第6話 父のせいでトラウマが増えます

 父の趣味は釣りです。友人と釣りに行き、ちゃんと自分で魚を捌きます。僕は父が魚を捌いているのを幼い頃から見ていたので、教えてもらわなくても、自然に捌くことができるようになりました。


 ある日。釣りに行った父は、いつもと違うものを持って帰ってきました。


 それはバケツいっぱいに入った、小さなアナゴ。もう死んでいますが、やたらとツヤツヤしていました。たぶんバケツの中には、小指くらいの太さのアナゴが200匹以上います。


 船を出してくれた漁師さんが、捌くのが面倒くさいからとくれたようです。


 そして当時、僕は小学校の高学年でしたが、小さな穴子は腹に切れ目を入れて、親指で内臓を掻き出すだけなので、やってみろと言われました。まぁ、父も面倒くさかったんでしょうね。


 僕はバケツに手を突っ込んで、アナゴを捌いていきます。最初は良かったんです。そんなに難しくはないので。でも5匹目くらいで事件が起こりました。


 アナゴが、死んでいないのです……。


 半分くらいは生きていたんです。僕が手を突っ込んだことで起きたのか、バケツの中でニョロニョロと動き始めました。


 数匹ならいいんですよ。でも100匹単位で紐状のものが絡み合って、ニョロニョロするのを見ていたら、段々と気持ち悪くなってきました。


 父は横で魚を捌きながら「早く終わらせろよ〜」と呑気に言っています。


「でもこれ、生きてるよ!」


 動いているものは無理だと言いました。しかし。


「殺せ」父は木のまな板に包丁を突き刺しました。


 ——なんて親だ……!


 小学生に「殺せ」とか言うなよ。殺し屋にでも育てるつもりか。


 もうやるしかないんだろうと思い、僕は意を決してバケツに手を突っ込みました。


 アナゴはさらに元気になって、絡みあいます。僕の指にも絡んで、腕に巻きつきながら、上へ登ってきます。そして袖の中に潜り込んでバタバタと暴れて——


「ひぎゃあぁあぁぁ!」


 全身に鳥肌が立ち、耐えきれなくなった僕は走って逃げました。後ろで父が何かを叫んでいますが、もうそれどころじゃない。




 それから僕は、ニョロニョロしたものがダメになりました。立派なトラウマです。


 僕は虫も怖くはないし、Gも顔に飛んでこなければ平気です。そんな僕に最大の弱点を作ったのは父よ、あなたです!

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