第16話  後二つ!

 コーナーの立ち上がりは流石大排気量Lツインエンジン、トルクの塊で軽々と車体を引っ張って行く、此方がフルパワー掛けても置いて行かれる、だが車重はこちらが軽くコーナ入り口のブレーキング勝負でギリギリ迄我慢し<ドカ>のブレーキリリースポイントで追いつく。


「なんて、気持ちが良いのだろう!」

 とは言えコーナーアプローチのタイミングは<ドカ>のブレーキングにて決まる、減速率見てコーナーの曲線率予測しブレーキングのタイミングと強さ予測する。

 後方でライディングを見て鳥肌が立つ、<ドカ>もライダーも只物ではない。


 何故なら此方が予測し飛び込めるのは、<ドカ>のブレーキングポイントもコーナー進入アングルも正確で、予測して此方もコーナーへ飛び込める。

 サーキットと違い一般道は対向車も有る、コーナーが読めずに飛び込んで安全マージンが無い等とてもじゃ無いが怖くて出来やしない。


「嗚呼、此奴選んでよかった!」

 此処を走り込んでるのは今まで後ろを追って予測できる、本当に<ドカ>もライダーも只物では無い、全身に鳥肌が立つ。


 ただ何だろう此の違和感、追い込む前は他に聴けぬ排気音サウンドがヘルメット越しに無遠慮に襲って居た、だが追い込み始めてから雰囲気、違うな気迫と言った方が良いか、其の後から変貌したと言った方が合っているか暴力的との言える程に入り込んで来る、まるでメット越し殴られる様に…。

「ついて来れるもんなら来てみろ!」

 そう言わんばかりに…。


 マルチシリンダー主流な国産車と違い大排気量L型ツインは鼓動の様な音を刻んでいる、嫌、刻んでいると言うのは少し違うか…、聴けと言って居る様だ、もう少し此の侭聞いて居たい…。

 だが直ぐに耳だけじゃ無く全身でそれを感じる事に為る。


 <ドカ>のテールランプが灯る、ブレーキングでは無いと言う事はトンネルが有るのか?。

 此方もライトのスイッチをオンにし後に続きトンネルに飛び込む、其の瞬間に襲われる此れは半端じゃ無い!、今迄は前方から伝わる振動をメット越しに感じるだけだったが、今は前後左右全身に排気音サウンドに襲われる、然も天井にも反響し上からも襲われる…。


 肌を通して全身が感じる音だけで無く其の脈動迄も、全身に又鳥肌が立つ此れが大排気量なのか!、ツインの鼓動を肌で感じる、コイツも2stの甲高い大きなサウンドを立てる方だが其れを掻き消して仕舞う位の迫力、其れを全身で感じる事が出来た。


 トンネルを抜けストレート、コーナーを抜ける、気に為っていた頭先で走って居る時と違い気迫みたいな物を感じる、明らかに俺が追い始めた時から前を走るライダーの走り方が変わってる、小僧見たいな俺が追って居るからか?、格の違いでも見せて呉れるのだろうか…?

「でも追い込んで行けるのは、此奴だから<Γ>だから!」

 でも後が恐いな…、こんだけ気持ち良く回すとどんだけ喰ってるんだか?…、チラッとそんな事が頭を過る、其の時ストレートで<ドカ>のブレーキランプが灯る。かなりの制動だ此方も同じく制動掛ける。

 <ドカ>のライダーが左手を上下に振る。

「押さえろ!」

 と合図してる、むろん此処を走り込んだライダーの合図だ其れに従う、ストレートとコーナー幾つか流して抜け、バトルは再開した。


 兎に角<気持ち良い、どれだけ振りだろうこの気持ち良さ!。


 追い越し違反取締<PC>も居たが脇に<白いVF>も居た、流石走り込んで居るだけの事は有る気付いて此方に合図をくれたんだ、バトル中に後ろに気遣い出来るライダーやはり只物でない。後に続く連中は無事通過した様で、俺が<ドカ>に追いつきコーナーを回ったら影も形も見えなくなり、気が失せたらしく楽しむ程度で下って来たらしい、後で聞いたんだが…。


 此方はまだバトル中、ブレーキングで追いつき、同速でコーナを回りストレートで又離される、排気量と車体の軽さの差が如実に物語ってる。

「後二つ」

<ドカ>のライダーが左手を上げ指を立てる。

「了解!」

 此方も左手を上げ拳でサイン送る。

「行くぞ!」

 今度は右手でスロットル回すサイン。

「了解」

 と左拳を挙げて返した…。


 休憩地点に到着したが勿論未だ二台だけだ、<ドカ>のライダーは何か言って来るかと思ったが離れた儘…。


 10分経ぬ位で次のグループが到着し、中に奴の<VF>も居る、更に20分程して最終グループが到着、殿も<ドカ>で全員揃った様だ、最後尾のライダーが先頭のライダーに歩み寄り二人で何か話をしている。

 <ドカ>が二台並ぶと壮観だなと思って居た、俺の脇は奴が居て一生懸命話をしていたが絵に成る景色見ていたので、俺の耳には全く届いて無かった。

「ここ初めて走ったんですか?」

 と奴は俺に聞いて居たらしい…。


 暫くして話して居た二人の<ドカ>のライダーが俺に近づいて来る…。

<何かやらかしたのか、俺?>

「ここは初めて?」

 と先頭のライダーさん。

「ハイ!」

 と答える。

「良くコーナーが解ったね?如何して?」

「ブレーキング見て大体の予測出来ましたから」

 素直に出身地の峠が道幅狭くヘアピンの連続みたいな処だったことを説明する。

「判った、もっと速く為れると良いな!」

 笑って手を振り乍ら<ドカ>の下へ戻って行く、其の時俺は後ろ姿も渋くてカッコいいな~と思っていた…。


 その後はショップに戻るだけ、以降先頭の<ドカ>は全体のレベルを把握して居る様に皆のペースが揃う様にゆっくりと走っていた、あの下りで聴いた排気音<サウンド>は再び聴く事は無く…。


 ショップに戻り解散と成る、其々のねぐらに帰って行く、俺も帰ろうかとした時に社長さんに呼ばれる。

「楽しかったかい?」

「ハイ!、初めてだったんで」

「そうか、良かったね」

「ハイッ」

「下りも楽しかったかい?」

「えぇ!」

「中々見れ無いからね、彼の本気…」

「えっ?」

「君の<Γ>はね、彼が<ドカ>に乗る迄大事に乗って居たんだよ…」

「!?」

「彼に言われた事守ってね」

「ハイ!」


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