第34話 お願いしたの♥
年末年始を一緒に過ごし初詣に向かう、彼女は隣で真剣な顔してお願いしてる。
「何をお願いしたの?」
おみくじ引きながら俺に聞いて来た、答えを言い淀んでいると。
「教えてお願い♥」
( ^ω^ )ニコニコ
ニコニコ笑ってるが有無を言わせぬ其の気迫!、逆らうと後が怖いから仕方なく答える。
「悠美が幸せになれる様にお願いしたよ」
照れ臭かったが本当の事だ、もう悲しい思いはさせたく無い、俺はずっと此の笑顔だけを見ていたい。
挿絵
「あたしはね、貴方の夢が早く叶いますようにってお願いしたの♥」
嬉しそうに笑ってた、其の笑顔が俺に向けられてるのが本当に嬉しかった。
日々は過ぎれど進展は無し…、<早く、早く出てくれ!>毎日定期に読む情報誌や他の雑誌も朝刊も見て居るが紙面の内容は変われど、俺の望む物の掲載はやはり載って無い、其れ以外の仕事は結構好条件の募集は載っているのだが…。
『だからねまー坊と一緒に赤ちゃん抱いて帰りたい、今はこんなに幸せにしてますって言って♥』
嬉しそうに笑う顔が脳裏を過る。
『女の子はパパに似るんだよ、きっと可愛い赤ちゃんになるよね♥』
其の呟きも頭から離れない。
彼女の細やかな望みすら直ぐに叶えて上げられないのか!、情けなさが嫌になる、俺って奴に…。
年明け以降悠美は殆どアパートに帰らず此処に居る。本当に楽しそうに朝の迎えと家事を行い、それに影響無い様にスーパーのパートも続けてる。
「もう俺は一人じゃ無いんだぞ!」
思い出してはいけないのだが如何しても比べてしまう、美澄には帰る場所が有った、俺より良い
悠美は其の心の還る場所を壊され、其れを忘れ自身で立ち直る為に長い時間に耐えて此処迄来た、だが人をアクセサリー位にしか思って無い奴に又壊されてしまう、其れに価値を見出せる奴らなら好きにすれば良い、其れこそ幾らでも自由にすれば良いさ、本人が望んで行ってるんだから…。
だがそう言う奴に限って其れを望まぬ者を探し出し触手を伸ばし絡め獲る、まるで高価な獲物アクセサリーを得るように、巧妙に…、其の狩られた側がどれだけ傷付くかを知ろうともせずに…。
其れで此の考えに至った、お頭の出来は如何にも為らんが手先は器用な方だ、機械弄りも好きだ幾らでも触ってられ直す事も得意だ、そう幾つかの候補が有った。
良いじゃないか此の女性を貰って上げられる、此の女性の細やかな夢も同時に叶えて上げられる。
俺の小さな夢など引き換えにしても十分御釣が来るじゃないか、仮に成れたとしても仕事を熟せなければ篩に掛けられ結局其の舞台から落とされてしまうんだ。
其れで俺の考えを伝えた。
「三日間時間を下さい…」
意外だった喜んでくれると思ったのに。
其の日から顔を見せなくなる、今は顔を合わせない方が良いのか、流石に今迄俺はもう少し先にして欲しいと言ってたんだ、いきなり方向が変わって慌てる事も在るだろう、自分ともう一度向かい合ってるのかもしれないしな、こんなうだつの上がらん不細工な奴とでホントに良いのかと…。
言葉を掛けた日のバイトから有難い事に明けには
最終日の三日目が終わる迄あと一時間位、来るのが遅いななんてのんびり待って居た、そう今夜はバイトも無いので家でのんびりと其の幾つかの候補の載る情報誌を読みながら…。
残り三十分に為り緊張で喉はカラカラ、台所でコップを手にした時に違和感に気付く、食器棚に揃いの夫婦茶椀も湯呑みも無い!。
『誰が来ても困らない様に何も足跡が無いの…』
頭に甦るあの時に聴いた言葉…!
日付が変わるまで残り数分しか無い、己の浅はかな行動に気付いてしまう、暖気も近所迷惑も顧みず<Γ>に飛び乗りスロットルを開ける、向った先の部屋には明かりは灯っておらず、南の窓には見慣れたカーテンも無かった。
俺は又間違った選択をしてしまったのか?、電話ボックスに入りボタン押す、受話器からは非情な無機質のアナウンスが流れる…。
『現在この番号は使われておりません、もう一度番号をお確かめの上お掛け直し下さい…』
そう繰り返されるアナウンス、力無く受話器を戻すと乾いた金属音と供に硬貨を戻される…。
俺は馬鹿だった彼女の幸福を願った筈なのに…。
翌日勤務先に電話掛けるも急に辞めると言って来たと、今と違い個人情報の保護などガバガバな頭の片隅にも無い時代だ、連絡先を聞くと教えて呉れたが其れは俺が良く知るアーパトの住所と電話番号…。
故郷に辛い思い出を持つ女性、だから敢えて聞かずに居た何処から来た女性なのかすらも、嬉しそうに笑って言った言葉が聞かなくても良いと思わせた…。
『だからねまー坊と一緒に赤ちゃん抱いて帰りたい、今はこんなに幸せにしてますって言って♥』
其の日が訪れた時に其処に行けば良いと、笑顔で戻れる時に其処に向おうと思ってしまった…。
俺が知る悠美の故郷の手掛かり其れは…。
「大丈夫だよコッチは未だ雪は降って無いよ、向こうじゃ此の時期には雪降ってたしね、窓から外を見てると厚い雲に覆われてさ、外が暗いんだよね此処から大して離れてる訳じゃ無いのにね…」たった其れだけ。
悠美自身の事で知って居るのは、意外に押しが強い事、綺麗な女性の振りをするが本当は童顔で可愛い事、そして本当に本当に誰でも手に入れられる筈の細やかな夢、其れを何時か手に入れる事を夢見ていた女性だった事だけ。
俺は供に過ごす中で彼女が笑いながら語って呉れる迄聞かずに置こうと思って居た、辛い思い出を聞き出す位なら悠美が笑って故郷の愉しかった事を話せる迄待とうと、だから彼女が語った事以外何も知らないんだ、何処に行く可能性が有るのか、何処に帰って行ったのかさえ…。
此の大都会の片隅のコンビニで知り合った一期一会で繋がった縁、失うともう取り戻す事が出来ない縁、偶然繋がった砂漠の中で煌めく一粒の砂に出会った位の縁、見失うともう一度其の一粒に繋がる事は天文学的な確率以下に等しい…。
俺は全てを失ってしまった、俺は又選択肢を間違えてしまったんだ…。
その日からはやる気力も失っていたが仕事は休む訳にも行かず、お客様の前に立ち平静を保ち続け…。
「いらっしゃいませ!」
「お預かりします!」
「有り難う御座いました!」
そう言い続ける間だけは救われた、僅かな時間に一度ならず二度迄も味わって仕舞う、遠い所に一人で居る事に、止まらぬ位に会話が続いていた毎日だったから。
既に日課の様に為って居る求人雑誌を購入して読み進める日々、本当に数日の時間だった一週間も経たぬ日曜日のバイト、入荷の商品を並べ終え何時もの様に雑誌を購入し目を通す。
空が白み始め段々店内をマジックミラーの様に映して居た鏡が外を写すガラスに戻り始めた頃、其の求人誌に募集が載って居た。
『報道関係業務専属の輸送業務、二輪乗務員募集。
採用正社員のみ、貸与車両にて迅速な配送業務。
応募要項、20歳以上、中型以上の二輪免許必須。
※諸官庁等入出業務必須の為事前個人審査有り、』
悔しかったほんの数日早く此れが載って居れば…、俺がもっと辛抱強く待って居れば…、大切な女性を無くさずに済んだのに、あの女性が笑顔で帰りたかった故郷に連れて行って上げられたのに、本当に悔しかった、本当に後悔は先に立たず、もう何度目だろう先人は上手い事を言うんだと思うのは…。
『貴方の夢が叶いますようにって!』
彼女が願った事を叶える様に、其の彼女の細やかな夢と引き換える様に現れた。
暗き夜も明けた!、バイトも終わる良い時間!、其れでは彼女が願った物に俺は応えよう!。
「募集広告見てお電話致しました、募集の席は未だ空いて居りますか?」
彼女は細かな夢を叶える事が出来ただろうか?
俺が願った彼女の幸せは叶ったのでしょうか?
其の答えは何時か判る日が来るのでしょうか?
俺には判らない…。
「カッペはコンビニで知り合う?」は今回で最終回となります。
此処まで御読み頂き有難う御座いました。
次回作は『 カッペが遂に大都市東京を走る?』に成ります、ホンの触りですが序章を載せて御座います、相変わらずのトラブル巻き込まれ体質は継続中…、宜しければ寄って見て下さい。
カッペはコンビニで知り合う? JOY POP @da71v
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