第32話 散歩
今回は少し気まぐれに財布を持って散歩に出てみることにした。
家の玄関を開けて外に出て、右に曲がる道を選ぶ。
周りは住宅街で、ちらほら鉢植えや壁花なんかが色とりどり咲いている。
そこに蝶が飛んできて、遊んでいるように見える。
光の加減で青と緑の部分が黄色と赤に変わって見えるを繰り返している。
ここらではよく見るタイプだが、なかなか珍しいらしい。
駐車場の車のタイヤの陰に、なにが楽しいのか猫がいる。
藍植尾町から、隣町付近まで歩く予定だ。
藍植尾町の名前の由来は、染め物の藍が足りないと言われ土地を貸した所から。
隣町前で分岐路があって、右が花沢丘町、左が黄藤町。
どちらも魅力的だと思う。
花沢丘町は美味しい料理店や屋台が多く、千呑み区もある。
黄藤町は美しい女たちの春を味わえる一大派閥区。
分岐点に自販機があって、紅茶を買って飲んだら風味が口紅っぽくて奇妙な気分。
普段紅茶を飲まないから、自販機では口紅風味はポピュラーなのかと少し悩んだ。
花沢丘町に行くことにして、設置されたゴミ箱に空き缶を捨て、右の道を選ぶ。
陰になっている所に、その建物の主の趣味であろう植物が生えている。
前々から気になってはいるのだが、禁止されたソテツかもしれない。
まぁ、禁止される前からそこにあるのは皆が知っていたから大丈夫なんだろう。
多分、あれは精霊の住まう岩の隣にあるソテツだ。
キラキラと光っているのは、HPとMPを回復する効果があるから。
持ち主は「ニコル」だと言い張っている。
野良犬化した雑種の「ポチ」が出迎えてくれる。
ポチは千呑み区のアイドル的存在だ。
今日はポチの誘いもあって、千呑み区の店で昼間から酒を飲むことにした。
千呑みとは、千円で腹一杯の酒とあてが出される激安提供のことだ。
今回はチーズつくねと二種の焼き鳥とキンキンに冷えたジョッキのビール。
散歩の帰りは無事で済むだろうかとひとりごちて苦笑すると、
またひとりで笑ってるぜと名前の知らないいつものやつがいた。
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