終
数年後、夫と子供と暮らすあのアパートで、大掃除の日にそれは見つかった。
ベッドの下の隅、ホコリを被って忘れ去られていた、一冊の抜き刷り。
かつてアリサ・スノワが、その知性がまだ完璧に機能していた頃に読んでいた、ある哲学書の断片。
彼女は、そこに印刷された文字を、何も感じない目でただ眺めた。
『……虚無とは、単なる不在を意味するのではない。それは、かつて存在したものの価値が剥奪され、その喪失感すらも風化し、後に残された絶対的な無関心とでも言うべき……』
かすれたインクの染み。
彼女は、その紙片を他のゴミと一緒に、音もなく袋の中へ入れた。
かつてそこに何が書かれていたのか、その価値も、意味も、もう彼女の中には残っていなかった。
氷の女王 Vii @kinokok447
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