第15話
ラウンドワンでの“ダブルデート”は、異世界部の面々の間に新たな感情の波紋を広げていた。
特に、ユナとカイの距離が「あと少し」まで縮まった光景は、遠くから見ていたユウトの「独占欲因子」を決定的に刺激する。
彼のユナへの「守りたい」という感情は、もはや「縛る」という制御不能な領域へと足を踏み入れ始めていた。
月曜の朝。教室でのユナの周囲には、目には見えない微細な異変が起こり始めていた。
彼女が席を立つと、ペンケースがわずかに滑り落ちたり、ノートのページが勝手にめくれたりする。
それは、ユウトの無意識の「独占欲因子」が、ユナの半径数メートルに干渉し始めている証拠だった。
ユナ自身は「気のせいかな?」と思う程度だが、どこか息苦しさを感じていた。
昼休み。廊下でカイがユナと楽しそうに話しているのを見つけたユウトの瞳の奥で、赤い光が激しく瞬いた。カイが、いつものようにユナの頭をポンと軽く撫でた、その瞬間――。
ユナとカイの周囲の空気が、一瞬にして歪んだ。
廊下の蛍光灯がチカチカと点滅し、近くの掲示板の紙が、突然、強い風もないのにバタバタと音を立てて揺れる。それは、ユウトの「魔王因子」が、ついに顕現した証拠だった。
「……ユナに、触れるな」
ユウトの声は低く、冷たかった。彼の視線は、カイを射抜く。カイは、その異様な気配に、反射的にユナを庇うように一歩前に出る。彼の体内を、異世界での「勇者」としての力が駆け巡り、その身から微かな温かい光が放たれる。
「ユウト、何を……!」
カイの「勇者因子」とユウトの「魔王因子」が、廊下の真ん中で激しく衝突する。目に見えない力の奔流がぶつかり合い、周囲の生徒たちが、ただならぬ空気に気づき、遠巻きにざわめき始める。
その光景を、廊下の隅からカナが冷静な瞳で見つめていた。彼女のタブレットには、二人の因子の衝突を示すデータがリアルタイムで記録されていく。
(やはり、顕現した。そして、兄さんの因子も……)
カナは、このままでは事態が収拾不可能になると判断し、一歩踏み出した。
「先輩たち。ここでの『実験』は、あまりにも無謀ですよ」
カナの声が、張り詰めた空気を切り裂く。彼女の言葉は、二人の因子の衝突に微かな揺らぎを与えた。
美作先生は、職員室の窓からその様子を眺め、煎餅を口に運びながら、満足げに微笑んでいた。
「素晴らしい。恋愛因子の『選択』が、これほどまでに強力な『衝突』を引き起こすとは。これは、まさに私が求めていたデータだ。」
彼の脳裏には、異世界とこの世界の境界を曖昧にする「プロトコル」の完成が、より鮮明に浮かび上がっていた。
そして、その全てを、校舎の屋上から、ランドセルを背負った幼き観察者の少女が静かに見下ろしていた。彼女のノートには、ユウトの暴走と、カイの覚醒、そしてカナの介入が、新たな「因子の記録」として刻まれていた。
「……やはり、この世界でも、同じ衝突を繰り返すのか……」
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