第25話  笑顔

今日も休みを取ったの?



 昇り始た太陽を背に走り出す、バイトは夜だしお姉さんは休み、急ぐ必要が全く無く廻された腕に力が籠らぬようゆっくりと西へ向かっている。


 ファミレスに入って軽く胃に入れようかと進言したのだが、今の顔を誰にも見られたくないと言って断られる、考えて見ればお姉さんが泣き腫らした顔じゃ俺が悪者になるよな、其れが正解だな。


 道が混む前に市街地を抜け無事に役目を果たし駐車場で降ろす、自宅へ送る事は断られた、まぁ良く知らん奴に自宅を教える訳も無いな。


 降ろした場所は俺がお姉さんと知り合った場所、そう俺のバイト先、コンビニの駐車場だ…。


「お疲れ!」

「いらっしゃい…、アレどうしたんですか?」

「腹減ったんで朝飯買いに来た!」

「其の格好だと何処かへ行って来たんですか?」

「まぁな、ツーリング以降デカい方に乗って無いから一寸ばかし走って来た!」

「え~っ一人でですか?」

 ( 一一)…

 何で訝しそうな顔すんだよ、コイツ思った以上に勘が鋭いのか?、お前の前でお姉さん乗っけてたなんて死んでも言える訳無いだろ!。


「昨日の夜から飲み食いして無いんだ、朝飯買って帰らんと胃が持たんからな!」

「気合い入れて走ってましたね!」

 コレで交わせたのか?、女と一緒で飲み食い無し等普通なら有り得んからな。


「まぁな」

「そうだ売れ残りげたの在りますよ?」

「止めとくよ、バイトに入ってる日じゃ無いからな」

「真面目ですね…」

「まぁな、其れだけが俺の取り柄だ!」

 食料の調達済ませ、後は寝るだけ…。


「お休み…」

 誰聞く事も無い部屋に響く自分の声…、何も返して上げられずに別れたもんな…、今回は少しでも役に立てたのだろうか…。

 〈んな事思ってるから贖罪って言葉が浮かぶのか…〉


「さて始めるか!」

 たっぷり寝て今夜はRZに乗りバイト先へ到着、さてお仕事開始だ!


 お得意様も一通りいらっしゃってピークの忙しい時間も過る、あの方は勿論今日はお休みだから見ていない、次の入荷迄残り三十分てところか…。

「さて今の内に」

 背に並ぶ煙草の幾つかが残り少ないのが気になり補充を始める、レジから離れる訳じゃ無いから来店されても直ぐ対応出来るしな。


「いらっしゃいませ!」

 タバコの品出しで後ろ向いた時にお客様が入店される、作業の中途なので其の侭作業を続行中。


「お願いします!」

 アレこの声は?、振り返ると其処には何と無く見覚えの有る童顔の子が居た。


 白いワンピース、白いパンプス、両耳が見える様に編まれたおさげ、そして多分ノーメイク、別人だった。

 <こんなに変わる物なのか?>


「如何したの?、ヤッパリ何時もの方が良かったのかな?」

 不安な顔をしてのぞき込まれる、言葉が出ない、持っていたイメージが音を発てて崩れて行く…、とても同じ人に見えなくて…、勿論悪い意味じゃ無い。


「可愛いな、俺はコッチの方が良いな…」

 仕事中でお客様なのに何も考えられずに言葉が零れた、眼の前の女性は驚いたように眼を丸くした。


「是が作って無い本当の私なの、こっちが良いの?、本当に?」

「嗚呼、俺は今の方が良い、嫌、此の侭の方が好きだな…」

 何も考える事が出来ずにそう答えてしまう。


「ありがとう…」

 其れだけ答えて頷いた。


「お話が在るの、終わったら時間貰って良いですか?」

「予定は無いから大丈夫だよ…」

「判りました、何時に終わります?」

「あれ?、仕事は大丈夫なの?」

 俺は明日はバイトが無いから時間は気にしないが…。

「気にしないで、私も大丈夫だから」

 其れだけを伝えると彼女は帰って行った。

「有難う御座いました!」

 まだ何か話し足りない事が有るのかな?、其れ位にに考えてた。


 <また気付かないのか本当に此のアホは!、朴念仁も充分罪ですよね…>


「いらっしゃいませ!」

 バイトが終わる時間が近付きお客様の途切れた頃に彼女が現れる、夕べの俺が良いと言った姿で。

「これでいいかな?、外で終るのを待ってるね!」

「よく覚えてたね?」

 レジで聞かれ頷いた、二本の飲み物を手にして片方はファミレスで俺が頼んだ物。

「有難う御座いました!」

「待ってるね♥」

 ドアを開け出て行く女性を見送った。


「お疲れ様!」

「おはようございます!」

「表に見たこと無い可愛い子が居るわね、君の知り合いなの?」

「知り合いっかって聞かれればそう為りますね、夜のバイト含めて前から皆さんがご存知の方ですよ、極偶に朝にもいらっしゃってますから」

「嘘だね見た事無いわよ?、お客さんの顔覚えるの得意なんだから!」

「そうですか?、少し前に接客されてましたけど?」

「ホントに?、全然思い出せないんだけど…」

「まぁ今日は何時もと服装が違ってますからね…」

「う~ん思い出せ無い…」

「それじゃ上がりますね!」

 頑張って悩んでて下さい、無理も無い俺も判らなかったからな…。


 バイトが終わり外に出ると言われた通り表で待ってる。

「聞いて欲しい事が有るからあたしの家に来て!」

「二人切りは不味いと思うんで場所換えた方が良くないですか?」

 そう言ったんだが、横に首を振る。

「良いから来て!」

 腕を掴まれ強引に手を引こうとする。

「一寸待って!、バイク置いとくって言って来るから!」

 しょうがないな…、店に戻り未だ悩んでるパートのおばさんにRZを後で取りに来ると伝える、脳内のメモリーを必死に検索してる、御蔭で俺の事を詮索されずに済んだ、ラッキー!。

「待たせて悪い!」

 手を引かれて付いて行く、前にも有ったなこんな風に強引に手を引かれた事…。


「こんな傍に住んでたんだ」

 彼女は50メートルも離れて無いアパートに住んで居た。


「散らかってるけど入って!」

 招かれ部屋に入ると昼の凛としたイメージと違い可愛い小物が並ぶ部屋、派手さが無く部屋は彼女の内面を表している。

「そう言えば仕事は、今日も休みを取ったの?」

 昨日休んだ筈だし気に為り尋ねると。

「辞めてきたの、話を聞いて貰って決めた、だから今日から有休消化中なの」

 曇りの無い晴れやかな笑顔。


 そっか辞めて来たのか、其れで清々しい顔で笑えるんだな…。




おばさん脳内のメモリーを必死に検索してる…。


(ФωФ)フフフ・・・


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