第10話

ライオネンさん達と明日の打ち合わせを済ませ、今日も今日とてゴドゥ診療所にお呼ばれしている。

ボアのお金が入ったら手土産でも買って行こうとミロと相談しながら診療所に向かう。


「こんばんは。また今日も甘えちゃいます」

カリナさんが奥からタタタッとやってきて、ミロをハグする恒例行事にも慣れてきた。


「ミロちゃんハグすると、なんて言うのかなぁ。今日の疲れが癒やされる感じ?」「シンヤもやってみなさい」

そりゃ、やりたいのは山々なんだよ。

……そう言いたかった。


食卓に着き、今日あったことを報告する。

ボアを4匹倒したこと。冒険者ギルドで起きた諸々。

クマ先生もカリナさんもライオネンさんのことを知っていた。


それから、ライオネンさん達のクエストに同行させてもらう話もした。

「ライオネンが新人として来た時は、俺たちがCランクに上がった頃だったかな」「何より義理堅く筋を通す男だったよ」


ギルマスの高難度狩場に置き去りにされた話を聞いて、ちょっとその辺が一抹の不安になってるという話をした。

「ああ、懐かしい話だな。だけど、ライオネンに限ってはないだろう。そういうのを一番嫌う男だ」「シンヤはどう思う?」

「僕も全く疑う根拠を持ちません」「でも、ミロは守らないと」

ミロを見ると顔を赤らめている。うわ、言ってしまったかな。


「ミロちゃん、いざとなったらシンヤをお願いね。でもだめそうだったらミロちゃんだけでも逃げて帰ってきて」

「そうだな」

「はい、分かりました」

ミロは笑顔で応えた。

「ひでぶ」


「カリナさん、この料理、めちゃくちゃ美味しいんですけど」

「名付けて、無惨肉のキャベッジ包み、よ」「国のずっと南方に行った時に料理店で食べたのを試行錯誤で真似てみたの」

「これはカリナの料理スキルに脱帽。もうあの時の味そのものだからな」


「ミロちゃんはどう?」

何だか悪戦してるようだ。

「もしかして、猫舌?」

ミロは舌をぺろっと出す。


明日は遅くなるかもしれないので、明日の食事は辞退して診療所を後にした。



キャンプ場に戻り、移動させたテントに戻る。

自分で移動させたのに、いつもの場所にないとギョとしてしまう。


やっぱり、おかしい…。

ミロが初めて僕のテントに来た時、僕の寝床とミロ用スペースの間に荷物を並べて垣根を作った。

それが、気が付けば他の場所に移動されていた。

ミロだけテントに残してトイレに行くこともあったので、ミロがやった線も捨てきれなかった。


しかし、今朝テントを移動してから、2人とも一度も戻ってない。なのに、改めて作った垣根が移動されている。

誰かがテントに侵入しているとしか思えない。


「ミロ、荷物の中から何か無くなっているもの、ない?」

「シンヤは何か無くなってるの?」

「いや、僕は大丈夫みたいなんだけど」


「分かった。確認してみる」

ゴソゴソ、ゴソゴソ、ゴソゴソ…。

「大丈夫みたい。どうしたの?」

垣根の話をミロに話す。ミロも前回は気付いていたようで、僕が移動させたのだと思ってたらしい。


所詮はテントなので、貴重品は必ず持って出かけるくらいしか対策はなさそうである。


恒例のスキルチェックを始めることにする。

ミロの場合、STR、AGI、DEXの値が1ずつ上がった気がする。メモを取ってるわけではないので、思い違いも否定はできないが。スキルの方は武器硬化が伸びている。


僕のは特に変化なさそう。ボアから逃げてただけだし。

今後は支援補助系のバフスキルを鍛えてみるかなと考えた。


「明日はオークを狩りに行くみたいだよ。見たことある?」

「死んでるやつだけ、かな」

「僕もだ」

オーク肉は食用としても使われるから、狩って持ち帰えれば高く売れる。


困った。これ以上、話が進まない。


「すごく力が強いらしいから、とりあえず攻撃を受けないような立ち回りをしないといけないね」

オークはそれなりの知能があるので厄介なのだ。


西の大陸には、その数10億を超えるオークの国があると聞いたことがある。

つまり、10億のオークを統べる統率力はあるということ。


この国に攻め込んでこないのは、いくら膨大な戦力が有ってもそれを運ぶ大船団を作る技術がない、単純に大陸から出られない、と父は笑って話してた。


この国にいる亜人や獣人は、その大陸から小舟で逃げ出してきた少数民族の、その子孫だという話だ。

オークの一部も同様に海を渡ってきたらしい。

オークは繁殖力も高く、駆逐してもどんどん増える。


武器は主に鈍器系。斧を持ってる奴もいるらしいし、弓を使うオークもいると聞いている。

ライオネンさんは、僕たちで1匹でも倒せたら合格だと言ってたが、それが出来るのだろうか?


ミロは、預かり物のお姉さんの剣の手入れに専心しているようで、心ここに在らずって感じだ。


「シンヤ……」

「どうしたの?」


「ワタシね、子供の頃から人見知りの引っ込み思案で友達もいなかったの」

「家族もワタシにはよそよそしかった。でも、ミラお姉ちゃんだけはワタシに構ってくれた」「カリナさんみたいにギュっと抱きしめてくれたのもミラお姉ちゃん」


「ワタシ、変わりたい」「すぐには無理かもだけど、努力はするからワタシを見捨てないで欲しい」


「当たり前じゃないか」

それで、あまり故郷のことを話さなかったのか。しつこく聞かないでよかった。

「ミロが僕から逃げ出しても、捕まえに行くよ」


ミロが抱きついてきた。いつものハグというより抱擁だ。力がいつもと違う。

「うん…」


「もしかして、この街に来たのは、冒険者になるというより、ミラさんを追いかけてきた?」

「正解」

「やっばりそっか」

「どうしてそう思ったの?」

「それだけの戦闘職の資質がありながら、戦闘に不慣れってことは、冒険者になる意思も最初はなかったのかな、と」

「やっばり、シンヤはすごいね」

「ミロもすごいよ。初戦なのに、僕が教えたボアの急所を的確に刺していた。4回とも」

「えへへ」


「お姉さんに早く会えると良いね」

「うん」

「ミロが一人前になって、有名になればきっと会いにくるよ」

「有名になるのは、ちょっと恥ずかしいかな」


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