【pt.1 オムライス分隊】存在価値の証明
「君という存在に、他の有用性があるなら教えてほしいな…。」
風前の灯火を見定めたような瞳が、死神の如く俺を捉える。
ホルスという少女は今ここで、俺の存在価値を決定しようとしているようだ。
「俺は……。俺は…………。」
「俺は、何?」
–––––何か、何か!! 何でもいいから、俺の価値を証明しろ!!
「早く言ってくれー…。君が何なのさ。」
「俺は…………。君達より、強い。」
「「は????」」
エミリーとホルスが、同時に俺を凝視した。ヤケクソで放った俺の一言は、彼女達の逆鱗に触れてしまったようだ。
「………あはは、面白い冗談だね。君、今すぐ死のうか?」
「ホルス、私がやります。」
「エミリーが怒ってる…。あのエミリーが…。これは任せるしかないねー。」
どうせ大人しく していても、解体ショーの玩具にされておしまいだった。
だったら、この細身の女の子を殴り倒して自分の強さを証明して、解体ショーを回避するしかない。
「…あの世で後悔しても知りませんよ?」
「君こそ、可愛いからって手加減しないぞ。」
「人型兵器と人間の違いを、思い知らせてあげます……!」
ちょっと待って、聞いてない。それは聞いてないよ。流石に冗談だよね???
エミリーは右手で俺の胸倉を掴むと、左の拳で頭を殴った。
*○*○*○*
「……やっとお目覚めですか。」
「……。」
目が覚めると、俺は床に寝転がっていた。……うーん、瞬殺。嘲笑うようなエミリィの視線が可愛い……じゃなくて、怖い。
「お、俺みたいな不健康で貧弱な奴を売った所で、大した金にはならないと思うぞ…。」
「そうですね。……そもそも最初から、貴方を利用する為に助けた訳じゃないんですが。」
「え?」
「人身売買は冗談ですよ。」
飄々と言われて、思わず肩の力が抜ける。
「え?」
「ホルスが楽しそうだったので、つい手を出してしまいました。ごめんなさい。」
震えた声で謝罪してるけど、絶対笑ってるよね。ねぇ君、笑ってるよね???
肩がぷるぷる震えてマスケド。
「じゃあ、解体ショーの玩具にされることはないんだな?」
「はい。大丈夫ですよ。ただ……ペットを飼うのは少々コストが高いので、どの道 貴方の有用性を示して貰わないと困ります。
私達 敗残兵にも、男を養うほどの余裕はありませんから。」
「敗残兵…?」
「……ご存じありませんか。昔は救世の騎士団と呼ばれていた、旧人類の最後の戦力です。」
「ごめん、全く知らない。」
俺の知識の乏しさに対して、エミリィは 別段驚いた様子を見せなかった。彼女の言う『昔』とは、一体どれほど昔の事なんだろうか。
「じゃあ、人型兵器っていうのは…。」
「本当のことですよ。旧人類が使える全ての技術を注ぎ込んだ、人智の結晶……と、言われていましたが。」
その言葉に続く結末は、恐らく俺の推測通りだろう。俺は固唾を飲み込んで、エミリィに問う。
「……君達は、何に負けたんだ?」
「私達の間では エネミーと呼ばれる事が多いですが、彼らは旧人類に対してこう名乗りました。」
『新人類。』
エミリィの話を要約すると、次の通りになる。
今から5年前、異能『スキル』を持った新人類が地上に現れる。彼らは旧人類に宣戦布告し、スキルを駆使して旧人類を殲滅した。
外見では旧人類と相違点のない新人類は、広域破壊を得意とする者を旧人類の重要都市に潜入させ、『予測不可能の侵攻』によって次々と国家を壊滅させていったそうだ。
自国の主要都市で大規模な軍事作戦を展開する訳にもいかず、軍隊は能力者に対して最大火力を発揮できなかったのが大きな敗因であったという。
そこで旧人類が創り出したのが、『擬似人間』だ。戦闘に特化した異能と、他の能力者を察知する第六感を持つ生物。
そして、バイオテクノロジーの究極が生んだ、不死身に近しい生命力。
彼女等の出現によって、『予測不可能の侵攻』は阻止できるようになった。都市の迷彩化が始まったのもこの頃だ。
そして去年、ついに新旧人類による全面戦争が始まった。
「……擬似人間の量産が間に合わなかったんです。旧人類の主力が壊滅した後、敗残兵たちが残った迷彩都市を死守しています。
これでも、あと……何か月持つか、分かりません。」
エミリィは、どこか遠い場所を見つめながら言った。
「二人とも…。オムライス作るから、手伝ってー。」
生気が全くない、青髪の少女――ホルスが、俺の背後から言った。シリアスな話の真っ最中に突如として突っ込んできた、「オムライス」。
なんとなく、その単語を復唱してみる。
「……。オムライス。」
「オムライス、作るよ…。」
うん、オムライスって言ってる。間違いないな。聞き間違いでも無ければ、ただの
「なんでそうなった????」
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