【03】「妖精どもをぶっ飛ばせ!」

 ───59年前のこと。


 世界中の子供たちが、同じ夢を見た。

 豪華絢爛なベッドで眠る貴族の子供も、薄汚れた布団で眠る農奴の子供も、皆同じ夢を見た。


 それは、どんな夢だったか。


 何もない灰色の荒野。

 頭上にはドス黒い雲が渦巻いている。

 薄寒い風がただ吹いている。

 その荒野のど真ん中に子供が一人ぼっち。

 余りにも廃れた世界で、子供は寂しくなる。


 すると突然、子供の頭上に「光」が差し込んだという。

 夢の中の子供は、空を見上げた。

 あの不吉な黒い雲が開けたのだ。

 誰かがこじ開けたかのように、暗雲の中にぽっかり穴が開く。


 「神々しい光」が子供を照らす。

 親に抱かれたような安心感が、子供たちを包み込む。


 突如として、空から言葉が降ってきた。

 それは荘厳で深みのある声だった。

 超越的な存在を感じさせる、神秘的な響きだった。

 まさに天啓だった。


 翌朝、夢でその言葉を聞いた子供たちは、その啓示を親に伝えたという。

 多少の聞き違えはあれど、皆ほとんど同じ予言めいた言葉を聞いたという。

 それはほんの短い言葉だった。

 

『帝国の高貴な一族より生まれし四人組が、魔の王者を打ち滅ぼすだろう』


 それから何十年と年月が経った。


 人類最大戦力と呼ばれた「ファーストパーティー」が魔王討伐へ向けて出発した。


 当時、夢の中で啓示を受けた大人たちは確信していた。

 あの四人組こそが、極東の魔王を打ち滅ぼすと。

 人類を脅かす巨悪を、必ずや倒してくれると。




「……別にぃ〜、まだ兄貴たちだと決まったわけじゃないしぃ〜。俺の可能性だってあるしぃ〜」と悪態をつく、南の貴族の次男坊のことなど誰も期待していなかったのだった───。







 光り輝く美しい日差しが私を照りつける───。


「キィェェェェェェェェェ!!!」

「おらッ! どうしたどうしたぁぁぁ!? これで5匹目だぜ!!! おらぁ!!!」


 森の葉によって、ここは美しい木漏れ日となり、

 落ちた影が地面を鮮やかに彩った───。

 

「キィェェェェェェェェェ!!!」

「おいおいおい、もっと弾を避けてくれよ。動きが少ないと逆に退屈なんだよ。おっと、まだ戦うつもりか? ふん……いいぜ、一瞬で楽になる死に方を"lecture"してやるさ」


 そして、この美しい情景の中、躍る妖精と私の仲間たち。

 仲間たちはこの感激を大声で表現しながら、

 ダイナミックに動き回ります───。


「キィェェェェェェェェェ!!!」

「ぐははは! 昨日はよくもやってくれたなぁ! 俺の斧をくらえ!」

「やれやれ、とんだお馬鹿さんだな。よほど死にたいらしい。僕が引き金に手をかけて瞬間から、お前たちの"死"は確定してるのさ。ふん、まさに"one shot,one kill"かな?」

「ちょっとルドラ先輩! ジュウォンさん! 真面目にやってくださいよ!」


 調子に乗ってるバカ二人をライサが諫める。


 そう、私たちは今、死ぬほど優勢なのだ。


 なぜ優勢なのか?

 それは昨日、ライサがおつかいで山から採ってきたマンドラゴラのおかげである。


 ジュウォンの指示により、まだ奇声を発していないのマンドラゴラを、丁寧に袋に詰めて、ここまで持ってきたのだ。


 そして、妖精たちの目の前で土に包まれたマンドラゴラをすっぽんぽんにして、意図的に奇声を発させる。

「キィェェェ!!」って言ってるのがそれだ。

 もちろん私たちは耳栓をしているので大丈夫。


 その戦略がめちゃくちゃ効いている。

 妖精は明らかに嫌がって、動きが鈍くなった。

 そこを斧と銃と剣でバッタバッタ倒している。


 というか、なんか効きすぎて怖い。


「おらぁ! くたばれ!」

「やれやれ、僕の"territory"に入った時点でもう虫の息さ、おっと、実際に虫だったか」


 にしてもルドラとジュウォンがうざい。

 ルドラは妖精を潰す快感で調子乗ってるし、

 ジュウォンはなんかキモい皮肉ばっかり言ってる。


 ちなみに私は両手をかざしながら、土魔術で生成した大岩をプカプカと空中に浮かせている。

 魔術を増幅させる杖がないので、今は素手で土魔術を使っている。いつもより小さい岩だが、今はこれで十分だ。

 これも、作戦の一部だ。


「ちょっと2人とも調子乗りすぎ!」

「「……え?」」

「いや耳栓!」


 そんな馬鹿なやりとりをするくらい余裕がある。

 しかし、これからはそんな余裕もなくなるだろう。


「……来たぞ。マリ、準備しろ」

「おっけー、任せて」


  森の奥からズシズシと真っ白な巨体を揺らしながら、ヤツが現れた。

 ヤツは妖精の鱗粉に惑わされて興奮状態になっている。目は真っ赤だ。

 木の根をバキバキと破壊しながらこちらにやってくる。


 

 ───ハクイノシシだ。


 ■


 「白い犬には近づくな」


 これはガイア帝国のスラム街で生まれた子供たちが、物心つく前から親に刷り込まれる言葉である。

 そのスラム街では野良犬が住み着いている

 ただ、その野良犬にはそれほど危険性があるというわけではない。


 しかし、ごく稀に"真っ白な"犬が生まれるのだ。

 この世界の生き物はではごく稀に体全身が真っ白なら生き物が生まれるのだ。

 そして、その"白個体"は、例外なく群を抜いた"力"を持っている。


 20年前にスラム街に一匹の白い犬が現れた。

 ……その白い犬が、子供4人、大人2人、老人1人を殺したと誰が信じるだろうか。

 その恐ろしいほどの力と凶暴性で、多数の死傷者を出したのだ。


 だからこう言い伝えられる。

「白い犬には近づくな」と。


 犬だけではない。

 全ての生種の"白個体"には近づいてはいけないのだ。

 この世界において"白"というのは「危険色」なのである。


 ■

 

 俺はマリに声をかける。

「妖精はライサとジュウォンが抑えてるから、俺たちでイノシシをやるぞ! 作戦通りだ!」


 両手を空中に浮かせた大岩にかざしながら、マリはこくこくと頷く。


 その直後、三つ目イノシシは俺の突っ込んできた。


「ブフン!!」

「ふん!」


 俺は斧をバッテンの形に揃えて、ハクイノシシの突進に耐える。

 くそッ、コイツ力強すぎだろ。

 なんで冒険者ギルドはコイツを放っておいたんだ。


 ……けど……けど、耐えれなくはない。


「今だ、マリ! やってくれ!」

「待ちくたびれたわ!」


 と叫びながら、マリは嬉しそうにニヤつく。

 彼女も作戦に貢献できて嬉しいらしい。


 マリは両手をかざしながら手に魔力を込める。

 彼女の体がオレンジ色の光に包まれる。

 そのまま両手を三つ目イノシシに向けて振りかぶる。


「おりゃぁ!!」


 空中に浮いた大岩は、

 三つ目イノシシにめがけて落とされた……わけではない。


 三つ目イノシシの頭上に現れたのは、であった。


 そう、あれはただの大岩でない。

 大きな丸いカップのように中だけ空洞になるように細工された岩なのである。

 その空洞の中に、大量の水がなみなみと注がれていたのだ。


「グォ………?」


 三つ目イノシシはキョトンとした。


 自分はなんでこんなに怒っているんだ? といった感じだ。

 さっきまでの威勢はなく、目は赤から真っ白になっている。これが本来の色なのだろう。

 よく見たらこいつ結構幼い目をしてるな。

 ヤツは周囲をキョロキョロと見渡している。


 ……今がチャンスだ。

 

 俺はすぐさま迂回して走った。

 その巨体の真横に回り込む。

 

 イノシシという魔獣は、突進に特化している。

 そのためイノシシの頭蓋骨は太く頑丈な作りになっている。

 だから昨日の俺の攻撃は、あまり効いていなかった。

 攻撃箇所が頭だったからだ。


 ……つまり、ヤツの弱点は横だ。

 弱点とは言えないまでも、横腹あたりを攻撃すれば……


「喰らいやがれ!」

「……ブゴォ!?」


 俺は無防備な横腹に右斧を下から思いっきり攻撃する。

 ……よし、効いてる。


「まだまだ!」


 次に左斧を上から叩きつけるようにぶったぎる。

 さらにその攻撃で前のめりになった姿勢を持ち上げる勢いそのまま、一度目の切り傷をえぐるように右斧をもう一度突き上げるように斬りつけた。


 一連! 二連! 三連!

 三コンボだ。


「……ブゴォ!」

「……お」


 シロイノシシは大量の血を吹き出した。ヤツの白い毛が鮮血に染まる。

 ヤツは俺の斧をまともに喰らったあと、情けない声を出した。

 そしてそのまま……


 ───ズゥゥン


「……倒れた」

「……やったー! ルドラすごいじゃん!」


 ハクイノシシは巨体を地面に叩きつけるように、倒れてしまった。

 随分あっけなかったな。

 おそらく妖精に長い間鱗粉をかけられてしまって、体力を消耗していたのだろう。


「お前のおかげだ、マリ!」

「あ、うん、ふふーん♪」


 にしても、マリが上機嫌だ。

 あとでご褒美にマンドラゴラの煮物でも食べさせよう。


 これも全部、マリの水かけが上手くいったからだ。


 そう、ジュウォン曰く、妖精の鱗粉には弱点がある、と。

 それは、「水で洗い流されること」だ。

 体に付着した鱗粉によって対象の生き物を感情的にさせてうまく操作するのだが、たった今、鱗粉の効果が解除されたのだ。


 ちなみに昨日の水浴びも、この鱗粉を洗い流すためである。

 昨日のライサがいつにもまして情緒不安定だったのは、前衛でずっと鱗粉を浴びていたからだろう。


 そして、この水はどこから持ってきたのか?

 昨日敗走した時にマリがハマった沼から、である。


 近くの水場を見つけられて本当によかった。

 マリがうっかり沼に足突っ込まなかった見つけられなかっただろう。

 うっかり屋さんに感謝だ。


 ちなみにこれらの計画は全部ジュウォンの案である。


「ルドラ先輩! 妖精もほとんど倒しました!」

「おおっ! よくやった!」

「ふふん、ジュウォンさんのサポートのおかげですよ」

「そうだね、俺の完璧な射撃のおかげさ。まさに「鬼に金棒」「グリフィンに強化魔術」「俺に銃」だね。あ、マンドラゴラの頭は切っておいてくれ、そのままだと腐食が早まるから」

「……あんたね、そこは普通謙遜するのよ」


 マリがいつものようにつっこむ。

 みんな笑っていた。


 見渡すとそこらじゅうに妖精の死体が散らばっていた。

 多少逃げた妖精もいるのだろうが、これでもう群れをなしてヴァンガ村を襲うこともないだろう。

 よかったよかった。


 これで討伐任務は無事完了……

 

「……これはどういうことだ!!!」


 怒声。


 それが、和やかな雰囲気を切り裂いた。

 後ろから甲高い女性の声が響いた。

 人間らしからぬ声だった。

 俺はその声の主の方を見る。


「お、お前は……」

「……私の子供たちを殺したのはお前たちか? せっかく手に入れた白個体までやられているではないか!」 


 そこに立っていたのはと人間と同じくらいの大きさの妖精だった。

 長身のジュウォンくらいの高さ。

 目が真っ赤で肌は緑色。大きな虫の羽を背中に生やしている。パッと見は成人女性のようだ。


 というか、めちゃくちゃマッチョだ。

 腹筋バキバキだし、太ももぶっといし、肩だけでカボチャぐらいある。


 間違いない。

 あいつはフェアリークイーンだ。


 彼女の顔がどんどん怒りで歪んでいく。

 顔も緑色から真っ赤に変化していく。


「フェアリークイーンってなんですか?」

「妖精たちの群れの筆頭だよ。アイツが妖精をポコポコ産んでいるんだ。アレさえ倒せば妖精はもう村に来ないと思うよ」


 ジュウォンが冷静に解説する。


「やはり殺したのは貴様らか……生きて帰れると思うなよ!」


 肩のあたりの血管がピクピクしている。

 マジギレしてる。

 これ以上あまりヤツを刺激するようなことは慎まなきゃ……


「君さぁ、そんな筋肉ダルマなのに羽生やしてたら重くて飛べなくない? あぁそっか、頭の方が軽そうだから大丈夫か。ごめんごめん」


 ジュウォンはへらへらしながらそう言った。


 ・・・。


 そう……ジュウォンとはこういう男なのだ。


「な、なんだと……」


 フェアリークイーンは頭の筋をピクピクさせている。

 顔が完全に歪みきって、見るからにブサイクなっている。

 あーあ、どうすんだよあれ。


「許さんぞキサマらぁーーー!!!!」

 

 やばい完全にブチギレた。

 フェアリークイーンはバリバリの戦闘モードだ。

 怒らせたのはジュウォンなんで、アイツからやっちゃってください。


「ルドラ先輩、ここは私がやりましょう」

「おう、頼んだ」


 ライサが愛用の剣を構える。


「なに……そんな小娘が私と戦うのか?」

「む、失礼ですね。こう見えても強いですよ、私は」


 ライサの顔は自信に満ちている。

 よかった、ネガサから抜け出したらしい。


 ライサは剣を横に構えて、じっと相手を見つめる。

 耳をピンと立てられている。

 彼女の意識は静かに沈んでいった。


 あぁ、


「ふん、あとで命乞いしても知らんぞ。コイツを倒したら次は緑髪の銃使い、お前だ! 覚悟しておけ」

「へいへい」


 ジュウォンは軽く受け流した。

 筋肉ムキムキなフェアリークイーンを前にして随分の余裕だ。

 マリもライサが戦うとなった途端に、一気に気を緩ませている。気付かれないように生欠伸もしている。

 俺ももう討伐は終わったものだと思っている。


 フェアリークイーンという筋肉の塊が、恐ろしい速度でライサに迫る。


「子の仇だ! 死を待って償え!」


「……それは無理な相談ですね」


 俺含めほか三人ともゆったりとした余裕の態度だ。


 それはなぜか?


 その根拠は単純だ。


 なんてことはない。


 俺たちは、ライサが一体一で戦って負けるところなんて一度も見たことがないからだ。



 ■



「あっという間だったな」

「はい! おかげさまで」


 ライサはニコニコしながら袋を持っている。

 尻尾はかつてないほどブンブン回されている。

 よっぽど嬉しかったのだろう。


 中にあるのはフェアリークイーンの頭だ。


 ライサの剣技はそれは見事なものだった。

 彼女の剣術、というか彼女の一族に代々伝わる剣術の特徴は、ひとえに言ってカウンターである。


 ライサは戦闘する前に、目の前の相手の体格、特徴、長所、欠点など、全てを見通す"見"の状態になる。

 "見"をしながら精神統一して完全に集中し、その上で完璧なカウンターを相手にぶつける。

 「”見”は”剣”なり」

 これがライサの家の家訓である。


 特にライサが"見"の状態になった時の集中力は凄まじいものだ。

 隣で見ていた俺ですら雰囲気に押されてしまう。


 まぁ、だからこそライサは情緒が乱れるとダメになってしまうのだ。


 なにはともあれ、終わったな。


「ジュウォンさんの作戦すごい上手くいきましたね!」

「突然のことをしたまでだよ。駒をうまく使うのが司令塔の勤めだからね〜」

「ちょっと、誰が駒よ!」

「でもマリの役割を考えるの大変だったんだよ〜? 杖のない魔術師なんて、楽器のない音楽家みたいなものだからね。奏でるのは静寂だけさ」

「はぁぁ!?!? ちょっとねぇー!!」


 マリはブチギレながらジュウォンの首を締め上げていた。


 ふふ。

 なんかコイツら見てると気が抜けるな。


「じゃあ、帰ろっか!」







 ……私は目を疑いました。


「ハンナ! ただいま! 妖精たちを蹴散らしてきたよ」


 ヴォンガ村に返ってきたルドラさんは、パンパンに詰まった大きな袋を掲げて、ニコッと笑っていた。

 その袋から緑色の光が透けて見える。


「……もしかして、これ……」

「あぁ、全部妖精だよ」


 腰が抜けそうになりました。

 あ、あの狡猾で大量に群れをなす妖精たちを、たった四人で。

 それも、こんな沢山倒すだなんて……。


 正直、昨日から漫才みたいなやりとりばかりしている人たちだったから、本当に強いのかどうか疑っていました。

 しかし、それは大きな間違いでした。


「驚くのはまだ早いですよ!」


 そう言いながらルドラさんの隣に居た剣士のハンナさんがもう一つの袋を掲げた。

 それと同時に結んだ髪をおろした。

 その顔は完全なるドヤ顔である。

 彼女が持っていた袋は、人間の頭くらいのサイズでした。

 ……というより、これ、人間の頭なのでは?


「ふふふ、実はですね、妖精たちの親玉も倒しておいたんですよ」

「……これは?」

「あの、フェアリークイーンですよ」

「フ、フ、フ、フェアリークイーン!?!?!?」

 

 つい、大声を出してしまいました。

 いや、大声を出さざるを得ませんでした。


 フェアリークイーンはギルドからA級危険魔獣と指定され、討伐が困難とされてきた魔獣でした。

 数々の妖精たちを配下に統べて、時には屈強な魔獣をも操り、その本体も非常に強力であるとされているあのフェアリークイーンを、たった四人で。


 めまいがしてきた。

 この人たち、どれだけ強いのだろうか。


「……す、すごすぎますよ、ライサさんたち……」

「『すごい』ってよ、よかったな! ライサ」

「ふふふ! 私にかかればね、朝飯前ですよ!」


 ライサは両手に腰を当てて、胸をはった。

 耳はパタパタ動かされて、尻尾がホウキのように動く。

 鼻からは、ムフーと聞こえてきそうな鼻息を漏らしている。

 頬は紅潮し、誇りと自信が顔にあらわれている。

 その表情は近年稀に見る完璧なドヤ顔であった。


 完全にネガティブを脱却したようだ。

 本当にメンタルがコロコロ変わる人だ。


「あ、そういえばフェアリークイーンは非常にきれいな顔をしていると聞いたことがあります。見てもいいですか?」

「「「「やめたほうがいい」」」」


 四人が一斉に否定した。


「……ダメなんですか?」

「ダメというか、ね……」


 マリさんは複雑そうな表情をした。

 代わりにジュウォンさんが答えた。


「すっごいブサイクなんだ。ゴブリンを百回殴った時みたいな顔してるよ」

「……大体そういう言い回しって綺麗なものを劣化させて例えるだろ」

「醜さの二乗じゃないですか」


 ジュウォンさんが非常の酷な例えをした。

 そこまで言われたら逆に気になるんだけど……。


 ……おや、これは何でしょう?


 一つ気になる物を見つけました。

 それは、床に置かれていた拳ほどの小さい袋がでした。

 一つ目、二つ目の袋よりももっと小さい。

 

「これってなんですかね?」


 私はその袋に手を伸ばしました。

 つい中身が気になってしまったのです。


「あ、ハンナ! それは見ないほうが……」


 ジュウォンさんが私を急いで静止しようとした。

 しかし、私は袋を開けて、中をのぞいてしまった。

 これは……


「」


「あ」

「あ」

「あ」

「……あー」 


 私はあまりの驚きで、泡を吹いて倒れてしまった。


 後で聞いた話だが、中に入っていたのはハクイノシシの最も貴重な部位、真っ白の”眼球”だったのだ。

 この白眼は、王族御用達の薬屋が漢方の材料としてよく使用するほどの超高級素材である。。


 そんなことはどうでもいい。

 突然あんな大きな眼球を至近距離で見てしまったら、誰だって気絶するほど驚いてしまうだろう。

 勝手に中身を見たことを後悔するばかりである。


 私は薄れゆく意識の中、その眼球を持ってきたジュウォンさんの「あちゃー」みたいな表情を見ながら、白目を向いてバタンと倒れてしまった。


 どうやら私は、とんでもない人たちと出会ってしまったらしい。




 

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