第11話  コレって西瓜畑なのかな?

 陽が傾き始め空が茜色に変わり始める時間、今日は海を満喫出来た前回の様に肩身の狭い思いする事も無く展望台のデッキを降りGSXまで戻りセルを回す、かなり長い時間此処に長居した、空冷とは言え温まり排気音が変わる位は暖気だな、その間に兜メットを被り一度展望台を振り返る。

「又海を見に来よう!」

 バイクに跨り走り出す、そう又此処に海を見に来るんだ!。


 海岸線に沿って九十九里を北上、のんびり走って三十分位でスロットルの反応が悪くなる、リザーブに切り替え海沿いを一旦離れメインの街道126号でスタンドに入り500円分のガスを補充、更に北へ走り続け又リザーブに切り替える、コレで古いガスは使い切ったと思う、スタンドで満タンにして夕空の下を西296号に舵を切る、暫くしてGSXの排気音エグゾーストをかき消す轟音が頭上を通過して行く、その眩い灯りで照らされた施設を横に見ながら東関道へ入る、SAに入り手土産を購入、暫く走り分岐で京葉道路へ乗り換え武石で降り14号へ。


「何か喰って帰るか…」

 14号を西進し谷津遊園駅の傍迄戻って来た、目に入った街道沿いのファミレスに入る、50㏄のMBXやTS等が止まってる、店内は家族連れにカップル等で満席近い、なんか一寸異色な集団ガ居る、高校生位だろうか?でも中には社会人スーツらしい者も混ざってる、16歳位から30歳近い者の達のグループ、不思議なメンツのグループだな?、俺もこの辺で学生生活を送ったならあんな風に過ごしたのかなと思いながら夕食を済ませる。


 15分程で自宅に到着、バイクを停め本日の工程は全て終了、徹夜明けのその足で走り回って来たんで到着直後に眠気が襲って来る、初めての二輪で遠出で興奮してたのだろう、自宅に到着した安堵感で眠気が一気に襲って来る…。

「お休み…」

 万年床の布団の上に突っ伏した、記憶は…。


 グッスリ寝て翌朝もぞもぞと布団を這い出て火曜日がスタート、部屋の中を見て片付けなきゃとは毎回思うのだが今日も見送り、否先送りだなこれは…。


「今日はGSXを返しに行かなきゃ!」

 のそのそと着替えを済ませ顔を洗い作業開始、スタンドへ行きガスを満タン、自宅へ戻り潮風浴びた車体の洗車を済ませ先輩のお宅へ向かう、先輩は大学へ向ったとお母様は申され、御礼と愉しめた事をお伝え頂ける様にお願いし手土産とGSXのキーをお返しする。


 RZに乗り換えキーを回す、あの時駄々を捏ねたGRの記憶が頭を掠めるがRZは素直に一回で目を覚ます、走り出しも何時も通りで心配は稀有だった…。


 昼前だし帰るには早いし、此の儘バイクショップ廻って見るか!。

 こうしてバイク探しのショップ廻りはこの日から始まる、初日は北へ向う…。


 一軒目に出物は無く暫く走るが次が出て来ない、左手に最大手のコンビニが有るが俺の居るコンビニから随分離れた所、次のコンビニまでこんなに離れてるから夜間にも来客が有るんだな、横目に見ながら暫く走る、次に現れた一軒此処にも希望の条件に合う物は無い、更に走り暫くしたら周り一面畑の風景。

「コレって西瓜畑なのかな?」

 頭上の標識にはこの先へ進むと成田空港と書かれてる。

「さてどうするかな?」

 結構距離も走ってるし、今夜はバイトだし引き返すか、フロントを元来た道へ向けた。


「いらっしゃいませ!」

 バイト始めて早三か月、面接の時に店長に言われたのは…。

「深夜のお店明るく元気よく!」

 深夜何ですが店員が明るく元気な店は雰囲気が良くなる、御客様も安心して入りやすい、そしてどの時間帯も御客様が居る店には悪さしようとした者は入り辛くなると。


「いらっしゃいませ!」

 バイト初めて二か月程の頃から来店されるお客様に変化が現れる、其れ以降は今の様にお客様から声を掛けられる事も多くなり、足早に商品を選んで直ぐに店を後にされて居たお客様も今は滞在時間が少し長くなった気がする。


「いらっしゃいませ!」

 又お客様がいらっしゃいました、そしてそんな店なら俺も何時も御客様がいらっしゃるので安心、良い事尽くめですね。

「いらっしゃいませ!」

 又居らっしゃいましたね御客様…。


「いらっしゃいませ!」

「こんばんは!」

 手を振り雑誌コーナーへ向かわれる、何時もと雰囲気が違ってる何か良い事が有ったんだな、毎日の様に顔を会わせてるからそんな事も気付いて仕舞う、暫く雑誌に目を通しお気に入りの物が有ったんだろう手にされた。


「兄ちゃん何時ものと此れ頼むよ!」

「此方とハイライト二つですね!、何時も有難う御座います!」

「此処何時も明るいから、入り易くていいよな!」

 商品確認し、金額を打ち込み代金を預かり、御釣りを渡す。

「有難う御座います、又お越しください!」

「おう、又寄るな!」

 御贔屓にして貰ってる御客様が帰られる、現場作業と判る出立遅く迄ご苦労様です。


「これお願いしますね!」

「いらっしゃいませ、お預かりします!、何時も遅くまでご苦労様です!」

 次にレジの立たれた御客様、本当に遅く迄ご苦労様と思って仕舞う綺麗なお姉さん、お伝えしてカゴをお預かりする、えっカゴ?、何時もは手で持てる位なのだが…。


 そう思って居たのを見透かされ声を掛けられる、一寸ゆっくり目で店内を廻られこの忙しい時間の最期の御客様と為って居る。

「ホントはもう少しおつまみ欲しいけど明日も仕事だからね…」

「そうですよね…、仕事に響きますよね?」

 今日は木曜日のシフト、殆どの企業が週休二日制を採用して居らず土曜は未だ休みでは無かった。


「そうなのよね…」

「日曜まであと二日頑張りましょう!」

 何時もの疲れたお顔と違い今日は嬉しそうに笑ってる、商品を確認し読み上げ金額を打ち込む、バーコードじゃ無く一品ずつ確認しキー打つ、此の頃にはブラインド入力出来たから目線は商品を見てレジ袋に入れて行く、この日は定期的に購入されるファッション雑誌、食事用のサンドイッチとつまみのスナック菓子と乾き物、流行りの小瓶に入ったお洒落なアルコール二本…。


 平日にアルコール?…、此の嬉しそうなお顔?、あゝそうか良い出会いが有ったのか!。


 気付いちゃいました!

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