超えろ!異星人ラバーズ
赤虎
第1話 浮かれて燃える
来歌は人生で1番興奮していた。
29年生きてきて1番だとはっきり言えた。
彼は運命の人だと、運命の方から告げられたからだ。
心が警告音に近い音をたて、目は閉じたくても閉じれず、頬が熱すぎて痒い。指先や胸、子宮もどくどくと脈うって息がうまくできない状態だった。
こんなことは初めてだから、きっと彼と結ばれているんだと来歌は確信した。
画面に写る彼を見ているうちに、次の場面に移ってしまったので、少し戻して一時停止し、また見つめ直した。
二重の横に長い大きな目には、黄金色に光る瞳があり、ふさふさの白いまつ毛が生えている。眉と目の幅がかなり狭く、彫りが深かい。鼻柱は細く女性的だが唇はぽってりと男性的だ。
額にある3つ目の目は金色でピカピカしていた。
首から腕にかける毛はルナリア人にしては薄いのか、ないのかウノ人に近いように思えた。
「全部格好いい……」
来歌は机に肘をつき、涎が垂れそうになるほど長い時間口を開けていたが、一時停止したあとは画面を覗きこんだり離れたり、悶えたり口を抑えたり叫んだりと、何かしてないと爆発してしまうかのように忙しくしていた。
「やば、泣きそう死ぬ」
誰もいない部屋で思わず口にだしてしまう。
堪えきれず目からぽろりと涙がこぼれる。
それを手で拭うと、今度は頭の後ろで腕を組み、椅子の上であぐらをかいた。
親に見つかればはしたないと言われそうな態度だが、仕事でいないし、自分の部屋なのでパンツが見えようが何しようが構わない。
来歌の部屋はピンクと白で統一され、汚いと恋愛運が悪くなるらしいと言う理由でそれなりに片付いている。
小さなテーブルと化粧品が入ったバニティバッグ、ぬいぐるみ、白いショルダーバッグが置かれているだけの部屋だ。
ぼーっとパソコンの画面を見ながら、今自分に起こったことを再確認する。
動画サイトを流し見していたところ、ルナリア人の住む街を紹介する動画があった。
そのインタビューに答えている人、の隣にいた男性に恋をしてしまった。
運命の人なんだとはっきり感じる。
「どうしよう〜」
全然困ってない表情で呟くと、スマホに手を伸ばした。
慣れた手つきで操作し、なんの躊躇もなく友人の渚に電話をかける。
今が何時だとか、相手が何をしているとかはお構いなしだ。
1コールで繋がる。
「お疲れーねぇ!聞いてほしいことあるの!」
こちらからかけたのに、先に渚の声がスマホから漏れ部屋に響いた。
「お疲れ!こっちも話があるの!てかこっちの話のほうが重要!」
「ありえないから!」
開始1分後には待ち合わせが決まり、最寄りの高槻駅での待ち合わせが決まった。
一時停止していた画面を、納得いくまでスマホで撮影していると、待ち合わせ時間が近くなってしまい慌てて支度をする。
小さなテーブルに、化粧品の入ったバニティバッグを置き急いで開けた。どんなに時間がなくても、メイクは来歌にとって必須行為である。
年齢なんて関係ない、ルッキズムがどうと世間で言われてずいぶん長くなるが、本当にそうなのかと思う。
ルナリア人が地球に降り立ち、当時日本と呼ばれたこの国、ウノの半分がなくなった時は「生きているだけで幸せ」「亡くなった人を偲び謙虚に生きよう」という思想が蔓延し、贅沢は敵、見た目を気にするなんて馬鹿らしい、という風潮であった。
しかし今はニィシァ52年。
ウノ各地に軍事基地はあるものの、平和と言っていい状態だった。
来歌の親世代はまだ当時の思想に影響されているが、10代から30代の人間にはあまり理解できなかった。
学校の授業や教科書では、歴史について深く知る機会はなく、親から伝承のように聞くのみのため「昔のこと」ぐらいの軽い認識の者が多く、高齢者は今日も「今の若者は」と嘆いている。
令和?ニィシァ元年?そんな事より今なのである。
来歌も漏れずその思想なので、見た目の良し悪しに躍起になっている。
今年29才になる来歌の肌は、明らかに大学生の頃とは違ってきていて、焦りを覚える。
最新のルナリア人の科学を応用した化粧品を使っても、たるんだ頬は変わらずほうれい線も気になる。
それでも少しでも可愛くと、ファンデーションやパウダーを重ねアイシャドウ、口紅を乗せる様子は、もはやお絵描きだ。今日はいつも通りのタレ目メイクに、赤めのリップを合わせる。
好きな人に会う時より、女友達と会う時のほうが強い気合いの入ったメイクになる現象は、令和から変わらない。
「やりすぎたかも……」
少しだけ頬を擦ってチークをぬぐった。
ぐちゃぐちゃのクローゼットの中には、服が山積みになっている。1番手前にあった、昨日着ていた服を手に取ると、少し匂いを嗅いでざっと着る。
黒のノースリーブニットに、チェック柄のタイトスカートがくっついているドッキングワンピースだ。
時間がない。
クローゼットについた鏡を見ると、スカート部分に少し皺がよっていた。
まぁいいかと、皺が消えるわけでもないのに、手でぱっぱっと払うと鞄を手にとり玄関に向かう。
玄関にある鏡で髪がボサボサなことに気づき、急いで部屋にヘアゴムを取りに帰る。ヘアゴムを持って玄関に戻ると今度は靴下がない。
スマホを見ると、出発予定時刻を10分過ぎていた。
来歌は自分のことが嫌になった。
駅までは歩いて向える距離だ。渚に会うまでの足取りは軽い。
頭の中は、先程のルナリア人のことでいっぱいだった。
もしかするととんでもない運命の交差があって、なんかしらがあり駅前で偶然会えるかも知れない、そして「すいません……あなたが私の運命かなと思って」なんて声をかけられるかも……と妄想が膨らんでいた。
そうなったら渚にはなんて連絡しようか、という所まで考えてニヤニヤする。
実際にはルナリア人が歩いている可能性は低い。
ウノ国にいるルナリア人は、軍事基地にいる軍人のみだった。
来歌も勿論分かっていたが、心が躍って煩くするため聞こえないふりをしていたかった。もっとこの気持ちに浸っていたかったのだ。
人が多くなってきた。駅が近づいてくる。
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