墓参り
翌日。
夜中まで首飾りを愛でていたことと、明日は念願の
昔馴染みの若い侍女に起こされたときにはすっかり日が昇り、慌ててあれこれと準備していたら、あっと言う間に約束の昼時を迎えようとしえいた。
今か今かと忙しなく部屋を彷徨いていた若樹は侍女に怪訝な目で見られているが、それだけでは昂る感情は抑えられない。そしてその時はやってくる。
とんとん、と控え目に叩かれた部屋の戸を、侍女が確認する。出入り口と室内は一枚の大きな屏風で仕切られている為、誰が来たのかはまだわからない。もしかしたら、早くも実家からの迎えが来たという可能性すらあるのだ。
(まあ、それは無いか。手紙では最速でぶっ飛んでいく! って書いてたけど、なんやかんやで一ヶ月近く掛かるからなぁ)
「若樹様、お客様です。若樹様をお迎えに来はった御方のようです」
「っしゃァ! ちょっと行ってくるわ!」
「ちょちょ、待ってください! 若樹様、ほんまに大丈夫なんですか?」
言うや否や、荷物を引っ掴んで部屋を出ようとしたが、侍女に袖を引かれて止められる。この侍女には本当のことは言わずに、『好きだった人と最後のお別れをしてくる』と当たらずしも遠からずのことを言っている。侍女は主人にそんな相手がいたのかと驚きつつ最後ならばと一度は許可してくれたが、土壇場で不安になってしまったようだ。
「大丈夫やって! 暗くなる前に絶対帰ってくるから、安心して待っといてや! ほな、行ってきます〜!」
「あ! もう……ちゃんと帰ってきてくださいよ〜」
「はいはいっと! お待たせしまし……あれ?」
侍女に見送られ廊下に出た若樹だが、そこにいたのが見覚えのない大男であったことに気付いて立ち止まる。頭部をまるっと覆う頭巾で目元まで覆い、口元を布で隠している為顔はわからない。こんな怪しい風体でよくここまで来れたものだと変に感心してしまう。
(こりゃあ、確かに
勿論若樹も不安になったが、ゲームに顔隠すキャラクターがいたことを思い出し、男が何事も無く辿り着けたことに納得する。
男は無言のまま、懐から取り出した首飾りを若樹に見せる。それは今若樹が持っている憂炎の首飾りと対になる、
「お、お迎えありがとうございます。宜しくお願いします……」
男は鷹揚に頷くと、若樹の荷物をチラリと一瞥してから踵を返して歩き出す。若樹も慌てて後を追った。
後宮を出て、宮廷を抜けて正門に向かう。若樹が思った通り、男の姿を見て反応する者は少ない。それどころか男より厚着をしている
沢山の人が往来する大通りをすぐに外れ横道に逸れたその先に、待ち人が幌馬車と共に待っていた。
「音操様!」
「お待ちしておりました、若樹様。遠くまで歩かせてしまい申し訳ございません」
「いえいえ、全然大丈夫ですよぉ、この位! こちらこそお手数をお掛けしてます! さあさ、参りましょか!」
意気揚々と馬車に乗ろうとする若樹を、クスクスと愉快そうに笑いながら手を貸そうとした音操だが、若樹が持っていた荷物に気付いて目を丸くする。
「若樹様、それは……」
若樹が持っていたのは、綺麗な布に包まれた色とりどりの花束ともう一つ。風呂敷包みに包まれたそれは大きく、ずっしりとした重量感が見て取れる。
「ああ、これですか? やっぱり墓参りといえば花かと思て準備しました。流石に買いに行く暇が無かったんで、後宮内に咲いてた花なんですけどね。あと、多分絶対花よりも食べ物の方がいいかと思ったんで、食べ物を少々……」
「食べ物……ククッ」
「? えっ!? お、音操様、何で笑ってはるんです!?」
「いえ……まさか食べ物を手向けようとしてくれるとは……若樹様は
「え、えへへへへ……」
「ふふ。さあ、立ち話もなんですし、行きましょうか」
「はい!」
今度こそ音操のエスコートて幌馬車に乗る。馬車には荷物が置かれており、音操のこれからの旅に使うものだと予想がつく。その中には大きくフカフカしたクッションが置いてあり、若樹はそこに座らせられ、音操が向かいに座る。迎えに来た男は御者のようで、幌馬車の前部に座って手綱を取った。
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