第16話

ゴドゥ診療所に向かう途中、サファリの風の面々が通りでたむろしているところに出くわした。

今日は一緒に招待されているはずだ。


「あれ?どうかしたんですか?」

「いや、ルマンダが15分くらい遅れて行くのがマナーだっていうからな。時間調整だ」

「大人数を呼ぶ時はいろいろ準備が遅れるものさ」


「そういうものなんですね」「僕らはいつも適当でした。この間なんてまだ治療中の患者さんがいる時に…」

そう言いながら頭を掻く。

「あんたらは常連なんだろ、先に行ってていいよ」

「そうしようか」

ミロに話しかける。

「うん」

「じゃ、お先に失礼します」


ゴドゥ診療所に到着すると、幸いにして患者はいなかった。

クマ先生も診察室にいない。

ダイニングに行くと、いつもはないテーブルが増えていて、クマ先生はカリナさんの指示で料理を運んでいる。


「毎度、お邪魔します」

「おお、来たか。手伝え」

「はい」

ミロが駆けつける。僕も料理運びを手伝う。


何とか配膳が終わった頃、診療所の方の扉が開く音がした。

タイミングぴったりじゃないか。無言でミロの方を見る。ミロも無言で頷く。


クマ先生はドタドタと診察室に向かう。

僕らも追いかけると、クマ先生とライオネンさんが熱い抱擁を交わしていた。続いてガナさん、ケニーさん、ルマンダさんは流石に握手だった。


「よく来たね」

後ろからカリナさんが声をかける。

「さ、奥に来て」

「カリナさん、これを」

ルマンダさんが手にしてるのは、どう見てもお酒の瓶だ。

「ルマちゃん、ありがとう」


全員が席に着く。

「あー、まずは再会を祝して…」


「「「「「「「「かんぱ〜い!」」」」」」」」


ミロはフルーツジュースだ。僕も付き合ってジュースを持つ。


宴会は一気に盛り上がった。

「ライオネン、うちの義理のせがれが世話になったな」

「義理の倅になったでござるか?」ガナさんが僕を見る。


「カリナがミロを娘に欲しがっててな」「そしたらオマケで付いてきた」

一同が爆笑した。ミロは恥ずかしそうにしている。


ルマンダさんが「この子はすごい冒険者になるよ」とミロの肩に手を置く。「何てったって姉が凄い」

「ミロちゃん、お姉さんがいたの?」


ケニーさんが料理を頬張りながら、

「ミラって言うんスけどね。5年くらいでAランクっスよ」

「やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」

カリナさん、大興奮だ。


「ミラちゃんにも会ってみたいわねー」「今度紹介してね」


「ミロはまだお姉さんに再会できてないんです」

僕はフォローを入れる。

「Aランクだと色々あるもんねー」


「Aランクだと、そんなに忙しいんですか?」

「Aランクは特殊な依頼が多いんだ」

ライオネンさんが答えてくれた。

「王族や貴族からの依頼もある。だから口外できない任務も多い」


「皆さんに聞いてみたいことがあります」

「うちの父はどんな冒険者だったんですか?」

一同が顔を見合わせる。言いにくい事なのだろうか?


「クロスかぁ、、、」

クマ先生は天井を見る。

「あいつは、、、バカだったな」

「そうね、バカね」

実の倅として耳が痛い。


「だが、愛すべきバカだ」「困っている人を見ると、損得なしに手を貸す」

サファリの風のメンバーも一同頷く。


「クロスの旦那は、いつも世界を平和にしたいって言ってたッスね」「一つの平和で世界を一つにしたい、と」

「そうでござったな」

なんかしんみりしてしまった。

これでは、亡き冒険者クロスを偲ぶ会ではないか。


まぁ、なんか、そんなこと言ってそうではあるが…。


「今度はクロスさんにも会いに行こうか」

ライオネンさんが宣言をした。

「セリカさんもいるんだよね?」

ルマンダさんが僕を見て尋ねる。

「もちろんです」

「手持ちのアイテム袋を全て冒険者に貸してしまって、息子の旅立ちには一つも持たせられないバカオヤジですがよろしくお願いします」

ダイニングが笑いに包まれた。



夕食会が終わって、僕とミロは先に帰ることになった。

皆さんは何か話がある様子だった。


父に聞いた話だと、冒険者でCランク以上になると引退していても、有事の際に招集されることもあるらしい。

有事の内容にもよるのだが、半ば強制的なものもあるとのこと。例えば災害級モンスターに街が襲われるとすると招集がある。どっちにしろ街にいては助からないのなら戦うしかないというのが父の見解。

僕は、逃げればいいのでは、と考えてしまうチキン野郎だ。


僕らを除く、あそこにいたメンバーは全員がBランク以上である。

僕らに聞かせられない話があるのではないかと勘繰り中、なワケだ。とは言え、隠れて盗み聴きしようとか考えない。聞かない方がいい事もある。


でも、この街で何か起きようとしているのかもしれない。

そんな気はした。

その時、僕はどうすれば良いのか?

ミロを連れて必死で逃げようとするだろうか。


ちなみに、僕の勘は……普通によく外れる……。


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