で、体温が上がる人いるじゃん?」
「わかるかも、それ。あと、腕時計を置く音で合図くれる人、天才」
「手首をトンって叩いてくるのも好き。声いらないのがいちばんえろい」
「わかるわぁ〜! やさしいのに、容赦ないよね。やっぱ社会人って違うよね〜!」
集まる面子がいつも同じだから、会話内容だって似通る。下卑た話題。
机の下で、太ももと親指が震えた。
——《今夜、マンションで》。
「ねえ、結衣は?」
「……匂いと、跡かな。つかないくらいの、ぎりぎり」
言ったあとストローを咥えた。
「うわ、性格出る〜! 上手い人の言い方だわ!」
「あとは、喉の温度と、味。首すじの塩っぽいとこ」
「変態じゃん〜! でも、うちも好きかも、それ」
「跡残す人いるじゃん。あれ、濃くつけられるのは嫌だけど、薄く残るのは……ちょっと、いい」
ぷは、と口を離す。コンビニで買ったリプトンのストローの先に、リップが移る。
周囲は「やば~!」とはしゃいでる。このグループにおいて女王は私。
「てか結衣、あの幼馴染フったの? すっごく仲良かったのに~」
「……幼馴染って保険じゃん?」
周囲の友達がぎょっと目を向けた。すぐあとギャハッと笑う。
「結衣、それヤバ~!! てかその幼馴染、後ろにいる! いるから!」
「一昨日の雨の日、幼馴染くんさ、映画みたいに突っ立っててウケた」
「結衣~! やめ、やめて~!!」
「傘くらい自分で持てなんだよね。ずぶ濡れのまま見つめられるとかホラー」
「やめて〜笑い死ぬ」
「あれでキュン来るの、中二女子だけ」
言い過ぎたかな。……まあいいか。アイツだし。
あ。教室を駆けて出て行った。はあ、いなくなって良かった。目障りだったし。
「ねえ結衣っ、今日もあの金髪先輩とヤるの?」
「う~ん、今日は……。まあ、あの人も悪くはないんだけど……」
「ぎゃはっ、何それ~!」
グループの輪で笑いながら、胸の内側は、ちょっとだけ暴れてる。
わかる人に当たる夜は、だいたい沈む。気分も、肉体も。
◇
拘束具で手首を後ろに束ねられて、カーペットの上で跪く。
膝の骨にじんわり熱が移って、呼吸だけが勝手に浅くなる。
「目、上げて」
言われるまま顔を上げると、すぐ近くにパパのぶっとい膝。
届きそうで届かない距離。舌を伸ばしても、触れられない。
視界の端で、白いタオルが湯気を吐いていた。温かな気配。少しだけ金属の匂いも。
「合図は覚えているか? 結衣」
「……“止めて”は足で一回。“もう一回”は、二回」
「いい子だ。じゃあ——待て」
待て。
短い言葉のくせに、体の中では長い。
首の後ろを片手で支えられて、鎖骨の上に、温タオルがふわっと置かれる。皮膚が一気に緊張する。
そのまま、胸の谷に沿ってゆっくり圧を滑らせていく。温くなる。
そして、視界が閉ざされる。
タオルが外れる音。空気が冷える。
次の瞬間、角のある冷たさが、鎖骨の稜を叩く。きゅ、と高い音が骨の奥で跳ねて、皮膚の下に星が散る。
「——っ」
声は出さない、出せない。
温かさの上に濡れる線。外周だけを丁寧に。肋骨の丸みに沿って、胸の先のはるか手前で旋回していく。
中心は避けられる。避けられるほど、そこに全神経が集まってしまう。
「待て」
もう一度、声が落ちる。冷たさはわざと遠回りしながら。
何かがカチと鳴った。
温度のある指が、胸の外周に円を描く。バニラのフレーバー。……温感ローションだ。
触れているのは周りだけ。なのに、内側が勝手に熱を持つ。
「行けって言うまで、何もするなよ」
うなずいた。耳のふちが、やさしく痛む。
歯の跡が短く残るのを感じる。すぐにパパの親指が撫でて、消していく。
「待て」
今度は、胸の先の周囲ぎりぎりに、温、冷、温の順番で境界線を描かれる。
見えなくてもわかる。温タオルで包まれてから、すぐ氷だ。
神経が跳ねたところへ、温感のジェルがじわっと浸みる。
中心に触れないまま、外周の圧だけで、形が変わっていく。どんどん先っぽが、硬くなる。
自分の呼吸の音が恥ずかしい。けど止まらない。
「うずくの、言葉にしろ」
「……ずるい。いま言わせるの、ずるい」
言い終わらないうちに、背中を伝う、爪の線。
肩甲骨の間を軽く引っかかれて、背筋が勝手にしなる。甘くて容赦がない。
痛い、気持ちいい、が同時にきて、頭の中が水みたいになって、シェイクされる。
「ん、ぅ……もっと、意地悪して……っ。もう、どうなってもいいから……っ」
噛み跡と爪跡は、どちらも浅い。浅いから、逃げられない。
「まだ待て」
胸の先は相変わらず避けられて、輪郭だけが熱くなっていく。
そこに、氷。
外周に冷たさが刺さって、まるで神経がそこにだけ走るよう。
そこへ、温。
ローションの熱が遅れて追いかけてきて、境界線が溶ける。
触れられてないのに、触れられたみたいに、皮膚が勝手に震える。
「雌豚だと認めるか、結衣?」
目隠しを外される。
パパが私の顔を覗き込む。
目をそらさないで、と無言で命じられる。
跪いたまま、手首は縛られたまま、縦に頷くしかできない。
「行け——と言ったら、君はどうする?」
「……意識を、落と、します」
「そう。じゃあ、まだ——待て」
時間が伸びる。
耳たぶの裏を、歯で摘まれて、舌で熱を足される。
首すじの塩っぽいところに、吐息だけ、ふわっと落とされる。
胸の先からは相変わらず外れて。
跪いたまま、それを悟らせないようにするのが、もう無理。
指先が、最後の軌道を描く。
温タオルで包んで、氷で切って、温感ローションで縁取って——。
「——イけ」
合図が、真上から落ちる。
胸の先端に、ほんの一瞬だけ、温かい指のはらが触れた気がした。
それが合図の完了。たったそれだけ。
でも、待たされた時間の分だけ、体のなかの何かが崩れて、堰を切った息が熱を連れてこぼれる。
——獣みたいな声が漏れた。
背中が弓なりにしなり、後ろ手に縛られた腕が震える。
体の芯が、ぎりぎりと絞られるような快感が突き上げてくる。一度じゃない。何度も、何度も。波が寄せては返すように、でも返すたびに大きくなって、『結衣』という器から溢れていく。
びくん、と、腹の奥が大きく痙攣する。
その瞬間、ぷつり、と最後の理性が焼き切れた。
下腹部に、もう抑えようのない熱の塊が生まれる。それが決壊する。
じゅわ、と生温かい液体が太ももの内側を伝う感覚。恥ずかしい、と思う間もない。それすら快感の奔流に飲み込まれて、ただただ熱となって全身を駆け巡る。
膝をついたまま、カーペットに染みが広がっていくのがわかる。べしょべしょに濡れていく。
ひく、ひく、と体が震える。止まらない。
「お、お、お、……ッ、い、く……いっちゃ、う……! ん、ぅうううッ!」
もう一度、体の奥が大きく脈打つ。今度はもっと強い。視界が真っ白に明滅して、パパの顔も、部屋の景色も、全部が溶けて消える。
無限に続くかのような痙攣の嵐。
さっき漏らしたばかりなのに、熱い滴がまた。
どれくらい時間が経ったのかわからない。ただ、快感の頂点で溺れ続けていた。
やがて、荒れ狂う嵐が少しずつ凪いでいく。全身の力が抜けて、くたりとパパの足元に崩れ落ちた。
は、は、と犬のように浅い呼吸を繰り返す。涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔を上げることもできない。
パパは肩に口を当て、短く噛む。
浅い痛みで、頭が現実に引き戻される。
爪の線で背中を撫で直され、余韻を均す。
手首の拘束具はまだ解かれない。
「よくできたぞ、雌豚。——待て、も、行け、も」
褒められるの、悔しいくらい、嬉しい。
勝ってる顔の作り方は知ってるのに、今日は作れない。
跪いて、縛られて、合図で沈む。
冷静に考えたら、私、たぶん、かわいそう。
愛のない肉欲の虜になって、先なんてない。
ろくでもないバカ彼氏。ろくでもない変態パパ。もしもこのままじゃ、卒業後の就職先はキャバか、ソープか、もっとひどいか。
快楽にわざと溺れた。きれいに墜ちた。ちゃんとイった。最悪。最高。最悪。
目の前の肉欲は、最も欲する温度を満たしてくれる。
その事実のほうが、今はずっと大切。
「ほどいて、ほしいか?」
パパに言われて。
くっさいびしょびしょの中、足を、だん、だん、と鳴らした。二回だけじゃなくて、何度も。
「変態」
「知ってる」
パパが笑って、もう一度、氷の先で胸の外周をなぞる。
温かいタオルが追いかけてくる。
外周しか触られていないのに、股ぐらの芯が震える。
私は縛られ、自らの尿の下で跪いたまま、目を上げ、次の命令を待つ。
「雌豚の結衣を、今までの人生のつまらない思い出ごと、ぐちゃぐちゃに壊してください、ご主人様」
一昨日捨てた、惨めな犬っころの顔を思い出しながら、もっとめちゃくちゃにされるの、最高。
金髪彼氏とのような、ただひたすら長時間、肉欲をむさぼるようなのも好きだけど。
こういうのもいい。
ていうか、『好きです』なんて綺麗な言葉じゃなくて、もっと汚い快感だけでいっぱいにしてくれなきゃ。
幼馴染のアイツじゃ、私を満足させることは、できない。
――ねえ、私は悪くないよね?
◇
教室の扉の前で、また幼馴染と目が合う。
名前は呼ばない。呼ぶと、昔の私が戻ってしまう。
「おはよ」
平熱で挨拶する私って、本当に偉いと思う。
だから、あなたの目の揺れを見ないふり。
避難所は壊さない。非常時に使うから。だっていつでも開いてるもんね?
十年の「おはよう」より、昨日の「待て」を選んだ私が正しい。
◇
教室の席に着くと、ふと引き出しから出てきた。
図書カードだ。今時、こんなものが?
備考欄の細い字だけは、やけに新しい。
“犯罪者さんへ。/視覚を返して”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます