第8話  今度は嬉しくて

 季節は春に代わり漸く退院の運びとなる、残念ながら聴力は医師の説明通り高周域は失った儘だ、日常生活に置いては差しさわりは無いと思うと伝えられる、仕事場で日常の衝撃音は聴力の悪化を招くらしく最悪は若くして難聴に為ると釘を刺される、一体如何すりゃ良いんだ?、今暫くは治療自体の完治までは大人しく通院も続ける必要が有る、その間は休職扱いだと…。

(-ω-;)ウーン


 復職するかの答えは其れ迄待って貰えると上司に告げられる、通院期間中は労災で保証される。今は聴力の回復に努める様にと、そして寮にも居ずらいだろうと例の貸家へ入居の配慮頂いた。


 初めて入る此れからの新居、寮と違い食事も作らねば為らぬし其の用具も揃えなきゃ成らんし、寮よりかなり割高な家賃、ソコソコの出費は相棒の為の貯金を取り崩す事に為る頭が痛いな…、新居のドアを開けると僅かしか無かった俺の荷物は既に運び込まれて居り、RZは庭先の廂の下に停めて在った。

 今日は徒歩で行けるスーパーで細々した物を揃えるか…。


 二日後通院の為RZを出す、エンジンを掛けると同じ様に眼の前の景色が歪み走り出せない。

 今度は嬉しくて眼の前が歪む、又走り出せる事に・・・。


 気を取り直し走り出したが直ぐに違和感に気付く。

《何処か調子悪いのか?》


 体感的には加速も申し分無い、シフトの感覚、尻と手に伝わるホイールの転がる振動、サスが伝える路面の状態も同様、なのに明らかに違う加速する時のにエンジンがもたつく様な違和感、でも体で感じる加速感は入院する直前までと変わらない?。

 違和感と不安が増して行く、シフトダウンしスロットルを開けちらとタコを見る、前と変わらぬ吹き上がりの筈、調子は良い筈だ何処が悪いんだ?、ドンドン焦りが増して行く!、俺が気付いてやれないと壊してしまう。


「何処だ?、何処が悪いんだ!、不具合箇所を見つけないと!」

 だが原因は10分程で突然解決する、小さな大仏が在る駅の踏切だった。


 車に並び順番に踏切を越えようとしたタイミングで警報が鳴り停止、先を急ぐ訳じゃ無いから遮断機が下りた踏切で列車の通過を待つ。

 何か変だ?、何時もと何か違う?、コーナーに沿って構内に滑り込んで来る列車、其れに伴い車輪のフランジとレールが擦れて発てる金属音、停車に向けて掛かるブレーキ音!。


「そうかRZは好調なんだ異常なのは俺の方か!」

 踏切の電子警報音、車輪の転がる音、ブレーキ音、聴こえている音は変る筈は無いんだ、俺が感じ取れなく成って居るのか!、これが受けた代償なのか…。


「慣れるしか無いのか…」

 遮断機が上がりスロットルを開け加速して行くRZ、何時もの加速なんだ此の音が…。


 診察結果は退院した時と同じ、改善は粗不可能だが大人しく過ごして悪化させぬようにと念押しされる、待合室で薬を貰い帰ろうと思った、否、其処へ行こう向かったのは北総開発鉄道(今は名称変わっています)目的地は白井駅から小室駅間、この時間なら邪魔者居ないはず。


 白井駅に到着、周囲を十分確認後ゆっくり走りだす、小室駅に到着までにPCは居なかった、陸橋を越え白井駅にフロントを向けタンクに掌を置いた。


「しっかり覚えてやるからな!」

 スロットルを開け加速を始める、此の場所は線路と併進出来て片側2車線の一方通行、交差する部分で地上に出るが其れ以外は掘り込まれた所を走る、基本風の影響も無い。

 掘り込まれた両側の擁壁に反射し木霊するエンジン音、其れがガラクタに生った俺の耳に届く。速度はどんどん上がり遂にメータ読みで大台を越え針は振り切れた。


「此の音がお前の絶好調の音なんだ!、もう二度と忘れまい直ぐに気付いてあげられる様に!」

 其の興奮で真っ直ぐ帰るのが勿体なくて、もう一往復して自宅へ帰る事に為る、しっかり体に刻み込めたと思う不調じゃない事が確認出来たので、嬉しく為り16号経由で安孫子線回りで随分遠回りして帰ったが…。


 その約2か月後退職が決まる。

 自分自身の考えと外的要因両方で、療養的には完治となった。


 偶々運が良かった、何故なら何も無い所に飛ばされた事、冬で有った事。

 もし運悪くホンの少し角度がズレて鋼材が積まれた所へ飛ばされたら命が有ったのかも判らない、作業用のヘルメットは左の頭部が割れて凹んで居たが頭部には掠り傷だったと言う、身体は冬用防寒装備をフル装備していたのが幸いし火炎の直撃防いで呉れ髪が焦げた程度で重度の火傷を負わなかった事、でも又同じ事が起きたら此処迄来た意味が無い、俺が全てを賭ける所は此処では無いから…。


 外的要因、此方は作業環境上常に大音響下に在る、其の場で仕事を続けると数年で重度の難聴に為り生活に支障をきたす事を告げられ、医師からも違う環境下の仕事に換える事を勧められた。


 上司に辞職願を申請し、会社としても事故で発生したもので以降身体的に障害が残るよりもと止める心算も無かったみたいだ。


 少額の見舞金を頂き、契約を個人に換えて今の借家に住み続けられるのが有難かった。

 月末で退職、其れまで労災扱い、以降有休消化とは言っても二週間程で以降は無職になり遊んで居られる様な貯蓄も無いから仕事探さないと…。

 仕事如何しようか考え当初の目的に沿った物で考えないと…。


 何時迄続けるのかも解らないので坂の上に在るコンビニに夜間に週四でバイトに入る事に決めた、人員不足も在り、人手が足りない時には追加出勤も出来る事で了承し即決と生る。


 次回からガラッと内容も雰囲気も明るく変わると思います。


此処から大きく流れが変わって行くとは当の本人も未だ知らない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る