第23話 一番冷え込む時間
真っ暗な海を眺めて暫く待った、話し出すタイミングは彼女が決める事、無理に話聞きだす心算も無かったが心に溜まった物を全部吐き出したいなら最後迄付き合う心算でいた、今は聞いて上げる事以外出来ないが何か応えて上げられれば良いんだが。
「海の音しかしませんね…」
「其の上こんな真っ暗じゃお姉さんの顔も見えませんけどね!」
勿論隣に居るんだハッキリとは行かないが表情が辛うじて解る位は見えてる、今の言葉が呼び水に成り左程時間も掛からず話し出した。
「私友達も居ない地味な子だったの、其の人は明るくって背も高くてハンサムなの、何時も他の男子とワイワイやってて女子にも人気が有る人気者、一寸悪い噂も有ったんだけどそんな事全く感じられなくて私と全く正反対、何時の間にか眼で追う様になってた…」
「そうなんだ、背も平均だし見ての通り不細工だし更に根暗だし、俺とも正反対だな…、まあ不細工には厳しい世の中だから仕方ないのか!」
「そうなの?、根暗には見えないけど?」
解っちゃいるけど不細工なのは否定しないんだ、是ばかりはしょうが無いか…。
「友達がいない訳じゃ無いけど、小、中と家の手伝いで殆ど家で過ごしてたしね」
「そうは見えないけど?」
「高校の友達も問題ある連中だったし、オッと悪い意味じゃないよ、只趣味がね余り威張れる様な趣味じゃ無かったからね…」
「それって・・・、漫画とアニメって事かな?」
「何で其れが解るんです?、お姉さん人の考えが読めるんじゃ…」
「まさかそんな事在る訳ないでしょ、もし読めたらあんな事に為らないよね・・・」
俯いてしまった、不味かった、うっかりしてた、今のは禁句だったな、如何しようかと思っていたら・・・。
「学校で先生に呼ばれたって言ったよね、其の時校内放送で呼ばれたの・・・、其の人友達に自慢してたんだって賭けに勝ったって・・・、仲間内で抱けたら一万、処女だったら更に一万だって・・・、だから勝ったって事は私の事を全校生徒が知ってる・・・」
顔を伏せたままで言葉を紡いでる、掛けて上げる言葉を必死に探してた、でも俺のお頭じゃ見付からなくて…。
「ちゃんと聞いてるから安心して」
其れしか言葉は出て来なかった。
「私って二万円の価値しか無いんだって、其の人と取り巻きの男子は私の事で停学に成ったのを逆恨みして学校で言触らした後に不満ぶつけて暴れて退学、私も二週間の停学、そして其れからあたしは卒業するまで二万円って呼ばれたのよ、都会でも無く田舎でも無いそんな所だから私の事を知ってる人も多いのよ・・・」
「聞いてるよ、其れしか出来ないけど・・・」
「詰まんないよねこんな話・・・」
「其れは受け取る側の勝手だよ、俺は聞いて置きたい未だ終わりじゃ無いよね、だから店に来たんでしょ?、何で俺が居る時に来たかも判んないし、其の訳も知って置きたい…」
「何でだろうね…、最後まで聞いて呉れるの?」
「勿論、其の心算で此処に来たからね、聞いて何かをして上げる事が有るかも判らないけど、今俺に出来るのは最後まで、お姉さんの心の痞えが取れる迄聞く事しかないしね」
「ありがとう・・・、私学校に通うのがずっと辛かった、でも我慢した家に帰っても休みの日も窓から外を眺めてた表に出るのが怖くって、両親は犬に嚙まれたと思って忘れろって、酷いでしょ?、でもね今なら解るよ早く忘れて欲しいって思ってたんだって・・・」
「転校は考えなかったの?」
「考えたよ、でも通える所は悪い評判の学校しか無いの、私が馬鹿な事した所為で両親に負担掛けられないし、余り裕福な家庭でも無かったしどの学校に行っても地元に居れば付いて回る噂だしね…」
「そうか・・・」
辛かったねとも、大変だったねとか声を掛ける事は出来るが、其れは違うと思い言葉を飲み込んだ、頷く事しか出来なかった、出て来たのは『そうか』とだけ、でも未だ此の先が在る返答は最後まで考えよう。
「私変わりたくてそれ迄以上に勉強して少し離れた場所の短大に入って、髪形を変えてお化粧覚えて地味な服装も止めたの…、少しでも良い就職先を探して都内したの、東京なら皆な私の事を知らないでしょ…」
自分を変えるのは難しい、生半可じゃ変われない、それ程までに悔しかったんだ、其の気持ちは痛い程に伝わって来る。
「それで今の会社入ったの、仕事覚えて一人前って呼ばれる様になって、勿論誰も私の過去を知らない、少し前に会社でも仕事が出来るって言われてる素敵な人に告白されて付き合い始めたの、私変わる事が出来たってやっと思えたわ…」
嫌な予感がする、此の儘続けさせたら泣き崩れそうだ。
「一寸だけ待っててくれる?、直ぐに戻るから!」
一息入れさせよう、スロープを駆け下りタンクバックから薄手のライダージャケットを取り出し駆け戻る、不安な時間は少ない方が良い!。
「少し冷えるよね、綺麗じゃないのはご勘弁!」
肩にジャケットを羽織せお道化て見せると笑ってくれた、長い時間此処に居て夜空に僅かに白みが差し始めた、もう明け方前の一番冷える時間に為ってる、其れを理由にしたんだ。
「ありがとう、確かに暖かいね…」
「前に着た後ずっとバックに入れた侭だから汚れてるかもだけど寒いよりは良いから、風邪引かせちゃう訳には行かないから」
「ううん気にしないよ、良い匂いだね」
「ゴメン、俺が乗ってるバイクって排気ガスのオイルの匂いが服に着いちゃうんだよね」
「ううんホントに良い匂い…」
ジャケットの襟元を両手で鼻元に寄せていた、俺って馬鹿だから其の時彼女が何を言ってるのか気付け無かった。
「そう言えば何であんな格好して来たの何を確かめたかったのかな?、其れとも年下を揶揄ったの?」
思い出して恥ずかしかったのか下を向いてプルプル震えてる、さぞ真っ赤な顔をしていたんだろう、暗くて見れなかったが是は見て観たかった残念!。
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