第2話:魔法の部屋

さくらは、セラピースクールに通っている。


(私、普通の子供じゃないんだって。でも、学校よりだんぜん、こっちのほうが好き。だって、大好きな日向しずか先生に会えるんだもん。)


セラピールームは、ふんわりとしたカーテンと

色とりどりのクッションが並び、温かい空気に包まれていた。


しずか先生が、優しい笑顔で言う。


「さくらちゃん、ここは怒られない魔法の部屋。だから、何でも話してね」


さくらは、不安そうにたずねた。


「本当に怒られないの?」


先生は、うんうんと頷く。


「本当だよ。やりたいこと、好きなこと、なんでもいいんだよ」


「じつはね……」


さくらは言いかけたが、言葉が詰まってしまう。


本当のことを話したら、この優しい先生にも嫌われてしまうかもしれない。


そんな怖さが、さくらの口を固く閉ざさせた。


しずか先生は、さくらの心の揺れを感じ取ったように、そっと語りかける。


「大丈夫。嫌なら話さなくてもいいよ。好きなことから話そうか?」


少し考えてから、

さくらは意を決して口を開いた。


「実はね、お母さんの顔がすごく小さくみえたり、机が巨大になったり、部屋がものすごく広くなったりするの…」


そこまで言うと、不安そうに口をつぐんだ。


先生は驚くことなく、穏やかな声で言った。


「それはね。逃げたいって気持ちが強くなると、頭の中で世界が変に変わっちゃうんだ。怖いことから守るためにね。」


そして、さくらの心に寄り添うように続けた。


「 なんだか、自分だけどこかに行っちゃったみたいに感じたり、みんなの声が遠くで聞こえたり……そういうこと、ないかな?」


さくらは、こくんと小さく頷いた。


先生が自分の秘密を知っているみたいで、少し驚いたけど、なんだかホッとした。


「そっか…。じゃあ次は、さくらちゃんの好きなことを話そう。何が好きかな?」


もう一度、優しい声が響く。


「お魚が好き!」


さくらが目を輝かせると、先生は笑顔でたずねた。


「へぇ、どんなお魚?」


「フグ!」


満面の笑みで答えると、先生もにっこり。


「フグが好きなんだね。丸くて可愛いもんね」


「うん、赤いフグがいい!」


部屋に楽しそうな笑い声が広がり、さくらの心が、少しだけ軽くなった。

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