雨漏りと猫(恋人)
📘 三題噺のお題(第2弾)
開かずの引き出し
猫の鳴き声
雨の日の手紙
補足ヒント(必要なら):
開かずの引き出し:物理的なものでも、心の比喩としても使えます。
猫の鳴き声:実際の猫でも、人の気配でも、幻想的なものでも構いません。
雨の日の手紙:手紙の存在に意味を持たせてもよし、読まれることを目的にしてもよし、渡されなかった手紙にしても面白いです。
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【本文】
雨の日は雨漏りが心配だ。
祖母から相続したこの木造一戸建てが私のマイホーム。だが、築50年を超えるこの家の状態にはいつも不安を感じている。
25歳の私の給料は少ない。大規模な修繕なんてできない。
私は買い物から帰宅すると、ポストを確認した。チラシと何通かの封筒が入っていた。
傘を閉じて我が家に入った。
要の無いチラシはすぐさまゴミ箱へ。紙資源がもったいないなぁ。そんなことを思う。
「お! ヒロくんからだ。珍しい」
ヒロくんは私の従兄妹。私よりも一回り年上だ。
私は居間に胡坐で座ると、ヒロくんからの手紙を開封した。猫のじゃこ丸(雑種)が私の膝の上に乗ってくる。じゃこ丸は私のパートナー(恋人)だ。人間の男なんてクソくらえ。
ヒロくんの手紙はちょっと意味不明だった。
「2階のタンスを開けろ? 何だろう……」
2階はあまり使っていない。祖母、そして祖父の遺品が残ったままだ。
私はじゃこ丸を膝から降ろすと、2階へ上がった。じゃこ丸は着いてくる。
2階にはタンスが二つある。一つは私が使っているから、ヒロくんが言うタンスはもう一つのものだろう。
私は普段使っていない部屋に入った。タンスは一つ。祖母か祖父が使っていたものだ。祖母が他界してからも、私はこのタンスを開けようと思ったことは無い。祖母が使っていたのかも不明だ。
タンスを開けようとした。
「あれ?」
一段だけ開かない引き出しがある。それ以外は祖父母の衣服が入っていた。
開かずの引き出しには鍵はついていない。では、なぜ開かないのか。私は力いっぱい引っ張ってみるが、びくともしない。
「何かが引っかかっている?」
私はつぶやくと、開かずの引き出しを観察した。原因はわからない。
私は開かずの引き出し以外を引き抜いてみた。残念ながら、開かずの引き出しの中身は見えなかった。
私は腰に手を当て、ため息をついた。ヒロくんに電話して聞こう。そう思った。
その時、じゃこ丸が「ニャー」と鳴いた。
私は屈んで、じゃこ丸を抱き上げる。
「どうした? お腹空いたか?」
じゃこ丸は暴れる。どうやら私が抱き上げたことが気に入らないようだ。こんなことは珍しい。私はじゃこ丸を畳に下した。
「ニャー」
じゃこ丸が再び鳴く。上を見ているように見える。
私は屈むと、じゃこ丸と同じ視点で上を見た。開かずの引き出しの下に、小さな穴が開いている。キレイな穴だ。意図的に開けた穴だと思えた。
私は家の中から針金を見つけてきた。針金を、開かずの引き出しの下に開いた穴に差し込んだ。何かを持ち上げた手ごたえがあった。私はその状態で引き出しを引いた。
引き出しはスッと開いた。理屈はわからないが、あの穴は鍵だったようだ。
私は引き出しの中身を確認した。きれいな小さな布袋が入っているだけだった。中身を確認すると、私名義の通帳と、封筒が入っていた。手紙のようだ。
手紙は祖母から私へのものだった。私は内容を読んで、顔をひきつらせた。
「ヒロくん、あの手紙何?」
私は夜になるのを待ち、従兄妹のヒロくんに電話した。
「ああ。無事開けられたのか。良かった」
「良かったじゃなくて、ちょっとひどくない?」
「でも、必要なものだっただろ?」
「そうだけど……」
祖母からの手紙の内容は、「この通帳のお金で家の修繕をしろ」というものだった。なぜこんな方法を取ったかも書かれていた。
簡単に言うと、「お前はお金の使い方に計画性がなく、変な男にいれこむところがあるから」ということだった。
腹は立つが、私は反論できなかった。
「おばあちゃんから、タイミングを見計らってお前にお金のことを伝えるよう頼まれていたんだ。そろそろ家の修繕が必要だったろ?」
「うん……ありがとう」
私は釈然としなかったが、ヒロくんにお礼を言った。
私は家の修繕をした。雨漏りの心配がなくなった。
私は猫のじゃこ丸(恋人)と、この家で仲睦まじく暮らしている。
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【感想】
上手く三題を盛り込んで話を作れたと思っています。話も平和だし。
あまり悩まずに作れた物語ですが、完成度はいかほどか?
「じゃこ丸」は、アニメ『魔神英雄伝ワタル』に登場するロボ(魔神)から名付けてます。
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