第26話 腹ペコ女騎士とキャンプ飯

 さて、テンションがぶち上っているレニアさんは少し放置しておくとして、俺は拠点からレンタルしてきたバーベキューセットを用意。


 使用する炭も事前に調達済みだ。


「ほぉ、金属をこのように加工し、熱した上で食材を焼いていくのか」


 バーベキューの仕組みに関心を抱いたオルティスさんはいろんな角度からセットを眺めながらつぶやく。


 研究熱心というかなんというか……この後で登場する食材も事細かに分析されるんだろうなぁ。

 まっ、せっかくだし、こうなったらたっぷりと堪能してもらおうか。


「おや? また変わった器具ですね」


 準備を進めていると、自然を満喫中だったレニアさんがこちらのバーベキューセットに興味を持ったようだ。


「というか、ここにあるのは全部見慣れない物ばかり……一体どこから調達してきたのですか?」

「ああ、これは俺の住んでいる世界で一般的に使われているバーベキューセットなんですよ。今日のためにレンタルしてきてました」

「俺の住んでいる世界? バーベキューセット?」


 しまった。

 つい他のみんなと話す調子で説明をしたが、彼女にはまったく意味不明な言葉の羅列となってしまい、頭の上にクエスチョンマークが旋回飛行している状態だ。


「彼は我々と別の世界から来たんだよ」


 あっさりネタバレしたのはオルティスさんだった。

 しばらくは脳内整理をしていたためか、なかなか動かないレニアさん。


 とりあえず時間もないので一旦放置し、拠点としている山小屋で保管していた食材を外へと持ち出し、バーベキューの準備を進めていく。


「うーん……ちょっと少ないか?」


 レニアさんひとりが増えても問題ないと踏んでいたが、ここへ来て少し不安になってきたぞ。


 心配しながら作業を進めていると、ハモンズさんが戻ってきた。


「おーい! この野菜も一緒に使ってくれぇ!」


 森に響き渡る大きな声。

 いつも通りに見せかけて若干テンション高めだ。


 理由はやっぱり、両手で持つ特大サイズの籠に詰め込まれた野菜の数々だろう。

町で買っていたのは海産物と酒だけだったはず。


「ど、どうしたんですか、それ」

「売れ残った野菜だよ。今日は見事に完売だったけど、たまに残ったりするんだ。ボチボチ食べなくちゃいけないと思っていたから、ここで一気に使っちまおうと思って」

「それは助かります!」

「あと、少しゲストが増えちまったけど」

「えっ?」


 気がつくと、ハモンズさんの背後に数人の男女が。

 今日一緒にミランガで野菜を売ったメンバーだ。


「もちろん、それぞれ食材を持ち寄ってきた。派手な晩飯になると思うぜ?」

「いいですね! じゃあ、早速焼いていきましょう!」


 すでにバーベキューの準備は整っている。

 火も問題なくおこせたし……そろそろ始めるか。


 俺はトングを手にすると、事前に計画しておいた手順で食材を焼いていく。

 ただ、ハモンズさんたちのご厚意で直前に新しい食材が増えたわけだが、これに関しても下処理をしなくてはならない。


 すると、ここでようやく止まっていたレニアさんが再始動。


「いやいやいや! どういうことですか! ユーダイさんが別の世界の人間なんてあり得ませんよ!」

「おっ? ようやく気づいたのか?」


 とっくに事実を知っているハモンズさんたちは余裕の態度だが、興奮状態のレニアは止まらない。


「いや、でも、その……ユーダイさんが危険な人物だとは到底思えませんが、やはり異世界からの来訪者となるともうちょっと慎重になった方が……」

「君が思う通りで正解だよ」


 動揺するレニアさんの肩をポンと優しく叩いたオルティスさんは、諭すようにゆっくりと語りかける。


「君はさっきユーダイが危険な人物には思えないと言っていたが、まさにその通りだと思う。彼なら大丈夫さ」

「で、ですが、それには何の確証も――」

「まあそう固く考えなさんな。本当の悪党にこんなうまいモンは作れねぇよ」


 レニアさんの言葉に割り込んでいったハモンズさんは、手にしていた串をレニアさんに渡す。

 こいつは俺のバーベキュー料理第一弾。

 数日前から仕込んでいた特製のタレに漬け込んだ肉と野菜を刺した、オーソドックスなタイプ。


「お、おぉ……」


 炭火で焼いた肉と野菜。

 その香ばしい匂いに、レニアさんは魅了されているようだ。


「な、なんという食欲をそそる香り……確かに、悪しき心を持つ者にこのような逸品は作れませんね」


 なんか納得しているみたいだけど、そういうものなのか?

ともかく、記念すべき異世界バーベキュー最初の堪能者はレニアさんに決まった。


 彼女は焼き立てアツアツのお肉にフーフーと息を吹きかけて少し冷ましてから豪快に頬張る。


「お、おいしい!」


 まだ飲み込みきれていないうちから感想が漏れ出る。

 とにかく感動してくれたというのは十分伝わったよ。

ちなみに、俺の素性に関しては誰にも言わないよう口止めをしておいた。


 これはハモンズさんの時にもやったが、余計な混乱を防ぐためだ。

 レニアさんとはまだ出会って数時間の付き合いだが、それでも真面目で悪い人じゃないというのは伝わった。


オルティスさんもそれを見抜いたから、俺の正体を彼女に包み隠さず告げたのだろう。

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