レスと神さま(仮)
晴れの日なんて在り来たりな言葉はいらない
雨だ。雨の日にしよう。
雨の降る日、ザーザーと止む暇もなく降り堕ちる日
神さまは何の気まぐれか、一人の人間を地上から連れてきた。
レス・ギポータ。新聞配達、活字拾い、煙突掃除で生計を立てている少年。
学校に行きつつ、病弱な母と小さな妹たちの為に出稼ぎに出た父の代わりを務めていた。
市民街の端に住む彼は、夜が明ける前に目を覚まし、日が出る前から人っ子一人いない
街中を新聞配達で駆け回る。全て配り終えた後はそのままのスピードで学校へと向かう。
多少授業に遅れることはあるが、担任であるミス・バートはそれを黙認している。
授業の合間には、いじめっ子のギルが消しカスや紙を投げつけてくるが、そんなものには構いもしない…そのことを考える余裕すら彼にはないのだ。
彼の脳内の大半を占めているのは考古学。それも、「失われた神の時代」だ
「失われた神の時代」とは、約750年前に滅んだエウティカ文明のことを差す。
エウティカ文明とは、現在には存在しない魔術や薬学の知識を有し、その技術を現代に蘇らせれば、多くの富を得ることができるといわれている。
レスの住むキンボスの街にも王国からのお触れが届き、成績優秀な児童は無償で王国立の考古学研究院への進学と研究員としての配属命令が下される。
庶民にとってはまたとないチャンスではあるが、なにしろこのお触れは別名「王の蟻」と呼ばれている。お触れは王国中に広まっている為、志願者も数多いが、ふるい落としも激しい。
そのうえ、諸外国からも学者も招き入れている為、王国役職の中でも一際狭き門となっている。「王の蟻」という名前の由来は、国の為に遺跡を掘り進め書庫に閉じこもり調査を続ける為、太陽の下に出るのが 一ヶ月に一度などということがよくあることと、休む暇もなく働かされ続けることからきている。
そんな過酷な条件であるにも関わらず、レスはただただ一心に考古学者を目指していた。
その理由は,一つに父が考古学の商売に関わっていること。
もう一つが、つい先日エスティカ文明の遺物を手に入れたこと。
なんてことはない、たまたま仕事の帰りに橋の下を走って帰っていたところ、ボロ布を被った老婆に話しかけられ、訳も分からぬまま押しつけられたのだ。
その物体はコインのように平らでありながら、薄く透けており、淡いブルーの煌めきを称えていた。レスにとっては初めて見る宝石の類であり、同時に初めての他人からのプレゼントでもあった
…こんな高価な物頂いていいわけがない。暫くコインに目を奪われていたレスはハッと意識を戻し慌てて老婆に返そうとしたが、その時には目の前に居たはずの老婆が忽然と姿を消していた。
それからレスは、その見た目の珍しいコインを気に入りほんの少し加工してネックレスとして持ち歩いていた。 常に煌めきを保つコイン。きっととんでもない値打ち物だろう…商人である父が帰ってくるまで、このコインのことは誰にも言わないで置こう。そう彼は決めていた。
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