第31話

今日も診療所で夕食をご馳走になる約束になっているので、リディアと2人で向かう。


診療所でカリナさんに満面の笑みで出迎えられた。


「シンヤ、ちゃんと言えたじゃない」

バシバシと肩を叩かれる。

やっぱり筒抜けだったか。


クマ先生もアカネもニヤニヤ顔。


「さあ、ミロちゃんが待ってるわ。行きましょう」

「今日の食材は、ミロちゃんが自分で買ったものよ。噛み締めて食べなさい」


ダイニングでは、ミロがエプロンを着て待っていた。

「かわいい」思わず口に出てしまう。

リディアに尻をポンと叩かれる。

「言うんなら『素敵だ。とても似合ってる』でしょ」

「語彙力なくてごめん」

全員に爆笑された。



「今日のメインディッシュは熱々カップル定番の神メニューよ」

カリナさんが宣言する。


白い皿の上に、大きな玉子焼きのような黄色いものが横たわり、褐色のソースで文字が書かれている。

リディア、アカネ、カリナさんの前には『ありがとう』と書かれたもの。クマ先生のだけ、クマの絵だ。

僕のには『L.O.V.E.』とある。いままで経験したことがないほど顔が火照ってきた。

最後にミロは『みんな大好き』と書いたものを自分の席に置き着席する。


「シンヤ、茹でダコやないか」

とアカネに揶揄われる。


「「「「「「いただきます」」」」」」


「中はライスになっとるんかー」

「甘辛いソースが良く合うわね」


食べるのは勿体無いが、食べないわけにはいかないので、もう一度、ミロに「いただきます」と小声で言って、まずは文字のない場所からスプーンを挿す。


後でミロから聞いた話だが、カリナさんから「この料理は最後に相手へのメッセージを書くのが習わし」と言われ、急に言われても思いつかないミロは、無難に『ありがとう』と書いたのだが、僕のにはカリナさんから特別指令が下ったそうだ。

ちなみにクマの絵を描いたのはカリナさん本人らしい。


ついに文字の部分にスプーンを入れることになる。


「このソース、美味しい。これもミロが?」

ミロはもじもじする。

「それは流石に初心者には無理かな。いろんなものを煮込んで完成させるの。前の日から準備することもある。料理人の数だけ違う味があると言ってもいい」「ミロがこれから経験を積んで、ミロちゃんオリジナルソースを完成させるまで待ちなさい」

「へー、その日を心待ちにする」


「こっちのスープは、中身はいつものだけど野菜を刻むところから味付けまでやってもらったから、完全にミロちゃん製よ」

「カリナさんのと変わらない味だ」

「ミロちゃん、筋が良いからねー、何より素直なところが可愛い」

「シンヤ、料理の上手い嫁はいいぞー、人生が豊かになる」

クマ先生も参戦してきた。



「あんな、聞いてや。ウチのポーション、ここで使って貰えることになったんや」

「良かったじゃない、アカネ」

「おめでとう!」

リディアと僕は祝福する。


「品質はまったく問題ない。むしろ良すぎるくらいだ。これを通常版として売ると、方々からクレームが来るかもしれない」

「かと言って中級版として売ると、ここの利用者には買えない」「難しいところだ」


「そこで、とりあえず両方作ってもらって、中級ポーションとして薬剤師ギルドに納品できるものは売ってしまい、下級ポーションだけ診療所で使わせてもらうことにした」

回復ポーションの効力(ランク)を測る魔道具があるらしい。


「ウチの場合、庶民が買える薬屋が目標だから良いんやけど、品質良過ぎてクレームがくるとは驚きや」


「良く効く薬が安く手に入った方が嬉しいのにな」

「やろ?」



料理を完食し、感謝を伝える。

「今日もすごく美味しかったです。ご馳走様でした」


「そら、ミロのラブが注入されとるからな」

「しっかり堪能しました」



帰り際、カリナさんから、

「ミロが買った食材、まだ残ってるから明日も必ず来なさいよ」

「分かりました。おやすみなさーい」

そう言って診療所を後にする。


「ハイオークと戦ってたの、昨日の夜なんだよな」「今日はみんなゆっくり休もう」

「2人はこれからイチャイチャちゃうんか?」


「したいけど、ミロは今朝はあまり寝られなかったよね?」

そう言うと、ミロが腕にしがみ付いてきた。


今夜は眠れそうにない、なんてことはなく、テントに入ったらすぐに朝まで爆睡してしまった。


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