第3話
さて……僕が授かった特殊能力について整理しておく。
15歳、冒険者デビューしたて時点でのものだ。
簡単に言えば、自分や他人のステータス値やスキルが見えてしまうというもの。
使っている間は魔力がどんどん消費されるので、【魔法】に分類されるスキルだと思う。
この様なスキルは一般には全く知られていないので、何と言う名称であるスキルなのかも分からない。
この世界には、そのようなスキルは数多く存在している。
一例を挙げると、一瞬のうちに今いる場所を移動できてしまう魔法が存在している。
そういう噂は聞くが、使える人はほんの一握り。
僕はもちろん、元冒険者の父も「使う人に直接会ったことはない」らしい。噂として耳にするだけの存在。
そんなものは、
もしかしたら国の魔法研究機関では研究されていて、統一された名称で呼ばれているかもしれないが、それが一般に広まるわけはない。
一般にも使える人がいる、と認知されている魔法。
物体を今いる空間ではなく、別の亜空間に収納できてしまう魔法。これは使える人に会ったことはある。
これも、習得方法や習得条件は不明で、統一された名称はない。習得できた人が好き勝手な名前で呼んでいる。
そんなわけで、吾輩のスキルに名前はまだない、という状態になっているのだ。
前置きが長くなったが、自分、他人関係なく人のステータスが見えてしまうというスキル。
これは、目の前に【記号や数字】が現れて見える。
視界を妨げるどころじゃなく、ステータス値の方に焦点が合ってしまい、それ以外の視野はすべて激しいピンボケ状態。極端な近視に近い。
ステータスは一般的に認知されているもの。
STR(力)
AGI(速さ、速度)
VIT(体力)
INT(知力)
DEX(技巧、技術)
LUK(運)
など。
これらは、魔法など使わなくても測定する魔道具が存在する。
上記、6つのパラメータ以外にも、見えるパラメータは沢山ある。ただ、説明書きが一切ないので大半が何の数字なのか検討もつかない状態のまま。
その中で、
ATK(攻撃力)
DEF(防御力)
くらいは分かる。物理攻撃に対するもので、魔法攻撃は頭にMの記号がつく。
次は、スキルについて、だ。
これはスキル名のリストが分かるのではなく、スキルが三次元的な【木】のビジュアルとして見えてくる。
スキルのツリーだ。
木を遠目に全体像を眺めたり、木の枝を近くで観察したり、視点は自由になる。
この木の枝が個々のスキルになる。
自分のスキルツリーから具体例を幾つか挙げてみる。
例えば、『武器修練』という比較的太い枝があると、その枝には『剣修練』『斧修練』『槍修練』『鈍器修練』『拳修練』『弓修練』といった中枝が生え、さらに『剣修練』には『短剣』『片手剣』『両手剣』といった小分類の小枝が生える。
『斧修練』は斧を装備した時に最大限の効果を発揮するが、剣に持ち替えても攻撃力のステータスは僅かながら上がったままになる。斧装備時に+20としたら、そのうちの+1は全武器共通というイメージ。
斧装備に比べれば微々たるものだけど、全ての武器に精通すれば、一つの武器の特化型より強くなれるわけだ。
魔法に関しても同じ事が言える。
火魔法に特化したものより、オールラウンドに全魔法を数多く習得した者のが強くなる。
これも習得スキル数で魔法攻撃力は上がるとみていい。
最後に各スキルのレベルについて。
それぞれに各枝は3段階くらいに見分けられる。
見分ける方法はない。経験と勘のみ。
これは説明するのは難しいのだが、スキルの枝を人間の指(人差し指から小指)と同じとして考える。
手が描かれた絵があるとして、関節まで描かれてなくても、だいたいの関節の位置は想像できる。
現状では、そんな感覚のみで判断してる。
ここからここまでが下級、ここまでか中級、残りが上級。
そんな感じ。
どの枝がどんなスキルのものかを判別するのも難しい。
最低限のヒントのような記号的なものはあるのだが、ステータス同様、詳しく説明はされてない。
そんなわけで、甚だ不完全なスキルなのである。
=====
こうなったら覚悟を決めよう。
「実は聞いて貰いたいことがあるんだ」
「うん…」
「でも、誰にも話さないで欲しい」
ミロは黙って頷いた。
「僕は、どうやら前世の記憶がちょっとだけあるっぽい」
今までほとんど隠し通してきたことを、なぜ今日逢ったばかりのミロに話そうと思ったのかは自分にも分からなかった。
「それって、賢者様ってこと?」
苦笑いしながら僕は応える、
「たぶん違うと思う。賢者というのは過去の記憶を駆使して新たな未来を創造する人のイメージじゃない?」「僕にはそれはないと思う。今のところは…」
「例えばね、馬のいない馬車が勝手に動いてる夢をよく見るんだ。もしこの世界でそれを作ったら、それで大賢者扱いされるかもしれない」
「でも、どういう原理で動いているか、どうやって作ればいいのかまるで分からない」
「出来たらすごいね」
ミロは目を輝かせて言ってくる。
ここからが本題だ。
「前世の記憶と関係しているのか分からないんだけど、僕には実にユニークなスキルがあるんだ」
「冒険者になる時とか、全員がステータスとか測るよね。あれ、僕は魔道具なしで見えちゃう」
ミロは「すごーい」と目を丸くする。
「他人のを勝手に見ないようにはしてるんだけど、今日、ミロを助けたとき、ミロのステータスが見えちゃったんだ。ゴメン」
「いいよいいよ、お見せするほど大したものではないけど」
「いや、そうでもない。戦闘系に重要なステータスは僕よりかなり高いんだ」「なんで、それなのにウルフにやられてるんだと思った」
ミロは後頭部を掻きながら「面目ない」と恥ずかしそうに応える。
「スペック的には、僕よりはるかに強いはずだと」
「速さを表すステータスなんて、僕の三倍だよ。シャアだよ」
「シャー?」
「ああ、ごめん、これも前世の記憶なんだ。三倍、ってところで『それもうシャアだよ』って頭の中に浮かぶんだ」
「僕といると、時々そういう意味不明なことを口走るかもしれないけど、これは気にせず流して欲しい。聞き返されても自分にも分からないから」
苦笑した。
幼い頃から「オマエが言うこと、よく分からん」と言われてきたのだ。
「で、何が言いたいのかというと、僕がステータスを確認しながら効果的な訓練を考えれば、ミロはとても強くなると思ったんだ」
「はっきり言うと、ミロと冒険していきたいと思った」
多分、これが本心。
冒険者になって仲間ができるのか、故郷にいる時から不安でたまらなかった。
いつまで経っても、1人で行動するボッチ野郎の自分が容易に想像できた。
だから自分から行動を起こさなきゃ、ただ待ってるだけじゃ何も起きない。
僕の過去の経験全部と、前世の記憶もが、そう言っている気がする。
「今日はもう遅いから明日考えて!」
「でも、本当にここで寝るの?大丈夫?」
「ネズミさんなら怖くないし」
ミロは舌を出した。
それ、テヘペロ?……テヘペロってなんだ?
ミロは豪快にうつ伏せに寝転がる。
「うつ伏せで寝るの?」
「地面が硬いと尻尾が苦しいから、いつもうつ伏せか横向き」
ミロは尻尾を豪快にフリフリする。
うぅ、尻尾が可愛すぎる。
僕は眠れるのだろうか…?
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