第22話  真夜中の来訪者 ⑥

「いらっしゃいませ」

 前回も対応してもらった女給さんの良い笑顔!、一番奥の窓際を希望し其処へ案内される。

「軽く食べてから話しようか?」


 軽食済ませ飲み物を追加オーダーし運ばれて来た。

「ご注文のアイスコーヒーに成ります、ごゆっくりどうぞ」

 二つグラスを置き女給さんが立ち去る、前回と同じ良い笑顔だ接客なら満点出す!。

「さて本題に入ろうか!」

「・・・・・・」

「話したいことが有るんだよね?」

 さっき迄の楽しい表情が強張る、カウンターから一番離れた席、入店時に周りのボックス席が空いているのは確認済、此処から見える景色は駐輪場と住宅の外壁、カップルならもっと良い席を使うだろう、その後の入店者も違う席に案内されてるのは確認済。


「話を聴いて欲しいんだよね?、大丈夫だよ此の席なら周りに人は居ないから」

 小さく頷いた、さて何が出て来るのかな…、俺で役に立てれば良いが、嫌其れは俺の自惚れか…、悩み事は人に話すだけでも気が楽に成るって言うし、アドバイスが出来なくても聴いて頷く事なら俺にも出来る、尤も其れ位しか出来んが。


 そうは言ったものの困ったもんだ、切り出してから全く進展しないんだなコレが・・・。

「どうしたの?」

 口を開き掛けるが又閉じる、彼是10分位こうしてる膠着状態。


「ふぅ~」

 駄目か、いざ話そうと思っても言葉が出ない、勇気が必要なのか?、それほど重い事って事なのかな。多分話を始めたら出て繰る筈、あんな事迄して店に来て泣きじゃくり、聞いて上げるって言っただけなのに微笑んだから、溢れる想いが在るんだと思う此方から話す切っ掛けが有れば言葉を紡ぎ始める筈、なら切っ掛けを作ってやるか…。


「聞いていいかな?」

 顔を上げてくれたなこれなら行けるか?。

「昨日の事だけど、お姉さん普段からあんなことしてるの?」

 顔が赤く染まる、耳の先まで真っ赤か。

「アレじゃ襲ってくれと言ってる様なもんだよね?」

 激しく首を振る。

「そんな事しない!」

 良しこれで喋って呉れる、態と煽り更にもう一押し。

「でも実は期待してたんじゃないの?、でなきゃノーパンノーブラで出歩く訳は無いだろうし?」

 昨日の事を思い出したんだろう、既に赤い顔が更に紅く成った。

「そんな事しない!」

 良し此の儘行ける!。

「じゃあ何であんな事したの?」

 下を向いてボソボソと小声に成る…。

「何時もじゃ無い、初めてだもん…」

 良し落ちた!、一度話始めたから釣られて言葉が次々出て来るぞ。

「じゃあ何であんな事したの、俺は馬鹿だから判るように説明して呉れる?」

「うん…」

 グラスを手に取り半分ほどを飲み干して、俯きながら話し始める。


「あたし好きに成った人達に騙されてるの…」

 一寸待て!、騙されたとは穏やかじゃないが抑々そもそも人達ってどうゆう事だ?、単純に今の彼氏って話じゃ無いのかよ?。


「学校でね…カッコ良い人が居て告白したの、OKして貰えたのが嬉しくて…」

 緊張を解す様にグラスに一口着け一息入れて…。

「求められて其の侭あげちゃったの初めてを、馬鹿だったのあたし…」

 馬鹿だったって何でそうなるんだ、好きな奴に告白したんだろ?。


 又グラスを手に取り一口含み。

「嬉しくて、其の気持ちのまま登校したら皆みんなが私を見てた…、今と違って地味だったのメガネで髪の毛編んで良く学校に居るでしょ大人しくて目立たない地味な子」

 目の前に座ってる女性からはとても想像付かないが、申し訳ないが其の姿を頭の中で想像してしまう。


「皆が私を見てコソコソ話をしてるの、クラスの子に声掛けたんだけど『ごめんね』と言って逃げる様に離れて行くの、私何が何なんだか解らなくって…」

 何か嫌な気がしたが学生の頃の話だよな、其れが昨日と如何繋がるんだ?。


「其れで彼のクラスに逢いに行ったんだけど、声を掛けた子が迷惑そうに休んでるよって・・」

 何かやだなこのパターン、続く言葉が見えた気がした、でも其れじゃ人達って?。

「次の日の昼休みに校内放送で生活指導室に呼ばれて、いきなり『如何言う事だ!』って先生に怒鳴られたの…、私何が起こってるのか解んなくて…」

 言葉は続く。

「彼ね賭けをしてたんだって、私を抱けるか如何かでね、掛けに勝ったって学校で自慢してたって・・」

 目尻に涙が溜まって零れ始めてる…。

 此処で話すのはもう限界だな場所を換るか!、さっきははしゃいでたから少し走るか・・、一旦気持ちも落ち着くと思う。


「話して呉れて有難う、でも未だ話し足り無いんだよね?」

 其の問い掛けに顔を上げた、今の話は昔有った事だが其の話を今すると言う事はこの先に繋がる事なんだろう…。


「一寸時間掛って真っ暗だけど海を見に行かない?」

 駐輪場に停まるバイクを指差す。

「うん」

 此処から一寸距離は有るがお互い明日は休みだし、時間を気にする必要も無いよな。


 彼女を背に乗せ展望台を目指して走ってる、乗せてるので高速に乗る訳に行かないから勿論一般道。何時ものペースでは無くゆっくり走ってるがバンクする度に背にしがみ着く手に力が籠る。


「怖いか?」

 問うてみる。

「大丈夫怖くない!」

 排気音に負けない大きな声が返ってくる。

「もう少し出すけど良いかな?」

「もっと飛ばして!」

 大きな声が帰って来た。

「了解!」

 其れに応える様に少しだけスロットルを開ける、背から廻された腕に少しだけ力が増した。


 考えを巡らせながらの道程はあっという間に過ぎ、今海岸の渦巻き状の展望台のデッキに立ち真っ暗な海を二人で眺めてる、月の姿も無く波間に船文明の灯りすらも無い。

「海の音しかしませんね…」

「其の上こんな真っ暗じゃお互いに顔も見えませんけどね!」

 勿論隣に居るんだハッキリとは行かないが表情が辛うじて解る位は見えてる、今の言葉が呼び水に成り左程時間も掛からず話し出した。


 未だ俺の行動が正解だったのかも未だ判らないが…。

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