第15話

 狼男どもに会うのはそんなに難しくなかった。

 もともと俺達を追ってた連中だ。出て行って、取引を持ち掛けたらあっさり乗ってきた。

 俺の腕にかみつこうとしたあのきれいな銀色の毛の男がボスらしい。話を聞いたら、その男が一番最初に出てきた。めちゃくちゃでっかい。

「交渉とは?」

「血ならほしいだけやる。だから、かくまってほしい」

 俺はそう言って、左腕を差し出した。

 後ろでビビッてるジャスティスは、辺りをきょろきょろするだけで、一言も話さない。

「何から?」

「魔物狩人だ。俺達じゃ手に負えない」

 俺はジャスティスを促して、包丁を握った。差し出した左腕をざっくり切れば、いくらでも血は流れてきた。左腕が温かいのはきっと、この真っ赤な血のせいだ。

 地面に一滴、血が落ちた。

 男は満面の笑みでにんまりと笑うと、ゆっくりと俺の腕に口を付けた。

「交渉成立だ」

 きっとそんなに大きな音じゃない筈なのに、ごくごくと音が響いて聞こえた。こんな感覚は初めてだ。音と一緒に力が抜けていくんだ。だんだん立ってられなくなってきて、腹を切った時みたいに手足が冷たくなっていく。

 俺は座り込んだ。

 狼男達は順番に、俺の腕から血をすすっていった。全部で何人だったんだろう。もう数えるのも嫌になるくらい、体が重い。座ってるのも、息をするのもだるい。

 俺は体をジャスティスに任せるようにもたれかかると、目を閉じた。

 痛みなんて大した事ない。

 ただ、このまま死んでしまうんじゃないかと思ったら、やっぱり少し怖かった。生きたいなんて思わないけど、でも、もう一回だけでいいんだ。ピアノを弾いて、メルディやベンが笑ってるところをまた見たい。あの、胸が弾むような音色が聞けたらいいのに。

 メルディの暖かい笑顔が、もう一度でいいから見たい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る