第18話  真夜中の来訪者 ➁

 御約束…、考えをしたくない時に限って信号に足止めされる。


 バイトが終わった!。

「お先に失礼します!」

 パートのおばさんに引続きを済ませドアを開ける、今日は何の予定も無い、バイト開けでツーリングに行って、二時間程の仮眠の後にバイトに向ったから猛烈に眠気が襲って来る、此の後は次に目が覚めるまで兎に角思いっ切り寝る!、そう決めたんだが昨夜の事が頭を過る、お姉さん何時もは創った姿って事なのか?。


 店を後にし俺が渡るべき傍の歩行者信号は赤、替わるのを待つ間に考えが浮かぶ、昨夜は如何したんだろう?、キチッとした姿と昨夜の駄々っ子な姿、余りに違う姿…、本来の姿があっちなのか?、其の考えを振り払う様に首を振る、此の後は直ぐに寝るって決めたんだ!、だが考えが再び頭を過る、何時もの姿は創った姿って事なのか?と。


 何処も似ても無いのに重なって見えて仕舞う、ほんの少し前迄過ごしてた日々、そうだよなあの時迄一生懸命お姉ちゃんで居ようと頑張ってたんだよな…、あの泣き崩れた日迄、弟の前で弱い処を見せない様に…。


 まあ人の恋路は何とかって言うし、馬にも蹴られたく無いし、死にたくも無い、腹は減ってるけど戦利品も無い、面倒臭い飯の事は起きてから考えよう!。

 信号を渡り階段を下って行く、万年床を目指して!。


 次のバイトの火曜日、何時もの時間を過ぎても来店されなかった。


 その次のバイトの木曜日…。

 何時もの様に…。

「いらっしゃいませ!」

「お預かり致します!」

「有難うございました!」

 忙しい時間を順調にお客様対応して行く、未だお見えにならない、と言う事は仲直りして先方に行ったって事かな、丸く収まったって処なんだろうな…。

 なんて事を考えレジのキーを叩き続け忙しい時間を乗り切る、やっと一息付けるな…。

 ( ´ー`)フゥー...

 お客様が帰られラジオの深夜放送が響く店内、ヘッドライトが駐車場に入って来る、ライトの高さから配送の二トン車だな、さて次のお仕事開始!。


「お願いします!」

「お疲れ様です!」

 配送のおじさんが運び込むデリカの配送コンテナ、三段に重ねられた入荷品の受取り検品開始。

「異常ありません!」

「有難うございます!」

「お疲れ様でした!」

 配送の運ちゃんを見送ると店内に再び一人、お客様がいらっしゃらない内に品出しを済ませちまおう、おにぎり、惣菜パン、サンドイッチを並べて行く、続けてパスタとお弁当と並べて行く。


 今日は入荷したデリカを売り切って店とすれば仕入れの読みが当たったと成り良かったって事、でもこう言うとアレなんだが下げる物が何も無いんだ、戦利品が無く明日の飯は自炊するしか無いな…、またインスタントラーメンだな…、何で関東に<うまかっちゃん>が売ってないんだよ!。

(´;ω;`)ウッ…


 そんな事を思いつつ入り口に背を向け品出作業中、風が動いてドアの開く気配、コンビニだから無言で来店のお客様は当たり前だ。


 お客様がいらっしゃった、急いで品出し終わらせないと!、ベースを上げ並べて行く。


 品出しを手早く済ませレジに戻る、お客様は此処から直視出来無い位置のショーケースで商品をお探し中、その間に受取り伝票を纏めていた、一度お客様を確認すると移動され天井のミラーで確認する、常温の瓶入りアルコールの棚の位置に移動されてる、ならもう少し時間有るなと伝票をバインダーに留めて行く、レジカウンターに物を置いた音がし振り返る。


「いらっしゃいませ!、お待たせ致しました!」

「お願いします……」

 置かれて居たのは度数の高い国産のウォッカ、商品から眼を上げて息を飲む、スーツ姿で泣き腫らした様な眼、俺の気の所為だろうか?、左の頬が赤い気がする…。

「お預かり致します!」

 前に立たれても酒の匂いはしない素面だと思う、先日の様に酔って来た訳じゃないんだな、でも他に掛ける言葉も出て来ない、否、掛けるべきじゃない!、そう判断し自身に言い聞かせる。


 今俺に出来る事は…、通常通りの対応をさせて頂き代金を預かりお釣りをお渡しする事、余計な詮索は無用、如何されたのか、何が有ったのか、声を掛けたくなるが聴いてはいけない。

 俺は今仕事中、其れに聴いた処で力に為れるかも判ら無い、今俺に出来る事は…。


「何が有ったか私には判りませんが、かなり遅い時間ですお気を付けてお帰り下さいね…、又のお越しをお待ちして居りますよ!」

 そう声を掛けると漸く顔を上げて呉れた、其処には涙でクシャクシャな笑顔で…。

「ありがとう…」

 心臓を握られたかのように胸が痛む…、ホンの少し前に俺は同じ様な顔を視たばかり…、其れを俺がさせて仕舞ったんだ…。


 重い足取りレジを後にされるお客様、先回りしてドアを開け堪らずもう一言だけ声を掛けた。

「強いお酒です、明日お仕事ですよね…、障りが無い程でお願い致します、お気を付けてお帰り下さい又いらして下さいお待ちしてますから!」

「うん…」

 一度頷かれて歩まれる、ゆっくりと…、店の駐車場を過ぎ角を曲がり姿が見えなく為る迄見送った。


 強く深酒を停め逆に自棄に為るよりも、仕事に障りが有るから程々にと伝えた方が良いと思った、多分飲まずに居られない程の事が有ったんだろう、でも俺が掛けた言葉は本当にアレで良かったのだろうか?…、毎回思う後悔先に立たずと、もっと他の言葉が有ったんでは無いのかと…。


 これからも色々な事が有るんだろうなコンビニのレジに立っていると、色々な思いを持つ色んな人訪れる場所だから…。


 でも俺は何であんな言葉を掛けたんだろうか?、それこそ何時も通りの『いらっしゃいませ』と『有難う御座いました』で終わらせても良かった筈なのに…、もしかして贖罪なのか…。


 其れを打ち消しする様に配送のトラックが入って来る、さあ次の品出しだ、お仕事復帰!。

 そして色々な想いと供に夜は更に更けて行く。



 もっと他の言葉が有ったんでは無いのかと…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る