第8話
「セレスティナ様。ドレスが届きましたよ」
ジェニーと数人のメイドが大きな箱をいくつも抱えて部屋に入ってくる。
その量の多さに、私は思わず驚いてしまった。
「こ、こんなに…!?」
2、3着もらえるなら幸せだと思っていたから、予想外の展開にただただ驚く。
色やデザインは様々で、どれも素敵で思わず見惚れてしまう。
「皇帝陛下に、御礼を言いに行かなくちゃ」
ジェニーが一番似合うと言ってくれた青色のドレスを着て、私は書斎に向かった。
この扉を叩くのは、少しばかり勇気がいる。
ノックすると「誰だ」と返事が返ってきた。
「セレスティナです」
「入りなさい」
恐る恐る扉を開くと、今日も今日とて美しい見目をした陛下が顔を上げずに座っていた。
「あの、皇帝陛下。ドレスが届いたんです。どれも素敵で…本当にありがとうございました」
素直に嬉しい。
私なんかにはとても恐れ多いほどの量と質だったけれど、嬉しいのに間違いはなかった。
「それも、あんなに沢山……」
皇帝陛下は、さっと顔を上げてーーしばらく、何も言わなかった。
やっぱり、分不相応だと思われたかしら。私みたいな、くすんだピンク色の髪には似合わなかった…?
「あの、やっぱり、私には……」
「…いや、いいんじゃないか」
彼がそう言った瞬間、私は思わず俯いていた顔を上げる。その時はすでに、彼はもとの仕事へととりかかっていた。
「あ、ありがとうございます…!」
似合ってる…のかはわからないけれど、少なくとも変ではない……のよね?
心から安堵し、私はその書斎をあとにした。
◇
「…クリス」
「はい」
彼がいつにも増してにやにやと笑っているのはーーおそらく自分の言葉のせい。
「まさか皇帝陛下が人をお褒めになるとは」
「……」
「セレスティナ様も美しかったですし。楽しみですね」
「何が」
「結婚式ですよ!!!」
はぁ、とため息をつく。部下が毎回この調子で、もう見てて疲れた。
ただーー綺麗だと思ったのは間違いない。
そして、どことなく姉に重ねてしまったーー。もう今はいない、亡くなった姉上と。
それに、彼女は、今さっき、初めて微笑んだのだ。
ふっと笑った彼女は、それはもう綺麗でーー
(何を考えているんだ、俺は)
誰かを慈しむ心など、もうとうに捨てたはずだった。
それなのに、今更になってーー。
「仕事するか」
忘れよう。彼女を、傷つけたくないから。
◇
それから、彼からは毎日のようにプレゼントが贈られてきた。
自分でも謎だが、どうやら「ドレスに合うアクセサリーを」とのことらしい。
一国の王女であり皇帝の婚約者として、相応しい姿でいろ、ということだろう。
ジェニーはひとつひとつを手に取っては「お似合いです!」と喜んでいたが、私にとっては高価すぎてとても軽く受け取れないものばかりだ。
「ジェニー」
「はい!」
「私、皇帝陛下に、嫌われていない、ってことよね…?」
ジェニーはそれを聞いて、一旦目をぱちくりさせた後、にこにこと微笑んだ。
「嫌われているわけがありませんわ!それに、皇帝陛下が女性にこんなことをなさるのは初めてですよ」
そうなのか、と私も目をぱちくりさせる。
やはり、自分があまりにも婚約者に似つかわしくない格好をしていたからだろう。
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