第10話
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星になった彼等
星になった彼等
エピローグ
「Life 命は巡る」
リリリー
時計のタイマーの音で私は眼を覚ました。
朝に弱かった私も大分、すぐにベッドから起き上がれる様になった。
花に例えると、すっかり勿忘草が咲き終わる歳になった。
階段を降り、居間に向かうと、夫と史也が朝食を食べていた。
「母ちゃん、おはよう!」
「お! 里美、おはよう!」
外からは、雀の鳴き声が聴こえてくる。
穏やかな時間が流れる朝、私は夫と史也に、おはようと言い、出掛ける準備をした。
「今日も晴れて良い天気ね!」
私がそう話すと、彼等は微笑み、食べ終えたご飯のお皿を洗い始めた。
「母ちゃんも朝飯食べなよ!」
つい、この前まであんなに小さかった史也は、あの頃の彼と同い年、もう高校生になり、背丈も大分伸び、すっかり大人っぽくなった。学校では、何やらブレイクダンスというのをダンス部に入りやっている様だ。身体も随分と逞しく男らしくなった。
サラサラな茶色い髪の毛は小さい頃のままだが。
時間が過ぎるのは本当に早い。あの日々がつい、昨日の様に感じる時がある。
私は感傷に浸っていると、二階の部屋から、もう一人、娘の星子(せいこ)が二階から降りてきた。
「ママ、パパ、お兄ちゃん、おはよう!」
「あら、星ちゃん、偉いね、早く起きれたね。」
私は娘をヒョイと抱っこするとご機嫌そうに星子はニコニコと笑っている。
あれから、私達夫婦はもう一人の子宝に恵まれたのだ。史也とは大分、年も離れていて、まだ小学校中学年だ。
「さぁ、準備も済ませたし、そろそろ出掛けるか!」
夫の龍一が車のキーを手に取り、私達は玄関を出た。
「星子、お菓子持ったか?」
「うん、お兄ちゃん!」
子供達のやり取りを見ていると、素直で優しく育った愛しい彼らを本当に私は誇りに思い、温かい気持ちになった。
車に乗ると、家族皆で、ワイワイと話し、車内は賑やかだ。
目的地へ向かう途中、私はラジオを掛けた。
すると、ニュースの途中で何かの歌が流れた。
「夕闇迫る雲の上、いつも一羽で飛んでいる鷹はきっと悲しかろう、音も途絶えた風の中、空を掴んだその翼、休める事は出来なくて。心を何に例えよう、鷹の様なこの心、心を何に例えよう、空を舞う様な哀しさを~」
息子の史也が口を開いた。
「何か、切ない歌詞だけど、聞いてて落ち着くな、この曲。何でだろう? 懐かしい気持ちになるな~。母ちゃん、この曲何て歌??」
「さぁ、何て曲だろうね、フフフッ」
私はからかう様に史也に笑い掛けた。
「何だよー、母ちゃん、はぐらかして、」
彼はしばらく曲を聞き入っていた。
「私もこの歌好き!」
星子も無邪気に歌を聞いている。
やがて、私達は目的地へ着いた。
そう、季節は八月、お盆の時期。今日は史名のお墓参りの日なのだ。
綺麗に咲く木々は、まるで、今年もよく来たなと迎えてくれているみたいだ。
私達は彼の眠るお墓に着くと、誰か二人、懐かしい、見覚えのある人達がいた。
「あら、坂本さん!」
「おやおや、久しぶりじゃね~。」
神野さんと史名の祖母だった。
「本当にお久しぶりです!」
私達は偶然の、本当に久しぶりの再会に昔話に華が咲いた。
「坂本さん、小野さん、本当にお久しぶり、史也君も随分と大きくなって、妹も出来たのね、本当におめでとう!」
あれから、十数年経っているのに、神野さんは変わらず美しく、あの頃と変わらない優しい声で話した。
勤めたての新人だったあの日々を思い出し、私は無性に懐かしい気持ちになった。
彼女にはどれだけ助けられた事か、、
今ある自分の命も、あの時お腹に宿っていた史也も、そして星子も、皆、今ある命は、あの時、屋上で引き止めてくれた神野さんのおかげなのだ。
「神野さん、あの日々、本当に本当にありがとうございました。」
私は深々と頭を下げた。
そして私達はその場にいる全員で史名とハナが眠る墓石に皆で手を合わせた。彼が大好きだったカルピスを添えて。
そして、あの花屋さんで買ってきた花も、そっと添えた。
「史ちゃん、ハナ、嬉しいね、こんなに皆、貴方達を愛してる人達が来たよ。」
そう言い、史名の祖母は墓石を優しく優しく、まるで頭を撫でる様に触れていた。
「ねぇ、このおばあちゃんはだーれ?」
星子が無邪気に聞くと、史名はニッコリと微笑んで答えた。
「俺の大切な、ひいおばあちゃんだよ、星子!」
私達夫婦は史也が中学生になった頃、何故、自分は周りと違い、髪の毛が茶色いのか悩み何度も聞いてきた時に、彼の本当の出生の生い立ちを話したのだ。
当初は困惑していた時もあったが、彼は特に反抗する事もなく、「生んでくれてありがとう、この茶色い髪の毛も僕の宝だね!」と私達に言ってくれた。
父である史名譲りか、素直に優しい子に育った我が子を私達は誇りに思った。
「史也君、本当に大きくなったね~」
史名の祖母は、染々と史也のその茶色い髪の毛に触れ、史名を思い出したのか、うっすらと涙を浮かべ口を開いた。
「命は巡るんじゃね。」
その言葉に、史名と過ごした日々から、そして、今に至るまでの全ての時が深々と、私の頭の中で思い出された。
命は巡る、、そう、史名との日々は勿論、私達がこうして微笑み時を共にしているのは、全ての御先祖様達が、泣き笑い、懸命にその時代時代を生き、命を紡いでくれたからなのだ。百年前も、二百年前も、きっと人の数だけ愛があり、それぞれの人生があったのだ。(命は巡る。。)
私はこの言葉を何度も心の中で呟いた。
「じゃあ、史名、また、お彼岸の時期に来るからね。」
私達は名残惜しそうに皆でその場を後にした。
「坂本さん、それじゃあ、また、いつかね。家族四人で幸せな日々を過ごしてね!」
そう言い、神野さんは車に乗り去っていった。
私はずっと彼女への感謝を忘れない様に車がやがて、曲がり道を渡り、見えなくなるまで見送っていた。
私の後ろでは、史名の祖母と星子が楽しそうに話している。
「私ね、将来、歌手になりたいの!」
「あーら、そうなの、この婆ちゃんも応援しちょるよ、沢山、好きな歌を歌って上手になると良いね!」
「ありがとう、ひいばあちゃん!」
いつの間にか、星子もすっかり優しい彼女に懐き、ひいばあちゃんと呼んでいる。
「史也君、沢山、色んな事を経験して、人生を楽しむんじゃよ。ひいばあちゃんと話したくなったら、いつでも来なさい。じゃあ、私はバスが来たから帰るとするかぇの。」
そう言い、彼女は帰る間際、もう一度、史也の茶色い髪に触れニッコリと微笑み、また、私達夫婦にも手を振り、バスに乗り帰って行った。
私達も帰り支度を済ませ皆で車に乗り込み、その場を後にした。
木々で覆われた道をグングンと走る中、私はもう一度だけ振り返った。
(ありがとう、里美さん。)
一瞬、確かに彼の懐かしい声がした、、様に聞こえた。
やがて、家に帰り、食事を済ませると、もう時計は夜の七時半頃を指していた。
「ママのオムライス美味しかった、また、今度作ってね!」
星子は口にケチャップをつけながらニコニコとしている。
「うん、また、作ってあげる、星ちゃん! そうだ、夜空が今日は澄んでるから、皆でベランダで、お星様見ようか!」
「うん!」
娘は私の手を振り、ご機嫌そうに二階へと向かった。
「史也、俺達も星見ようか!」
夫も史也を連れ、ベランダに登ってきた。
「わー!お星様綺麗!」
星子はキラキラと光る夜空を夢中に見ていた。
「母ちゃん、何か二つ大きい星がやたら、綺麗に感じるよ、あれ、何て星だろう?」
史也もジーッと星空を見入っていた。
私と龍一は過去を思い出す様に、あの日、名前をつけた二つの星を見て、互いに見つめ合い、随分と時が経ったのを感じていた。
(史名、ハナ。。今日も貴方達は綺麗に輝いているね。)
史名、二人で過ごした、あの日々が今でも時々恋しくなる時があるよ。
こうして皆で、笑い合えるのも、貴方が、命を宿してくれて、そして、あの日、助けてくれたからなんだよ。
私達もいつか星になる、まだ何十年もずっと先の事だけど。でも、この地球や宇宙や、そして、星達が辿ってきた膨大な時間と比べると、その時はあっという間に訪れる。だから、星になったら、また皆で笑い合おう、
ありがとう、ありがとう、貴方がくれた沢山の幸せと命。
そして、いつまでも忘れない。あの日々、二人して勿忘草を眺めた日々を。
ありがとう、史名。
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–
尊い
–
ぐっときた
–
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–
好きです
–
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