第17話

 ジャスティスが帰ってきたのは翌朝だった。

 俺は寝ていたんだけど、一晩中起きてたレイチェルが名前を呼んだから、すぐに目が覚めた。それに隣りにいたメルディが俺の肩を揺す振るんだから。

 まだぼんやりした頭で、のろのろ毛布を出て外に出る。

 頭が重い。まだすごく眠たい。外はまだ真っ暗で、風も冷たい。寒い。

 ジャスティスはいたって普通。なんのケガもない状態でたき火の横に立っていた。

 レイチェルがしがみつくようにジャスティスに飛びついて、泣き出したからびっくりした。ガキみたいにわんわん泣くから。

「心配したんだよ?」

「ごめんね」

 ジャスティスはそう答えると、俺を見た。

「クライブ、どこも痛くない?」

「痛くないけど、何?」

 俺はジャスティスを見つめた。

 ジャスティスは少し苦しそうな顔をして、レイチェルにクライブと話してくるからと囁いた。

 何? 話す事なんかある?

 俺は茫然と馬車の上から、ジャスティスを見下ろしていた。

「クライブ、二人で話せる?」

 ジャスティスからこんな事、言われるのは初めてだったから、ちょっと驚いた。いつもだったらもっとおどおどしながら、言いたい事をさっさと言っちゃうような奴なのに。

 俺はブーツを履くと、ローブを持って馬車を飛び降りた。

「なんだよ?」

 ジャスティスは俺の手を引いて、少し馬車から離れた。馬車がぼんやりとしか見えないところまで歩いて、そして止まった。みんなには聞かれたくないらしい。

「どうしたんだよ?」

 俺は尋ねた。それからローブを羽織った。

 ジャスティスは人差し指くらいの長さの、底が丸いビンを何本も俺に押し付けた。そして静かに言った。

「またしんどくなったらすぐに言ってね、絶対だよ」

「どうして?」

「クライブには話せない」

 俺は小ビンを眺めた。茶色い汁みたいなのが入ってる。ババアの薬じゃねぇの?

「もしオレがいないところでしんどくなったら、これをちゃんと飲んで休んでね。絶対だよ」

「なんなんだよ?」

「約束して」

 ジャスティスは一方的にそう言い切ると、俺を刺すように見つめてきた。

 俺は小ビンをローブのポケットに入れるとうなづいた。

「オレね、レイチェルと一緒にいると幸せだよ」

 ジャスティスが言った。

 キモイ。何言ってんの、こいつ。とうとう頭も変になったか。

「クライブがいなかったら、オレ、きっとまだ村にいたと思うんだ」

 少し赤い顔をしたジャスティスはそう言って、俺の手を握る。マジでキモイ。やっぱり、ババアになんかされたんじゃねぇのか?

「今まで本当にありがとう」

 ジャスティスは言った。見た事ないくらい、うれしそうな顔をして笑っていた。

「もうオレは一人でも大丈夫だよ」

 ジャスティスは俺の手を引っ張った。そしてガキの頃みたいに俺の背中に腕を回して、ぎゅっとしがみついてくる。冷え切ったジャスティスの体が冷たい。

「だから、今度はクライブに幸せになってほしい」

 ジャスティスはそう言って、またぎゅっと力を込めた。

 俺はうんざりしながら、ジャスティスに言った。

「分かったよ」

 そう言わなきゃ、放してくれない気がしたから。

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